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「一部の懸念は過剰」:ゴールドマン・サックスの市場下落の総括


 米国時間の8月5日(月)に収録され、昨日ブロードキャストされたゴールドマン・サックスのポッドキャストの参考訳です。先週からパニックのような市場が続いていた中で、彼らの市場認識として非常に冷静な見解が示されています。
 8/6の米国市場は、一旦は下げ止まりましたが、このまま落ち着きを取り戻してくれるのでしょうか。ゴールドマン・サックスの幾分楽観的な見方の通りであれば、ある程度、懸念事項は鼻で笑っておけば良いのでしょうが、それでも、神経を使いながら警戒モードは継続すべきなのでしょうか。
 警戒するに越したことはないことは確かですが、、、

[主なトピックス]

  • 雇用統計の数字を額面通り、受け取らない理由

  • 移民の失業率への影響

  • バイアスのかかったISM製造業景況指数が招く誤解

  • 景気後退シナリオと今後の利下げ観測





(1)インタビュー


[アリソン・ネイサン]
 
グローバル市場が大幅に売られています。これは、米国の景気後退への懸念が高まっているためです。これは過剰反応なのでしょうか、それとも経済の転換点に達したのでしょうか?

 今日は、ゴールドマン・サックス・リサーチのチーフUSエコノミストであるデビッド・メリクル氏との対談です。米国経済の見通し、景気後退のリスク、そしてこれからのFRBの方針についてお聞きします。
デビッド、お越しいただきありがとうございます。

[デビッド・メリクル]
 アリソン、ありがとうございます。

[アリソン・ネイサン]
 まず、金曜日の雇用統計についてお話ししましょう。この結果は明らかに予想を大きく下回り、過去数日間で投資家を驚かせたようです。この報告をどう見ますか?そして、この投資家の反応は過剰だと思いますか?

[デビッド・メリクル]
 確かに弱い報告でしたが、一部の懸念は過剰だと思います。企業調査と家計調査の両方で雇用の伸びが労働供給の伸びに追いつかないほど軟調だったという意味で、弱い報告でした。また、失業率も0.2ポイント上昇しました。
 しかし、いくつかの理由から、7月の報告をそのまま現状を示すものと捉えない方がいいと思います。雇用の増加が一時的な要因で抑えられた兆候がいくつか見られました。労働統計局はハリケーン・ベリルがデータに影響しなかったと述べていますが、天候の影響で働けなかった人が大幅に増えたことがわかりました。また、一時的なレイオフの増加も見られました。つまり、それが何であれ、一時的な何かが雇用の伸びを少し押し下げたようです。
 さらに重要な点として、急激な大きな経済ショックがない限り、1か月のデータから過度な推測をするべきではありません。最近の傾向を見てみると、月に約15万人の雇用が創出されているようです。これは、2023年にピークを迎えた移民が2024年に減速しているため、今後の労働供給のトレンド成長がこの程度になると考えられます。現在の雇用増加の状況は良好ですが、過去1年で雇用増加は低下傾向にあり、これ以上低下しないことが望ましいと思っています。
 同様に、失業率の上昇もそのまま受け取るべきではないと思います。7月に失業者数が増加した理由の70%は一時的なレイオフによるものでした。過去の経験と比べて、3か月の失業率が約0.6ポイント上昇したことについて、それほど心配していない理由はいくつかあります。
 一つの理由は、恒久的なレイオフがほとんど見られないことです。初回の失業保険申請件数やWARN通知(※)を見ても、それが裏付けられています。実際、恒久的なレイオフの率は非常に低く、歴史上最も低い水準にあります。これが重要なのは、レイオフが連鎖し、収入減が支出の減少につながり、さらにレイオフが増えるという悪循環に陥るリスクを軽減するからです。これにより、政策立案者が対応しきれないほど急速に進行する危険が減少します。今のところ、そういった状況は見られていません。

 もう一つ失業率の上昇をそれほど心配していない理由は、その一部が労働市場の一時的な摩擦を反映しているように見えるからです。最も明らかなのは、最近移民してきた人たちの就職難で、当然のことながら失業率が高なる傾向があり、人口に占める割合も大きく増加しています。
失業率の上昇の約30%はこの影響によると考えています。これは労働需要が低すぎることを必ずしも示しているわけではありません。確かに今回の報告は弱かったですが、現状が必ずしも問題だとは思っていません。ただ、雇用増加は低下傾向にあり、労働市場の緩みも増加しています。これらの傾向が止まり、状況が安定するまでは、注視すべき点がいくつかあります。

※訳注:連邦法であるWorker Adjustment and Retraining Notification (WARN) Act”に基く通知(Notice)。大規模な企業に義務付けられた大量解雇や工場の閉鎖を行う際の従業員や地域社会に対する事前通知のこと。

[アリソン・ネイサン]
 おっしゃった通り、1つの報告やデータポイントを過度に重視するべきではありませんね。この報告は、最近見た他の経済データとどのように一致していますか?

[デビッド・メリクル]
 第2四半期には経済が約2.5%成長しました。第3四半期も同様の成長を見込んでいます。これは重要なポイントで、全体の経済活動が健全なペースで成長し続けている中で、労働需要が急激に減少するのは奇妙で驚くべきことです。財やサービスの最終需要がまだ良好なペースで成長しているならば、労働者を減らすのではなく、労働者を増やす必要があります。
 ですから、大まかにはその通りだと思います。ただ、投資家が注目している活動データにはいくつかの弱い部分もあります。特に先週のISM製造業景況感指数が軟調に推移したことで、利下げ観測が強まり、先週のような懸念の一因となったようです。
 ただ、ISM製造業景況指数を見る場合、この数年間、調査データが誤解を招くような低調なものであったことを念頭に置くべきです。なぜそうなのか、私たちはよく理解しています。人々は高いインフレ率に不満を抱いており、その不満が悲観論として調査に表れていることがあります。その点を理解することが重要です。
 企業は、メディアや金融市場で聞く景気後退の悲観論をそのまま繰り返しています。また、この2年間は景気の振幅が大きかったのですが、現在は通常の成長トレンドに戻りつつあり、多くの企業が調査で「活動がほぼ変わらない」と報告しています。
 ですから、ここ数年、調査データにはバイアスがかかっているのは明らかです。それは新しいことではありません。私は調査データを額面通りに受け取るつもりはありませんし、ハードデータは経済が良いペースで成長していることを示し続けていると言いたいのです。
 2023年ほどの速さではありませんが、2023年のGDP成長率約3%、月25万人の雇用増加という数字は持続可能な数字ではありません。これは移民ブームのピークに支えられた数字です。健全な成長率に減速するのか、データが実質的に弱まるのを区別することが重要です。

[アリソン・ネイサン]
 このポッドキャストで消費者についてお話したばかりでしたので、消費者に関するデータについてもお聞きしたいです。
 この決算期に企業から発信されたメッセージでは、米国の消費者についてかなり厳しい見方が示されていたようですが、あなたは消費者についてかなり楽観的でした。この厳しい見方をどう思われますか?また、景気後退に陥る可能性を強める要因になりますか?

[デビッド・メリクル]
 これがもう一つの市場不安の原因だと思います。弱い調査データと決算期に企業からの発せられるメッセージが、個人消費が落ち込んでいることを示す総体的なデータがまだ出ていないにもかかわらず、消費者支出が減少しつつある早期警告のサインとして捉える見方があります。
 私は2つの理由から、この解釈に懐疑的です。第一に、決算シーズンの全体的なメッセージが本当にネガティブなものであるとは思えません。もちろん、何百ものデータがあるのですから、よりネガティブなもの、よりポジティブなものを選ぶことはできます。
 しかし、より中立的な立場で、決算シーズンの企業の売上に関するメッセージを総合的に見ると、確かに成長は減速していますが、依然として健全な成長率です。そのため、市場でよく聞かれるような見方は、ネガティブな企業の事例を過度に重視していると思います。
 もう一つ指摘したい点は、企業レベルの事例から、より広範なマクロ経済のトレンドに変換する際に、多くの誤りが生じる可能性があることです。多くの企業は前年比成長率を報告しますが、この変化は前四半期に何かが変わったためかもしれませんし、一年前に何かが変わったためかもしれません。
 もちろん、ある企業が業界を代表するわけではなく、業界が経済全体を代表するわけでもありません。そして、このことは今、特に心に留めておくべき重要なことだと思います。というのも、昨年1年間で、モノからサービスへの移行が終わりを迎えたからです。そのため、このようなネガティブな事例の多くは、商品を販売する企業によるものですが、もちろん、商品部門の低迷の裏返しとして、サービス部門が好調であることを念頭に置く必要があります。
 多くのネガティブな事例は、競合他社よりも価格を大幅に引き上げた企業からも出ています。しかし価格を他社よりも多く引き上げれば、販売量が減少するのは当然です。ここでも、一部の企業の弱さが他の企業の強さの裏返しである可能性があります。他にもうまくいかないことはあります。例えば、企業がグローバルな売上の低迷を報告するとき、それが海外の弱さと米国の弱さを混同している可能性があります。このようなことにはどうしてもバイアスがかかってしまうもので、その原因を企業レベルの業績ではなく、広く消費者の低迷に求める誘惑に駆られることがあります。あるいは、何百という企業の個別の逸話がある中で、不況説のような、例えば景気後退のシナリオに合う事例を選び出す誘惑もあります。

[アリソン・ネイサン]
 では、その景気後退のシナリオと、あなたが考える景気後退の確率についてもう少し詳しくお聞かせください。最近、12か月以内の景気後退の確率を15%から25%に引き上げましたが、その根拠と背景を教えてください。私の意見ではそれでもかなり低い確率だと思いますが、現在多くの人々がかなり心配しているようです。

[デビッド・メリクル]
 はい、そうです。ここでは2つの質問があります。
 まず第1に、なぜ景気後退の確率を少し引き上げたのかということです。そして第2に、なぜ私たちは他の人たちよりも楽観的なのか、なぜコンセンサスや一般的な投資家よりも景気後退の確率を低く見積もっているのかということです。
 最初の質問ですが、12カ月で15%ですね。そうです。コンセンサスを大きく下回る15%でした。過去の平均をほぼ下回っています。つまり、何も問題がなく、特に目立った不況懸念もない、典型的な平穏な時期であれば、15%程度ということになります。これを少し引き上げた理由は、先ほどお話ししたように、雇用の成長は低下傾向にあり、これ以上の低下が問題になりそうなところまで来ています。労働市場の緩みも上昇傾向にあり、失業率も3ヶ月ベースで0.6になりました。
 繰り返しますが、これらの点についてはあまり心配していませんが、景気後退の確率を過去の平均とするのは少し低すぎると思います。
 さて、2つ目ですが、なぜ私たちの12か月以内の景気後退確率がコンセンサスより低いのか、なぜ私たちは他の投資家よりも楽観的なのかについてお話しします。市場の会話や最近の市場価格を見てみると、現在、特にネガティブ・ショックはないと感じていますし、突然経済が自発的に悪化することも稀です。
 過去の悪化を振り返ると、たいていは何か特定の問題がありましたが、現在はそのような問題は見当たりません。確かに成長は減速していますが、データを見る限り、潜在成長率で成長しているように思えます。
 もうひとつ申し上げたいのは、仮に私たちの労働市場の状況の読みが少しずれていて、労働需要が少し弱まりすぎていたとしても、FRBには今や525ベーシスポイントの利下げ余力があることを念頭に置いておいてほしいということです。インフレの問題は基本的に解決されたと私は考えており、FRBの首脳部も同様に考えていると思います。したがって、今後1~2か月の間に発表されるデータが予想よりも弱いものであったとしても、パウエル議長が述べたように、利下げによって景気を下支えする体制が十分に整っています。
 ですから、全体的な経済データが特に弱いとは思いませんし、FRBには大幅な利下げの余地があります。

 これらの3つが、私たちの景気後退の確率が他の多くの人々よりも低い主な理由です。

[アリソン・ネイサン]
 経済が予想以上に失速しそうな場合、FRBがどれだけ積極的に対策を講じると思いますか?大胆な行動を取る可能性はどれくらいあるのでしょうか?

[デビッド・メリクル]
 そうですね、FRBは全く躊躇しないと思います。私たちの予測では、四半期ごとではなく、9月、11月、12月に連続して利下げを行うと見ています。投資家はすでに、9月に25ベーシスポイントではなく、50ベーシスポイントの利下げを予想しているようです。
 そう考えても無理はないと思いますし、その可能性はあります。私たちは25ベーシスポイントを予想しており、7月の雇用統計が一時的なもので、8月の雇用統計が回復し、雇用増加が110近辺ではなく150近辺に近づくと考えています。しかし、私の予想が間違っていて、弱気の兆しが見られたり、市場の暴落が行き過ぎたりして、金融引き締めが消費支出や経済活動に悪影響を及ぼすリスクがあるとFRBが懸念し始めたとしたら、FRBはより強力に対応することを躊躇することはないと思います。

[アリソン・ネイサン]
 9月のFOMCの前にFRBが緊急利下げを行うという議論もあるようですが、それはどれほど異例なことなのでしょうか?そして、彼らがそれを行うためにはどのような状況が必要だと思いますか?

[デビッド・メリクル]
 そうですね、先週の金曜日以来、この質問はよく受けています。
インフレを過剰に心配し過ぎて7月の利下げを見送り、FRBにはそのことに対する後悔があるのではないかという見方があって、もし事態が予想以上に悪化するなら、通常の会合スケジュール外で緊急の対応を取る可能性があるのではないかと考えられています。
 歴史的に、過去の会合間の緊急利下げを振り返ると、これは25ベーシスポイント以上の利下げにも当てはまりますが、通常、何らかの差し迫った危機に対処するため、あるいは明らかにネガティブなショックが発生した場合に行われています。9月の会合までに、データの示唆に基づいて大幅な利下げが検討されるかもしれませんが、現時点では、そこまでの状況には達していないと思います。
 しかし、そこでも過去に大幅な削減が行われたときに比べれば、今のところ私たちが見ているものは少ないです。通常は、積極的に利下げをして闘うべきような状態、特に失業保険申請件数がレイオフの本格化を示唆しています。

[アリソン・ネイサン]
 つまり、現時点で分かっていることを踏まえると、景気後退の懸念は少し過剰に広がっているということでしょうか。

[デビッド・メリクル]
 そう思います。確かに注視すべき点はいくつかあります。雇用統計はここで安定する必要がありますし、失業率がこれ以上上昇するのは避けたいところです。昨年から上昇傾向が続いていますので、確かに気を付けるべき点はあります。
 しかし、私が見るところ、景気後退に陥っているというよりも、成長の減速が進んでいるだけだと思います。なぜならある意味、2023年はかなり例外的な年だったからで、成長減速は避けられなかったとも言えます。

[アリソン・ネイサン]
 デビッド、いろいろと整理していただきありがとうございます。いつも本当に参考になります。

[デビッド・メリクル]
 こちらこそ、アリソンさん、ありがとうございます。



(2)オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Goldman Sachsチャネルより
(Original Published date : 2024/08/06 EST)

【出演】
 ゴールドマン・サックス
  リサーチ、チーフ・エコノミスト
   デイビッド・メリクル(David Mericle)

 ゴールドマン・サックス・リサーチ
  シニア・ストラテジスト
   アリソン・ネイサン(Chris Hussey)


以上です。


御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 
だうじょん


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