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肥満問題と医療の未来に挑む:イーライリリー(デイブ・リックスCEO)

 プライベート・エクイティ・ファームであるカーライル・グループの創設者、デヴィッド・ルーベンスタイン(David Rubenstein)氏が各界の著名人を招いて行う「The David Rubenstein Show」というトークショーより、2025年1月09日に公開されたイーライリリーのCEO デイブ・リックス(Dave Ricks)氏のインタビュー・コンテンツを紹介します。

 イーライリリーは、直近の時価総額が7080億ドルに達し、競合する他の製薬企業を大きく上回り、世界の製薬業界でトップの地位を確立しています。この驚異的な成長の背景には、近年の画期的な新薬の開発と市場投入が大きく寄与しています。特に、糖尿病治療薬「マンジャロ」は、第二型糖尿病の治療における高い有効性が評価され、発売後短期間でブロックバスター薬となり、同社の収益を大きく押し上げました。さらに、肥満治療薬「ゼップバウンド」の市場投入も注目されており、マンジャロと同じ有効成分であるチルゼパチドを基に開発されており、体重減少に対する顕著な効果が臨床試験で確認され、肥満が健康問題として世界的に増加している中で、昨年FDA(米国食品医薬品局)による承認を受け、肥満治療の新たな選択肢として患者や医療専門家からの期待を集めており、マンジャロに続く同社の次の収益の柱になる可能性を示しています。
 そのようなイーライリリーのCEOのインタビューから、製品の開発秘話や同社の成り立ち、今後の製品開発やビジョンについて伺い知ることができます。ご参考下さい。


尚、このインタビューは、2024年12月10日に「the Economic Club of Washington DC.」の会合で行われ、収録されたものです。





1.インタビュー




(0)イントロ


[デビッド・ルーベンスタイン]
 今、最も画期的な薬のひとつとされているのが抗肥満薬です。この分野で先頭を走る企業のひとつがイーライリリーです。同社は過去5年間で大きく変貌を遂げ、現在では世界で最も価値のある製薬会社となっています。先日、イーライリリーのデイブ・リックス氏にお話を伺い、抗肥満薬の驚異的な影響と、それがアメリカをどのように変えているのかについて語っていただきました。



(1)Zepbound


[デビッド・ルーベンスタイン]
 抗肥満薬という、ある意味で世界を変えた現象についてお話しましょう。まず、皆さんが話についてこれるように、あなたの抗肥満薬の名前は何ですか?


[デイブ・リックス](イーライリリー)
 名前は「ゼップバウンド」です。有効成分は「ティルゼパチド」と呼ばれています。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 ところで、その名前って誰が考えるんですか?どこからそういう名前が出てくるんですか?


[デイブ・リックス]
 私ではないですよ、デイビッド。薬の名前が似ていると、医師が処方ミスをする可能性があります。また、薬がどんな効果を持つかを暗示するような名前や、英語でしか通用しない名前も使えません。結果として、こういったちょっと奇妙な名前になってしまうんです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 その薬が発見されたのはいつですか?開発の段階で、それが意図されていたものだったのでしょうか?


[デイブ・リックス]
 2005年に、私たちは世界で初めてのGP1薬を発売しました。その薬はエクセナチドと呼ばれ、1日2回注射するタイプで、糖尿病の方を対象としていました。この薬が私たちの初めての試みでした。翌年の2006年には、年次報告書の表紙にその薬を使用していた女性が登場し、彼女は「糖尿病がコントロールできて、少し体重も減ってきました」とコメントしていました。このエピソードは、2006年の年次報告書の中で紹介されています。ただ、体重減少の効果をさらに高めるためには、薬の改良が必要でした。
 その大きな改良の一つが、週1回の投与形式に変更したことです。週1回にすることで利便性が向上しただけでなく、薬の効果がより安定するようになりました。1日2回の投与では効果に波があり、これがGP1薬による吐き気や他の消化器系の不快感の原因となっていました。しかし、週1回にすることで薬の効果が一日中均一になり、副作用も軽減されました。この改良により、より高い投与量を使用できるようになり、体重減少効果がさらに見られるようになりました。実は、この改良はより便利な形を目指していた中での偶然のブレークスルーでした。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 デンマークに拠点を置くノボ ノルディスクという企業も、同じようなビジネスを展開していますね。彼らも似たような製品を持っていて、一つは肥満対策用、もう一つは糖尿病用として提供されていますよね。これらの薬に、実際のところ何か違いはあるのでしょうか?

 

[デイブ・リックス]
 実際のところ、糖尿病用と肥満対策用として名前が付けられている薬の間に、薬そのものの違いはほとんどありません。どちらの会社でも、保険の理由でそういった区別をしているだけです。この点については別途詳しく話すこともできますが、ここではティルゼパチドについてお話しします。この薬は最新のバージョンで、2つの作用機序を持っています。
 ちょうど昼食を食べたばかりだとすると、消化管が体の他の部分とコミュニケーションをとっている状態です。ホルモンやタンパク質を通じて、食事を摂ったことや栄養を吸収する必要があること、そして生命維持に欠かせない他のことを伝えています。食事は生きるために必要ですからね。この薬では、そのような信号を強化しています。満腹感を感じる信号、これ以上食べる必要がないという信号、そして摂取した栄養を吸収すべきという信号を高めるよう作用します。
 私たちの薬は、GLP1と呼ばれるホルモンと、GIPという新しいホルモン、この2つを利用してこれを行います。一方で、セマグルチド(遺伝子組換え)はGLP1のみを使用して作用します。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 この薬の効果としては、実際には以前ほど満腹でない場合でも、体に「満腹だ」と感じさせる仕組みになっています。


[デイブ・リックス]
 この薬は、体に「満腹だ」という信号を伝える働きをします。その信号は脳に作用して送られます。私たちは経験を通じて、満腹感の感覚が条件付けられていくことを学びました。人々が習慣的により多く食べるようになると、この満腹の信号が発動するタイミングがどんどん遅くなり、それが肥満の原因であり結果でもあります。
 この薬は他にもいくつかの働きをします。例えば、胃の動きを遅くすることで、胃をより満たされた状態にします。これは一見すると逆効果のように思えるかもしれませんが、実際には摂取した栄養の消化を遅くするのです。これには進化的な背景があります。約1万年前、私たちの祖先の時代には食事を取れる機会が限られていました。そのため、摂取した食事から可能な限りすべての栄養を吸収することが重要だったのです。この薬の信号も、「栄養をしっかり吸収せよ」と伝える働きをしているのです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 さて、混乱させたくはないのですが、これらの薬には覚えておくべき名前が4つあります。まず、抗肥満薬の名前は何ですか?


[デイブ・リックス]
 ゼップバウンドです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 ゼップバウンドですね。そして糖尿病薬の名前は?


[デイブ・リックス]
 マンジャロです。同じ薬ですが、名前が違うだけです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 数日前に発表された研究がありましたよね。その研究によると、抗肥満薬の方がもう一つの商品と比べて、体重減少のスピードが速いという結果だったそうですが、それで合っていますか?


[デイブ・リックス]
 より迅速に、そしてさらに効果的に作用します。当社の薬を使用した場合、1年半ほどで、他の薬、例えば、ウゴービ(WeGo)を使用した場合よりも約17ポンド(約7.7キログラム)多く体重が減少しました。その差は47%にもなります。



(2)米国における肥満


[デビッド・ルーベンスタイン]
 この国では本当に多くの人が体重を減らす必要がありますよね。たしか、私の記憶が正しければ、国民の75%が太りすぎで、そのうち42%が肥満だそうです。いつの間にこんなに肥満が増えてしまったんでしょうか。


[デイブ・リックス]
 疫学データを見てみると、肥満や過体重の増加は1960年代から始まったように見えます。そして、その増加は1980年代から1990年代にかけて急激に加速しました。その原因はいくつか考えられますが、生活様式が変わったことが一因であるのは間違いありません。また、エネルギー消費量の減少もこの話の一部でしょう。
 しかし、より重要なのは「何を食べているか」という点だと思います。この期間に食事量がわずかに増えたことだけでなく、食品の内容そのものが変化したことも大きな要因だと思います。この食品の質の変化が、肥満の増加にもつながっていると考えられます。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 それでは薬の話に戻りましょう。その薬が体重を減らせるとわかった時点で、FDAに認可を求めましたか?それとも、まだ体重減少目的で処方はできない状態なんでしょうか。


[デイブ・リックス]
 いいえ、昨年から正式に体重減少用として発売しました。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 保険会社は、この薬の費用を補償してくれるんですか?


[デイブ・リックス]
 一部では対応が進んでいますが、もっと広がるべきです。現在、連邦政府はこれらの薬に対する保険適用を禁止しています。これは大きな問題だと思います。ただし、バイデン政権が最近、その規制を変更するためのルール作りを進めました。これは良いニュースですし、次の政権にもこのプロセスを継続してほしいと願っています。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 体重を減らすことが健康に繋がるなら、保険会社やメディケアなどがこの薬の費用を補償しないのはなぜでしょうか?健康を改善することで、将来的に他の病気の補償を減らせるはずなのに。


[デイブ・リックス]
 4年から5年後には、振り返って「ああ、あれは当然の流れだった」と思うようになるのではないでしょうか。すでに明らかになっている健康への悪影響、つまり体重過多の問題に対して適切な対策を取らないことが不合理だと感じるはずです。ただ、人にはさまざまな動機や利害関係がありますよね。例えば、雇用主が従業員の長期的な健康に強い関心を持っている場合もあります。そのため、こうした企業が積極的に取り組む姿勢を見せているのかもしれません。
 私たちの役割は、単に体重を減らすだけでなく、私たちの薬による減量が健康改善につながるという証拠を示すことです。今年はその点を証明する多くの研究結果が発表されています。



(3)錠剤の開発


[デビッド・ルーベンスタイン] 
 この薬を使うには、自分で注射しないといけないんですよね。でも、なぜ錠剤じゃないんでしょう?


[デイブ・リックス]
 いいアイデアですね。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 ええ。


[デイブ・リックス]
 現在、その開発に取り組んでいます。この注射は、タンパク質が成分であるため必要なんです。タンパク質を経口で摂取すると、体がそれを食物と認識して分解してしまうので、こういった薬を飲み薬として摂取することは難しいのです。胃腸を通さずに血流に直接届ける必要があるというわけです。ただ、経口薬の開発にも取り組んでおり、実際、来年にはデータを発表できる予定です。
 この経口薬はGP1単独の作用になります。単一作用型で、ティルゼパチドやゼップバウンドほどの効果は期待できませんが、これは1日1回の服用で済む薬になる予定です。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 この薬を使うと、あまり好ましくない副作用が出ることがあるって言う人もいるようです。それは本当ですか?


[デイブ・リックス]
 すべての効果がある薬には副作用がつきものですし、時には長期的な影響についても注意が必要です。そのため、私たちは厳密に管理された研究を行い、それらを慎重に測定しています。多くの人が服用開始時に軽度から中程度の胃腸の不調を感じることがありますが、これは徐々に薬の量を増やしていくことで対応しています。
 初めは低い用量から始め、少しずつ増やしていくことを推奨しています。ほとんどの人はこの調整の過程を経て薬を継続して服用し、3か月から4か月目にはそういった影響がほとんどなくなります。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 例えば、この薬を使って体重を減らして、「体に満足したから、薬をやめよう」と思ったとします。その場合、また体重が戻ってしまうのを防ぐのが難しいと言われているようですが、それはどうでしょうか?


[デイブ・リックス]
 その通りです。そして、それには科学的な理由があります。一部の人は減量を維持したり、ある範囲内で体重を保つことができますが、それには多くの生活習慣を変える必要があります。エネルギーをより多く消費し、食べるものも変える必要があります。もちろん、私たち全員がそれを試みるべきだと思います。実際、そうする価値は十分にあります。
 しかし、どうしてもそれが難しい人もいます。最近、Nature誌に掲載された論文では、その理由について詳しく説明されていました。一度肥満になると、脂肪細胞がその状態を新しい基準として学習し、その状態を維持しようとするのです。そのため、より多くのエネルギーを欲するようになり、それが脳などにシグナルを送るという仕組みです。一度体重が増加し、その状態が一定期間続くと、「サーモスタット」をリセットして体重を元の状態に戻すのは非常に難しいということです。
 そのため、現時点では、薬を使用して減量を維持できない場合には、薬を再び使用し、慢性的に続けることを推奨しています。

 


(4)イーライリリーの歴史


[デビッド・ルーベンスタイン] 
 イーライリリーについてお話ししましょう。この会社が設立されたのはいつでしょうか?


[デイブ・リックス]
 イーライ・リリー大佐は、南北戦争に従軍した人物で、薬剤師としての訓練を受けていました。彼は歩兵および砲兵部隊を指揮し、戦争中にアラバマ州で捕虜となった経験もあります。南北戦争での医療の悲惨さを目の当たりにした彼は、「製品に含まれる成分はすべてラベルに記載し、透明性を持つ」という誓いのもとで会社を設立しました。
 その会社は後に、科学的方法を採用し、自然由来の製品を基にした医薬品を改良する取り組みを進めることで発展していきました。1876年当時の薬はほとんどが自然由来のものでしたが、それを洗練させ、現在私たちが考える「医薬品」へと進化させるプロセスを採用したのです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 イーライリリーは20世紀に進化する中で、どのような主力製品を手がけてきたのでしょうか?


[デイブ・リックス]
 インスリンの開発は、現代的な企業としてのイーライリリーの出発点となりました。1型糖尿病という深刻な病状に対する画期的な治療法として、インスリンの製造方法を発明し、その製品を世界中に普及させるビジネスを築きました。その後、ペニシリンが続きます。第二次世界大戦中、リリーは陸軍のための主要な抗生物質製造業者の一つとして任命されました。
 その後、リリーは40年にわたり抗生物質の改良を続け、現在でも使用されているバンコマイシンのような薬も開発しました。これは、最悪の感染症に対する最終防衛ラインとして知られています。また、プロザックの開発でも有名であり、これにより現代精神医学が大きく進展しました。そして現在では、マンジャロやゼップバウンドといった製品へと続いています。



(5)将来のプロダクト


[デビッド・ルーベンスタイン]
 将来、どのような人間の課題に取り組む予定ですか?アルツハイマー病がその一つだと考えてよろしいですか?


[デイブ・リックス]
 私たちの会社について考えるとき、科学的な方法を用いて難しい課題を解決する医薬品を開発することが使命だと捉えています。小さなニッチな問題にはあまり関心を持たず、大企業として取り組むべきなのは、規模が大きく、人々の生活に最も影響を与える困難な問題だと考えています。これが私たちのビジネスの原動力であり、人類に対する最大の貢献でもあります。
 そのため、私たちは一般的でありながら難治性の疾患を選んで取り組んでいます。アルツハイマー病の例が挙げられるように、神経変性疾患は多くの人にとって最も恐ろしい病気の一つです。パーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、アルツハイマー病といった疾患について、30年にわたり科学的な研究に投資してきました。そしてついに、初めての治療薬を発売し、そのプロジェクトから30年越しの収益を得られる段階に至りました。
 現在、その治療薬の予防効果を検証する研究も進行中で、アルツハイマー病の治療に革命をもたらす可能性があります。また、パーキンソン病やALSといった他の神経変性疾患についても、科学の進歩によって治療の可能性が見えてきています。これからも、この分野に大規模な投資を継続していく予定です。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 新しい政権が発足することについて懸念はありますか?トランプ次期大統領とお会いして、問題について話をされたことはありますか?


[デイブ・リックス]
 医療は常に注目されるテーマであり、私たちの役割や医薬品の手頃な価格についても重要な課題です。多くの方が、ゼップバウンドのような素晴らしい薬を開発し、それを国内で製造する強力なバイオ製薬産業を求めていると思います。例えば、リリーがその一例です。しかし同時に、製品が安価で誰もがアクセスできる状態であってほしいという声もあります。これらすべてを同時に解決するのは簡単ではありませんが、進展を図ることは可能です。例えば、かつて私たちはインスリンの価格について課題があると言われていました。特にアメリカでは、インスリンが高額だと批判されていましたが、その価格を引き下げることができました。このように、課題に取り組むことで解決策を見つけることができると考えています。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 新しい政権の誰かと既に会ったことはありますか?


[デイブ・リックス]
 そうですね、先週、フロリダで夕食を共にしたことが報道されていたと思います。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 その時はどんな感じでしたか?太りそうな食事が出されたんですか?それとも、そういうのは避けてくれたんですか?


[デイブ・リックス]
 あまり詳しくは言わない方がいいかもしれませんが、想像以上のものでした。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 では、あなた自身の経歴についてお聞きします。どちらでお生まれになったんですか?


[デイブ・リックス]
 私はインディアナ州ブルーミントンで生まれました。生まれながらのフージャー(インディアナ州の住民や出身者を指すニックネーム)ということになりますね。ただ、その当時、父はインディアナ大学の大学院生だったので、私たちはすぐに引っ越してカリフォルニアに移りました。母はカリフォルニア出身で、私はベイエリアで育ちました。その後、両親の足跡をたどるようにして、再びインディアナに戻り、パデュー大学に進学しました。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 そこで何を学ばれたのですか?


[デイブ・リックス]
 私はビジネスと工学を学び始め、最終的にはその両方を組み合わせたインダストリー管理の学位を取得しました。その後、ニューヨークでIBMに就職しました。入社した時点では株価が過去最高でしたが、退職する頃には過去最低になっていました。90年代初頭は、IBMにとって厳しい時期だったのです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 イーライリリーには何年に入社されたのでしょうか?


[デイブ・リックス]
 私はIBMを辞めて、当時の彼女、今の妻を追いかけてインディアナに戻りました。彼女はインディアナ大学の医学部に通っていたんです。そこで私も何かしようと思い、インディアナ大学のMBAプログラムに入学しました。MBAは2年で修了しましたが、医学の学位は4年かかるので、まだインディアナで何かをする必要がありました。その結果、リリーに入社することになったんです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 入社当初の役職はどのようなものでしたか?


[デイブ・リックス]
 私は、財務や事業開発部門でM&A取引を担当する部署に所属していました。それは、とても良いキャリアのスタートでした。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 CEOになるつもりだと考えたことはあったのでしょうか?


[デイブ・リックス]
 当時は全然そんなことを考えていませんでした。実際、「ここで2年働いたら、シカゴかサンフランシスコに移って別のことをしよう」と思っていました。でも、リリーという会社に恋をしてしまったんです。本当に素晴らしい場所で、人間味あふれる文化がありながら、厳格で科学的な面も持ち合わせています。賢い人たちが多く、要求水準も高いですが、皆が互いに親切です。それがミッドウエストらしさだと思います。そして、何よりもそのミッションに心を奪われました。人々のための薬を作るという仕事が、他にどれほど素晴らしいことがあるでしょうか。
 私がある糖尿病の薬を共同開発し、会社に導入する仕事をしていた時期がありました。そしてちょうどその仕事を離れる頃、母が糖尿病と診断され、その薬を使うことになったんです。その時、私たちがしている仕事の意義が本当に強く実感されました。「これこそが自分の時間を使う価値のある仕事だ」と思いました。そして妻に「ここに残ろう」と話しました。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 いつ頃から自分がCEOになる道を歩んでいると気づかれたのですか?それは、例えば5年前くらいのことでしょうか?


[デイブ・リックス]
 その後、かなり時間が経ってからのことです。最初の仕事を終えた後、市場運営の仕事をいくつか経験しました。カナダ事業を統括した後、約2年半中国に赴任し、中国事業を担当しました。すると突然、新しいCEOから呼び戻されました。彼は「アメリカ事業を担当してほしい」と言うのです。私は「まずは中国での仕事を最後までやらせてもらえませんか?」と言いましたが、彼は「いや、今すぐ戻る必要がある」と答えました。おそらくこの頃から、何かもっと大きな役割のために育てられているのだと感じ始めました。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 今では、お子さんが3人いらっしゃいますよね。


[デイブ・リックス]
 ええ、しばらくの間に子どもが3人できました。今ではみんな若い大人に成長しています。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 そうなんですね。それで、お子さんの中で、体重管理プログラムやそういったことに興味を持たれている方はいらっしゃいますか?それとも特にそうではないのでしょうか?


[デイブ・リックス]
 息子はAIコンサルタントをしているので、医療関係ではありません。一方、娘は細胞生物学の修士課程に進んでいて、医学部にも興味があり、医療や医学の道を考えています。彼女とは体重減少薬についてよく話をします。そして、末っ子の息子はパデュー大学で地質学を学んでいるので、これからどんな道に進むのか楽しみです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 リラックスしたり体調を整えるために何をしていますか?薬に頼っているわけではないですよね?とても健康そうに見えますし、たくさん運動をしていると思いますが。


[デイブ・リックス]
 私は現在、薬を使っているわけではありませんが、必要になれば迷わず服用すると思います。ただ、一番の薬は予防することだと思っていて、運動に気を配ることは常に大事にしています。それはストレスを軽減する方法でもあります。以前はランニングが大好きでしたが、今はもう走ることはなく、他のアクティビティを楽しんでいます。ハイキングやバックカントリースキーなどのアウトドア活動が好きで、ゴルフも楽しみます。外に出ることで、健康と心の平穏の両方を得られると感じています。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 これまでのイーライリリーでの成功は素晴らしいですね。もしアメリカ合衆国の大統領が、あなたに保健福祉長官を務めてほしいと言ったら、どう返答しますか?


[デイブ・リックス]
 おっしゃる通り、会社は非常に順調ですが、私たちはさらに多くのことを成し遂げたいという強い思いを持っています。現在、体重減少薬のストーリーはまだ始まったばかりです。今のところ、この薬を使用しているアメリカ人は600万~700万人ですが、肥満の方は1億1000万人に上ります。もっと多くの製造拠点を作り、データを蓄積し、保険適用の範囲を広げる必要があります。その上で、世界全体にも目を向けなければなりません。予測では、5年後には地球上で肥満の人が10億人に達するとされています。この問題は、これまでアメリカで見られた以上に、発展途上国で大きな課題となるでしょう。私たちには、最大限の影響を与えるために、まだまだ多くの仕事が残されています。



(6)偽造医薬品


[デビッド・ルーベンスタイン]
 非常に人気のある薬がある場合、偽造薬や模倣薬を作る人が出てくるものです。この点についてどうお考えですか?偽造薬が出回り、同じ効果を謳う製品について心配する必要はありますか?


[デイブ・リックス]
 現在、これは非常に大きな問題になっています。消費者は危険性や違いについて、あまり理解していないと思います。現在、FDAや政府はこうした状況が広がることを許しているようです。そして、効果のある体重減少薬というのは、多くの人が医療システムを避けて自分で治療を求めるために、非常に人気のあるものになるでしょう。ただ、私たちが持っているデータでは、これらの薬の80%が中国から来ており、未承認かつ規制されていない供給源からのものです。最近、税関と協力して、大量の薬がドッグフードの形で発送されていたのを押収しました。人々はそれを再加工して、地元でメディカルスパや他の施設で販売しています。しかし、そのバイアルに何が入っているのか本当に分かりません。私たちが購入してテストしたところ、細菌、植物由来の物質、ウイルス、真菌などが検出されました。こういったものを使用したくないのは明らかです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 では、御社の薬は偽造薬と比べてどれくらい高価なのでしょうか?例えば、御社の製品であるゼップバウンドを使用したい場合、1か月あたりの費用はどのくらいになりますか?


[デイブ・リックス]
 ゼップバウンドは、スターターでリリーから399で直接購入できます。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 3ドル99セントですか?


[デイブ・リックス]
 いいえ、これは貴重なイノベーションです、デイビッド。399ドル、月額399ドルです。週に約100ドルという計算になりますね。多くの人にとってこれは負担になると思いますが、これは保険がない場合の金額です。保険がある場合、ほとんどの人は月額25ドルで利用できます。それが保険の重要性であり、私たちが保険に加入する理由です。医療費から私たちを守るためです。一方、オンラインで提供されているものは100ドル程度と安いですが、これらは製薬会社としての利点をすべて享受しながら、その責任を全く負わない企業が提供しているものです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 では、現在の御社についてお伺いします。従業員数はどのくらいですか?


[デイブ・リックス]
 約4万4千人です。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 本社はインディアナポリスにあるのですね?


[デイブ・リックス]
 はい、その通りです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 製薬の製造はどちらで行っていますか?主にアメリカ国内でしょうか、それとも海外が多いのでしょうか?


[デイブ・リックス]
 主にアメリカで、そしてヨーロッパでも大多数を占めています。これらが私たちの生産の二大拠点です。アメリカでは現在、多くの工場を建設しており、そのほとんどがゼップバウンドとマンジャロの支援を目的としています。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 いつ頃、この薬が非常に画期的であり、御社が世界で最も価値のある製薬会社になると確信されましたか?しかも、それが4倍から5倍の規模であると。


[デイブ・リックス]
 何かの規模を正確に把握するのは難しいですが、ティルゼパチドやゼップバウンドの物語は、私にとってこうした経緯があります。2016年、私は次期CEOとして指名されました。その秋、糖尿病研究グループの科学者の一人から、シンガポールの拠点で進めていたゼップバウンドの成分であるティルゼパチドを用いたフェーズ1試験の初期結果について連絡を受けました。試験を中止せざるを得なかったのは、参加者が体重を減らしすぎて試験を続けられなくなったからです。当初、この結果は懸念材料として受け止められていましたが、次第に「ちょっと待てよ、これは非常に特別なことかもしれない」と捉えるようになりました。そこで、次の開発段階、つまりより大規模な試験で安全性と有効性を確認するフェーズ2へと進むことを急ぎました。
 その瞬間を鮮明に覚えています。ちょうど娘をカリフォルニア大学バークレー校に案内していたとき、ローンス科学館の外に立っていました。そのとき電話がかかってきて、チームが飛行機から降りたばかりで結果を確認したというものでした。その結果、より長期間の試験で参加者が体重の20%以上を減少させたことが分かったのです。それが2018年4月のことでした。その年の後半にその結果を公表しましたが、おそらくリリー社のその後の成長は、その時点からの実行力によるものだったと言えるでしょう。


[デビッド・ルーベンスタイン]
この成功の功績はあなたにあるのでしょうか?この成果を生み出した責任者はあなたですか?


[デイブ・リックス]
 もちろん、CEOとしてこのプロジェクトに関わる役割はありますが、それを私の功績だと言うのは大げさすぎます。功績はまず第一に科学者たちにあります。例えば、GLP-1のような自然界では数秒しか持続しないタンパク質を、1週間持続する注射に変えるというプロセスがあります。これは非常に難しい薬理学の課題ですが、私たちにはそれを実現できる人材がいます。また、臨床試験やその他すべてを実行する能力を持つ人々もいます。このような機会を見つけ、それを追求するために、日々24時間体制で取り組む人たちがいます。私たちの工場は常に稼働しており、まさにチーム全体で行う大規模なプロジェクトです。


[デビッド・ルーベンスタイン]
 今後、御社をどの方向に進めたいとお考えですか?現在お持ちの薬以上に成功するものを見つけるのは難しいでしょう。これを引き続き推進するという方針ですか?


[デイブ・リックス]
 まず、肥満と代謝健康の分野で、特に興奮している点が二つあります。一つ目は、現在市場に出ているティルゼパチド、マンジャロ、ゼップバウンドの存在です。それに加えて、同じ課題に取り組むための11のパイプラインプロジェクトが進行中で、それぞれ異なるアプローチを取っています。例えば、体重がさらに高い方や健康上の問題が深刻な方を対象とした三重作用の薬がフェーズ3段階にあります。また、経口薬のプロジェクトや、それ以外にも9つのプロジェクトがあります。この分野は、異なる状態や状況に対応するさまざまなタイプの薬を提供することで非常に大きなセグメントになると考えています。私たちはこれを最大限に活用するつもりです。
 二つ目は、肥満と関連する心血管健康や糖尿病について多く議論されていますが、これらの薬が、体重に直接関係しないと思われる他の問題にも役立つ可能性があるということです。これらは「アンチアディクション薬」とも呼ばれ、依存のサイクルを抑えることを目指しています。来年には、アルコール依存やニコチン使用、さらには薬物依存に対する大規模な研究をリリーが開始する予定です。
 さらにその先を見据えると、私たちは長期的に重要な薬を開発し続ける必要があります。リリーは歴史ある企業であり、これからさらに150年以上存続していくつもりです。特に興奮しているのは、脳の健康に関する分野です。これが次のフロンティアになると確信しています。




2.オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

The David Rubenstein Showより
(Original Published date : 2025/01/09 EST)

[出演]
  イーライリリー
    
デイブ・リックス(Dave Ricks)
    CEO

  The Carlyle Group
    デヴィッド・ルーベンスタイン(David Rubenstein)
    Co-founder



<御礼>

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 
だうじょん


<免責事項>

 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。



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