FRBの波乱は始まったばかり:市場のボラティリティに備える必要がある(元NY連銀総裁 ビル・ダドリー氏)
米国現地8月7日に行われた元NY連銀総裁 ビル・ダドリー氏に対する最新のインタビュー・コンテンツです。
逼迫した状態にあらずとも、景気後退は進んでおり、不況のリスクは高まりつつあるとしています。 しばらくは神経使うマーケットが続くのではないでしょうか。ご参考ください。
[主なトピックス]
FRBには十分な対策手段が残されているがこの数週間で、積極的な対応が必要となるリスクが大幅に増加している
労働市場の悪化は自己強化され、リセッションへのリスクを急速に高める
FRBの混乱は始まったばかり。株式市場と債券市場は、さらなるボラティリティに備える必要がある
ボルカー・モメントは再び訪れてこない
FRBはジャクソンホールで目標地を明確に伝えるべき
(1)プロローグ
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
今朝、FRBは引き続き慎重な姿勢を保っています。
最新情報です。FRBの関係者は、先週の雇用統計に過剰反応することを避けています。ニューヨーク連邦準備銀行の前総裁であるビル・ダドリー氏は、FRBの忍耐は誤った判断かもしれないと示唆しています。彼はこう書いています。「FRBの波乱はまだ始まったばかり。悪化する労働市場は自己強化的な傾向があり、FRBが待てば待つほど、被害の可能性が高まる。直ちに利下げが必要だが、その可能性は非常に低い。株式市場と債券市場のさらなるボラティリティに備える必要がある」です。
(2)インタビュー
[ジョナサン・フェロ]
ビル、詳細をお聞きするためにお越しいただきました。
まずは市場についてお話ししましょう。まず、今は景気が自己強化している段階で、もっと悪いことの始まりなのですか?
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
いくつかのポイントがあります。まず、失業保険の申請が増加しています。採用率の低下や離職率の低下も見られ、労働市場はかなり冷え込んでいるように見えます。また、「サームルール」と呼ばれる指標が発動しました。失業率が12か月間で0.5%以上上昇すると、過去の経験では必ず景気後退に陥っています。このため、労働市場に関しては大きな下振れリスクがあります。
一方、インフレに関するニュースは非常に良好です。したがって、FRBは現在、雇用とインフレの両方の目標を同等に重視する必要があります。これは、金融政策が中立であるべきことを意味しますが、現状は中立とは程遠いです。中立的な金融政策が正確に何かは明確ではありませんが、誰も5.25%や5.5%のFFレートが中立と一致しているとは思っていません。おそらく3%から4%の範囲がFRBにとって適切な水準でしょう。
[モハメド・エル=エリアン](Bloomberg)
あなたの見解はウォール街で大きな影響を与えています。そこでお聞きしたいのですが、もし即時の利下げが現実的でないと考えているのであれば、そしてFOMCに向けて動かないのであれば、今後数週間でFRBが取るべき行動についてどうお考えですか?
[ウィリアム・ダドリー]
FRBが取るべき行動は、メッセージを少し変えて、雇用面の目標により重点を置いていることを明確にすることです。次の6週間で弱いデータが続く場合、9月のFOMCで50ベーシスポイントの利下げが非常に高い確率で行われると市場に認識させるべきです。データが同じ方向に続くのであれば、50ベーシスポイントをしっかりとテーブルに置くことを明言すべきです。
[モハメド・エル=エリアン]
FRBがそのような行動を取る可能性はあると思いますか?これまでは過去のデータに重きを置いた判断をしてきましたが、今はナラティブを再び掌握する必要があります。例えば、ジャクソンホールでの発言だけでそのナラティブを再び掌握するのに十分だと思いますか?
[ウィリアム・ダドリー]
それが効果的でしょう。なぜならFRBが状況を把握していると人々が感じれば、金融状態はより緩和的になり、株式市場も回復し、経済への支援となります。問題は、労働市場が悪化し始めると、信頼が低下し始めることです。ここ数日間の市場の大きなボラティリティからも、それが見て取れます。市場のセンチメントが悪化すると、それが自己強化的になる可能性があります。人々は採用や支出を控え始め、気がつくと失業率が0.5%ではなく1%か2%上昇し、不況に陥っているかもしれません。
しかし、良いニュースもあります。経済が弱くなれば、FRBには十分な対策手段があります。短期金利はまだゼロパーセントには程遠いので、必要に応じて積極的に対応することができます。最近の数週間で、積極的な対応が必要になるリスクが大幅に増加していると思います。
[Bloomberg]
その点について掘り下げたいのですが、あなたは2週間前、FRBの決定前や雇用データ発表前に、7月に行動を起こさないと景気後退のリスクを高めると発信されていました。そして、それは実際に起こりました。現在のリスクはどれほど深刻だとお考えですか?
[ウィリアム・ダドリー]
経済のいくつかの分野にかなりのストレスがかかっていると考えています。まず、低所得世帯が大きな影響を受けています。パンデミック中に蓄えた貯蓄が尽き、さらにクレジットカード債務や自動車ローンの金利が高くなっているからです。次に、住宅部門、特に多世帯住宅の建設に弱さが見られます。これらの弱体が労働市場の軟化につながっており、その軟化した労働市場が重要なポイントになっています。
労働市場の軟化は消費者を不安にさせ、消費が弱くなり、そしてそれが自己強化的になっていきます。
[Bloomberg]
多くの人が混乱するのは、弱点がある一方で強い点もあるということです。たとえば、Airbnbに問題がある一方で、ディズニーは価格を上げることができ、Uberのようなサービスには依然として需要があります。低所得者層が急激に支出を減らしているのか、それとも単に支出先を慎重に選んでいるのかをどう区別しますか?
[ウィリアム・ダドリー]
確かに区別するのは難しいですが、高所得者層は比較的好調です。低金利で住宅ローンを固定しており、強い株式市場の恩恵を受けています。最近の株式市場の下落にもかかわらず、今年は10%以上の上昇を記録しています。そのため、高所得者層は依然として楽観的ですが、低所得者層はそうではありません。
さらに、投資面でもいろいろな動きがあります。バイデン政権のいくつかの施策が投資支出を後押ししました。インフラ、CHIPS法、気候対策などです。これらのプログラムからの投資の推進力がどうなっているのかが問題です。もしそのピークが過ぎたのであれば、今後数か月で別の制約要因となる可能性があります。
[Bloomberg]
お話できてよかったです。今朝のコメント、いつもながら感謝いたします。元ニューヨーク連邦準備銀行総裁のビル・ダドリーさんでした。
(3)ラップアップ
[ジョナサン・フェロ]
ムハンマド、最後にいくつかお伺いしたいのですが、過去2年間、金融政策が十分に制約的かどうかを議論してきましたが、現在の金利についてどの程度意見がずれていると思いますか?
[モハメド・エル=エリアン]
ビルの話を聞いてみると、特に労働市場についての彼の意見からすると、我々はかなり見当違いである可能性が高いです。現状は非常に制約的と言えます。
[ジョナサン・フェロ]
100ベーシスポイントのオフサイドのようなことですか?
[モハメド・エル=エリアン]
そうですね、より興味深い議論は目標がどこにあるかという点です。最終的に何が目的地なのかについては、ここで大きな見解の相違があると思います。目的が4%台なのか、それとも3%未満なのかという点です。
[ジョナサン・フェロ]
現在、市場は確かにその道筋に注目していますね。あなたもこれに焦点を当てているようです。ボルカーの登場を待ち望みながら、同時並行でどうするのか?システムには「ボルカー・モーメント」(※)が必要だとおっしゃっていますね。
[モハメド・エル=エリアン]
そうですね。中央銀行が躊躇するたびに、市場は次の局面をさらに難しくしています。今朝も日本銀行が躊躇しました。ボルカー・モーメントとは、1980年代に元FRB議長のポール・ボルカーが持っていたような勇気を持ち、特定の考え方を一度で完全に打破することを指します。彼はインフレに対する考え方を一度で完全に変えました。しかし、現在は誰もそのボルカー・モーメントをもたらしたいと思っていません。
(Bloomberg)
もっと悪い状況、例えば月曜日の出来事よりもさらに悪いことが起きないと、FRBを揺さぶり、あなたが言っているような行動を取らせることはできないのでしょうか?
[モハメド・エル=エリアン]
そうですね、そう思いますが、同時に「私はこれを最後までやり遂げる」と言える自信を持った人が必要です。これまでそのような人物がいなかったのが現状です。
(Bloomberg)
現状を見る限り、彼らが変わるとは思えません。
[モハメド・エル=エリアン]
ええ。何か悪いことが起きるまで、この繰り返しのゲームが続くでしょう。
[ジョナサン・フェロ]
FRBはジャクソンホールで目標地点を明確に伝える必要があるのでしょうか?
[モハメド・エル=エリアン]
ええ。絶対に伝える必要があります。
[ジョナサン・フェロ]
それをどうやってするのでしょうか?
[モハメド・エル=エリアン]
「我々はこれを検討しました。現時点でこの方向に進むのが正しいという直感です。この道を進んでいきますが、情報が増えるにつれて進路を修正するでしょう。ただし、この市場のアンカーになることがどうしても必要なのです。」と言うでしょう。
[ジョナサン・フェロ]
ムハンマドさん、感謝します。この経済の転換点を見事に捉えています。
(4)オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Podcastより
Original Published Data : 2024/08/07 EST
以上です。
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だうじょん
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