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2025年の金融セクター:規制緩和と市場回復が業界にもたらす楽観論に慎重姿勢(GS)


 来年2025年に向けた金融セクターの動向と見通しについて、特に銀行業界と資産運用業界にフォーカスして行われたゴールドマン・サックスの対談の内容を紹介します。以下、サブトピックスとなります。ご参考下さい。

(オリジナル・コンテンツ収録日:2024年12月16日)

■ 銀行業界へのマクロ経済および政策的な影響
 銀行の業績は、金利や失業率などの経済全体の動向に敏感であり、政策変更の影響を大きく受ける。規制環境の変化(資本要件、合併規制)が銀行業績に与える影響が大きく、M&Aや株式市場活動の回復が予想されるが不確実性が高い。

■ 資産運用におけるプライベート市場の成長
 プライベートクレジットやプライベートエクイティへの投資が増加し、各社がウェルス・チャネルへの進出を拡大している。資金は現金運用から固定利付商品へ移行する兆候がある。

■ 規制環境の変化による影響と成長機会
 政権交代に伴う規制改革が銀行および資産運用会社に与える影響の他、バーゼルⅢ規制を例として、銀行の貸出能力や経済全体の成長に影響を与える可能性について。

■ 金利変動とイールドカーブのスティープ化
 関税やインフレが金利動向に与える影響。そして、イールドカーブのスティープ化が銀行や資産運用会社に与えるポジティブ効果。

■ テクノロジーと事業運営効率の向上
 AIや自動化による運営効率化が進んでおり、更に規模を拡大する上での効率改善の必要性について。

■ 市場動向と成長機会の捉え方
 金融サービス業界全体で楽観的な認識の拡がりの裏にあるリスクと不確実性。






1. 対談:2025年の金融セクター見通し 


[アリソン・ネイサン]
 
さて、金融サービス企業について非常に注目が集まっていますね。2025年に向けて、どのようなテーマに注目しているか教えていただけますか?まずはリチャードからお願いします。


[リチャード・ラムゼン](Goldman Sachs Research)
 銀行業界の重要ポイントは、大きく3つか4つあると考えています。
 まず1つ目は、銀行はミクロなセクターの中で最もマクロ的要素に影響を受ける業界であり、経済全体の動向が銀行業績に大きな影響を及ぼします。具体的には、純金利収入のパフォーマンスが挙げられます。これは、フェデラルファンドだけでなく、イールドカーブにも敏感に反応します。また、失業率や企業の貸倒れもクレジットクオリティの主な要因となり、これらがどう推移するかが注目されます。つまり、来年の経済全体の状況が銀行業界を左右する主なテーマになるということです。次に、新たな政権とその政策からの影響です。これによって企業行動にどのような変化がもたらされるのかを注視する必要があります。新たな政策の影響が不透明な部分もあり、注意深く監視することが求められます。
 2つ目としては、市場活動の回復への期待感も重要なポイントになります。現在、M&Aや株式市場の活動水準は過去10年平均と比較してかなり低い水準にあります。但し、来年に向けては、これらの活動が活発化する条件が整っており、これが証券会社や投資銀行などの収益拡大にとって大きなドライバーになる可能性があると考えています。
 3つ目として、融資や預金の動向と、それが純金利収入に与える影響についても注目しています。過去18か月間、融資の伸びは鈍化していましたが、来年にかけては加速期待があります。また、金利が低下している中で、銀行が預金をどのようにリプライシングするかが純金利収入の水準に大きく影響することになため、銀行にとって重要になります。
 最後に、政権交代に伴う規制の枠組みの変化も見逃すことはできません。多くの不確定要素がありますが、銀行の自己資本規制や合併に関する規制などに大きな変化が起こる可能性があり、これも引き続いて注意深くモニタリングしていく必要があります。
以上が、今後の銀行業界を考える上で特に重要なポイントになります。


[アリソン・ネイサン]
 明らかに、ドナルド・トランプ氏の当選により、関税やインフレーションに多くの注目が集まっていますね。将来的には再びインフレ懸念が高まる可能性もありますが、その場合、銀行セクターにはどのような影響があるのでしょうか? また、その影響はすでに市場に織り込まれているのでしょうか?

 

[リチャード・ラムゼン]
 まず、いくつかの重要な点についてお話しします。最初に考慮すべきは、関税が金利にどのような影響を与えるかを分析することです。具体的には、短期金利、つまりFF金利の動向と、イールドカーブの形状への影響をそれぞれ検討する必要があります。
 短期金利に関しては、関税が市場の予想以上にインフレを押し上げた場合、今後12~18か月間で予定されている利下げが減少するリスクがあります。そうなると、銀行が高コストの調達資金を再価格設定する余地が制限される可能性があります。現在のところ、これまでの2回の利下げによって、銀行は預金調達コストをうまく引き下げてきましたが、利下げが少なくなると、調達コストが構造的に高止まりするリスクがあると考えられます。
 次に、関税が市場の長期的なインフレ見通しに構造的な変化をもたらす場合についてです。この場合、イールドカーブの長期側がスティープ化する可能性があり、銀行にとって非常にポジティブな影響をもたらします。特に、2020年から2022年の間に2%から2.5%の低利回りで購入した固定利付資産が、現在では4%から5%、あるいはそれ以上の利回りで再評価されており、これには証券、固定利付ローンやスワップ取引も含まれています。
 つまり、景気後退を伴わずにイールドカーブがスティープ化する場合、銀行にとっては収益面で非常にポジティブな材料になります。


[アリソン・ネイサン]
 規制改革のお話もありましたが、これらは銀行に対してどのような影響をもたらすのでしょうか?

 

[リチャード・ラムゼン]
 この4年間で、銀行業界を取り巻く規制環境には多くの変化がありました。資本規制の枠組みはさらに複雑化し、資本要件が引き上げられたため、銀行にとっては対応が難しくなっています。また、消費者金融保護局(CFPB:Consumer Financial Protection Bureau)による取り組みとして、当座貸越や遅延金に対する価格規制が議論されています。これらの法案はまだ最終決定には至っていませんが、銀行は先行して価格設定の見直しを行っています。
 さらに、銀行の合併環境も厳しく、合併完了までにかかる時間が長くなっています。現行政権は競争だけでなく、特定地域での銀行サービスの提供状況など、さまざまな観点から合併を評価しています。
 また、今後注目すべきものとして、いくつかのポイントがあげられます。まず、資本規制に関しては、「バーゼルⅢエンドゲーム」と呼ばれるプロポーザルにより、最大手の銀行の資本要件が約10%引き上げられる可能性があります。但し、この提案は最終的に緩和されるか、実現しない可能性もあります。
 また、新政権は資本基準全体の見直しに取り組む可能性があり、現行の要件が適切なバランスを保っているかどうかを再評価するかもしれません。資本要件の引き上げはシステム的なリスクを軽減する一方で、貸出能力を制限し、経済成長に影響を与える可能性があります。そのため、成長を支援しつつシステミック・リスクを大幅に増やさない方法として資本要件の引き下げを検討するかもしれません。
 次に、合併環境については、新政権のもとで状況が緩和される可能性があり、特に、大規模な銀行を創出することによって競争を促進する手段として、銀行合併を緩和する可能性があります。
 最後に、手数料についての提案は、特定の消費者グループに不均衡な影響を与える可能性がある商品の可用性や貸付への影響など、意図しない結果を十分に理解するために時間をかけて慎重に進められることになる可能性が高いと考えています。


[アリソン・ネイサン]
 アレックスに伺います。アセット・マネージャーの立場を想定する場合、どのようなテーマに注目しますか? リチャードのお話でもいくつか触れていましたが、資産運用会社の現状からはどのように見ていますか?


[アレックス・ブロスタイン](Goldman Sachs Research)
 まず、いくつかの注目ポイントをお伝えします。リチャードが金融サービス業界について包括的に述べたことには、私も強く賛同します。一方で、資産運用会社に関しては、いくつかの目立った動きがあります。
 まず最初に、プライベート市場への資金配分が引き続き増加している点です。このトレンドは以前から話題になっており、過去にもこの番組で何度も取り上げてきました。この傾向は依然として衰えていませんが、注目すべきはその広がり方が変化してきていることです。
 これまでは主にプライベートクレジットに集中していましたが、最近ではプライベートエクイティにも拡大しつつあります。ここには循環的な回復の兆しが見られます。また、インフラ分野には大規模な資本ニーズが存在し、多くの資金がこの分野に集まっています。さらに、不動産分野にも安定化の兆候が見え始めており、これまでは圧力がかかっていましたが、早期の回復のサインが出ています。
 2つ目のテーマは、プライベート市場の企業がウェルス・チャネル(富裕層向けの資産管理市場)への進出を強化している点です。現在、この分野への資金配分は非常に小さいものの、大手のオルタナティブ資産運用会社のCEOはほぼ例外なく、このテーマを最重要課題の一つとして掲げており、このトレンドは今後も続くでしょう。
 3つ目のポイントは、いわゆる「お金の動き」についてです。過去数年間、MMFの成長が継続しており、現在約7兆ドルもの資金が現金運用商品に滞留しています。これが徐々に動き出しており、特に年末に向けて固定利付商品への資金移動が活発化し始めています。もしイールドカーブがスティープ化すれば、この動きがさらに顕著になり、資産運用会社にとって非常にポジティブな結果をもたらすことになるでしょう。
これらが現在の資産運用業界における重要な動向になります。


[アリソン・ネイサン]
 もしM&Aや資本市場活動が回復する場合、それがオルタナティブ資産運用会社にどのような影響を与えると思いますか?


[アレックス・ブロスタイン]
 それらの循環的な要素は、この分野にかなり重要な影響を及ぼす可能性があります。プライベートエクイティ企業による資本の投資活動はすでに回復の兆しを見せ始めていますが、新しい政権やM&A環境の変化によって、さらなる加速が期待できます。いくつかの重要なポイントを挙げます。
 まず、プライベートエクイティ(PE)におけるドライパウダーの規模が依然として非常に大きいことです。米国の企業向けPEだけで約1兆ドルが未投資の状態にあります。また、資金調達コストがすでに低下傾向にあり、政策金利が下がっているのがその一因です。加えて、過去12~18か月でクレジットスプレッドもかなり縮小しており、資金調達環境は非常に良好です。このように、資本の利用可能性と低コストな資金調達環境が支援材料となっており、さらに、規制環境が改善すれば、投資活動が大幅に増加する可能性があります。
 一方で、利益実現(リライゼーション)の状況は依然として厳しい状態にあります。先ほど述べたように、資本の投入は今年初めに加速し始めましたが、利益実現率は過去最低水準にとどまっています。これまでにも議論されてきた通り、多くのPEクライアント、つまりこれら企業のLP(出資者)は、投資した資本の回収を強く望んでいます。しかし、システム全体で大きなボトルネックが発生しており、それが利益実現を阻害しています。資本市場がさらに活発化し、株式資本市場の状況が改善し、M&A活動が増加すれば、利益実現のペースは大幅に加速するでしょう。
 当社のモデルでは、こうした活動の増加により来年のパフォーマンス・フィーが約70%増加すると予測しています。これは非常に大きな伸び率であり、業界全体にとって大きな意味を持つことになると考えています。


[アリソン・ネイサン]
 評価ギャップによって売り手と買い手の間で停滞が起きている状況では、資産を売却するのが非常に難しいということですね。


[アレックス・ブロスタイン]
 その通りです。そして、このスプレッドが縮小し始めている点は非常に重要です。資金調達コストが下がっていることが、この動きを支える大きな要因となっています。また、公募市場の評価倍率が非常に良い方向に動いており、現在では多くのプライベート市場の評価倍率を上回る水準にあります。この状況は、プライベート市場の資産保有者にとって、より高い価格で投資を回収するチャンスを提供しています。
 さらに、この動きが資金調達活動の広がりと関連して、フライホイール効果を生み出します。具体的には、投資資産を高いマルチプルで回収することで資本が戻り、その資本がLPや機関投資家に再配分されます。これにより、次のフラッグシップファンドの資金調達サイクルへのコミットメントが可能になります。この循環がまさにPE企業の本質的な役割と言えるでしょう。すなわち、資本を調達し、それを投資し、最終的に収益を実現するというプロセスです。
 こうした資本の回収と再配分のサイクルが整うことで、業界全体の成長がさらに加速する可能性があります。 


[アリソン・ネイサン]
 リチャード、ローンの成長とその見通しについてですが、私たちが銀行に注目する理由のひとつは、銀行が経済の先行指標になりやすいからです。では、先週多くのCEOとお話されて、需要や経済の基盤的な強さについて彼らからどのような話が聞こえてきましたか?そしてそれらが2025年のローン成長の見通しにどう影響するのか教えてください。


[リチャード・ラムゼン]
 消費者ローンの成長、特にクレジットカードの成長は、比較的良好な状況が続いているようです。理由としては、消費者支出の水準が依然として比較的に健全であることが挙げられると思います。クレジットカードでの消費支出は、通常、クレジットカードでの借り入れにつながるため、カードにおける消費者ローンの成長見通しは引き続き良好であろうと考えられます。
 一方で、法人向けローンは非常に弱い状況が続いており、2024年の多くの期間で実質的にマイナスでした。これにはいくつかの理由があります。まず、シリコンバレー銀行、ファーストリパブリック銀行、シグネチャーバンクの破綻からわずか18か月しか経過していません。この破綻を受けて、業界全体で与信基準が大幅に引き締められました。銀行はこれらの破綻が不況の確率を高める可能性があると考え、貸し出し対象を制限したため、ローン需要が減少しました。次に、資本要件の増加があり、銀行は資本を増強することを優先し、一部の利用者層への融資を控えています。そして、プライベートクレジットとの競争もあります。銀行は、プライベートクレジット業界が提供できる条件に対抗できず、業界全体として市場シェアを一部失っていると考えられます。
 私は、来年に向けては、ローンの成長が回復すると予想しています。例えば、バンク・オブ・アメリカでは、第4四半期に年率4%のローン成長を見込んでおり、これはかなり健全な水準といえます。選挙が終了し、金利が低下することにより借り入れの負担が軽減されること、さらに企業景況感の改善が相まって、特に法人向けローン需要が今後12~18か月で増加すると期待されています。


[アリソン・ネイサン]
 アレックス、そのプライベートクレジットのテーマに戻りましょう。それは市場や規制当局にとっても大きな焦点であり、市場を動かしている要因ですよね。現状をどう見ていますか?また、来年に向けてどのように発展していくと思いますか?


[アレックス・ブロスタイン]
 プライベートクレジットは、ここ数年で最も注目しているテーマの一つです。この分野は現在、運用資産総額が2兆ドルを超えており、著しい成長を遂げています。過去数年間の平均成長率は約20%と非常に高く、プライベート市場全体の資金調達の約60%を占めていることからも、その重要性がうかがえます。
 ただし、プライベートクレジットの中でも、2つの異なるカテゴリーが発展している点には注意が必要です。1つ目は、直接融資を中心とした従来型のレバレッジドローン事業です。これは主にレバレッジドローン市場やハイイールド市場と競合していますが、現在では比較的成熟してきたと考えられます。現在のレバレッジドローン全体の約3分の1が直接融資によるものです。この分野がさらに拡大する可能性はあるものの、急激に60%に達することはないでしょう。ただし、多少の増加は見込めます。一方で、クレジットスプレッドの縮小が進行しているため、6~9か月前に得られたリターンが今後12~18か月で得られる可能性は低いです。その背景には基準金利の低下や、銀行の融資活動が活発化し、資金調達の選択肢が広がっていることがあります。リターンは依然として魅力的ですが、以前ほど高水準ではありません。
 2つ目のカテゴリーは、いわば「プライベートクレジット2.0」とも呼べる資産担保証券を中心とした新しい分野です。これは、投資適格級のプライベートクレジットに近いもので、成長速度も非常に速いです。この市場の対象範囲は非常に広く、パブリック市場で言えば、投資適格債券や銀行のバランスシートに載っているローン、不動産ローンなどが該当します。この分野をターゲットにしているプライベート市場の企業が増えており、より複雑な構造を持つため、参加できるプレーヤーは限られると考えられます。専有的なオリジネーション能力が必要で、構造が複雑であることから多くの人材を要し、手数料も従来の直接融資より低い場合が多いです。
 全体的に見ると、この分野の成長は今後も堅調で、年間15%以上の成長率が数年間続くと予想されます。ただし、その成長の源泉は、従来の直接融資から投資適格級プライベート市場にシフトしていくと見ています。


[アリソン・ネイサン]
 リチャード、このことは大手銀行の業績にマイナスの影響を与えるでしょうか? それともプラスになるのでしょうか? これらの事業は相互に関連している部分が多いように思うのですが、いかがでしょう?


[リチャード・ラムゼン]
 プライベートクレジットについては、明らかに脅威である一方で、特に大手銀行にとっては大きな機会でもあると考えています。脅威としての側面は、プライベートクレジット企業が実体経済への信用供与において競争相手となっている点です。これらの企業は、銀行とは異なり規制の対象外である部分が多く、そのため、顧客に提供できる商品や構造において柔軟性が非常に高いという利点があります。
 一方で、この状況は銀行にとっていくつかの機会も生み出しています。まず一つ目は、プライベートクレジット企業と提携することです。すでに多くのジョイントベンチャーが形成されていますが、これにより、従来型ではないローンを求める顧客に対して、銀行単独では提供できない商品を共同で提供できる可能性があります。これにより、銀行単独のサービスでは実現できない幅広い商品を顧客に提案することで、顧客体験を向上させることができます。
 次に、プライベートクレジットの急速な成長が新たな資金調達機会を生んでいる点です。これらのプライベートクレジット商品には多くの場合、基盤となるレバレッジが組み込まれており、その資金調達の一部を銀行業界が担っています。過去数年間で、固定利付ファイナンスと呼ばれる分野の成長が見られますが、その主要な推進力の一つがプライベートクレジットやオルタナティブ資産の成長です。
 これらの商品は非常に複雑であり、担保に対する深い理解が求められます。また、これらのクライアントは銀行にとって、他のさまざまな形でも重要な関係を持つ場合が多いです。このような資金提供を通じて銀行業界は利益を享受しており、これらの商品のリスク調整後のリターンは非常に魅力的であるとされています。


[アリソン・ネイサン]
 それらを考慮に入れると、2025年に向けて銀行や資産運用会社が戦略的な優先事項として考えていることは何でしょうか?


[リチャード・ラムゼン]
 銀行の戦略的優先順位が大きく変化したかと言われれば、そうではないかもしれません。ただ、ほとんどの銀行がオーガニックな成長の機会に焦点を当てている点は共通しています。そして、現状では6か月前よりも成長の機会が改善していると感じているようです。そのため、大手銀行は消費者向けのサービスで大きなプレゼンスがない地域での展開を加速させることが予想されます。また、消費者および法人向けに与信基準を若干緩和しながら融資を拡大する動きも見られるかもしれません。これは、来年の不況の見通しが以前よりも改善していると感じているからだと考えられます。
 また、規制緩和が経済全体に波及し、設備投資の増加を促進する可能性があると予測しており、それがローン需要の増加につながると期待されています。そのため、多くの銀行がこうした成長環境を見据えたポジショニングを進めています。
 次に、運営効率の改善にも引き続き注力しています。自動化やAIの活用は業界において非常に重要なテーマですが、多くの銀行はAIを「新しいもの」というより、過去10年間にわたって取り組んできたことの延長線上のものと捉えています。興味深い数字として、バンク・オブ・アメリカでは、この15年間でバランスシートが2倍以上に拡大した一方で、従業員数は10万人減少しました。これは、テクノロジーが労働力を代替した顕著な例です。テクノロジーはスケーラビリティが高く、限界コストが低いため、成長が進むにつれて新たな成長による利益率が非常に魅力的になります。
 さらに、今後6~12か月以内に新たな資本規則が導入されれば、それに応じて銀行は配当、自社株買い、M&Aのような非オーガニックな成長機会を含む優先事項を再評価することになるでしょう。


[アレックス・ブロスタイン]
 成長が最重要課題であることは間違いありませんが、資産運用業界の進化が非常に速いペースで進んでいる点も注目すべきです。特に、これまで参加していなかった多様な資産クラスが、新しいチャネル、主にウェルスチャネルを通じて市場にアクセスできるようになっています。伝統的な資産運用会社であれ、オルタナティブ資産運用会社であれ、プライベート市場での規模拡大と、その商品をウェルスチャネルに取り込む方法を模索することが、ほとんどのCEOにとって最優先事項となっています。
 次に、ややシクリカルな話題ですが、「お金の移動」という概念に戻ります。もし、固定金利や株式といった伝統的で長期性のあるファンドに資本が再び流入する局面が来れば、それを確実に捉えるためにポジショニングする必要があります。そのためには、適切な商品とストラクチャを用意することが不可欠です。特にアクティブETFの分野では、静かにではありますが、従来の資産運用市場全体で最も急成長している商品となっており、今後もこの分野での革新が期待されています。
 さらに、プライベート市場とパブリック市場の融合が大きなテーマになると考えています。たとえば、退職後の資金運用の課題を例に取ると、これは規制の枠組みにも関連していますが、401k市場は事実上プライベート投資には閉ざされています。しかし、401kにおける資本の投資期間を考えると、公共年金プランや他の機関投資家向け年金プランと大差がありません。20年以上の長期コミットメントがある資金に非流動性資産を組み込むことは、実際には理にかなっていますが、現状の規制環境ではそれが許可されていません。
 もし規制環境が変化すれば、プライベート市場の企業と、既に401kチャネルに参入している流動性の高い商品を提供する企業との間で、さらに多くのパートナーシップが形成され、新しい商品が市場に登場するでしょう。このように、革新と成長への注力が業界全体で非常に高まっています。


[アリソン・ネイサン]
 興味深いですね。リチャード、先週のカンファレンス(Goldman Sachs 2024 US Financial Services Conference)の全体の雰囲気について、「皆が強気だった」とおっしゃっていましたが、それを聞いて私は、「それは不安ですね」と言いましたが、リチャードはどう感じますか?何かを間違う可能性はあるのでしょうか?


[リチャード・ラムゼン]
 正直言って、とてもナーバスです。この第35回目となるカンファレンスをずっと続けてきた中でも、今回ほど強気なトーンを聞いたのは初めてかもしれません。そこで、何が問題になり得るかについて、いくつかお話してみたいと思います。
 まず1つ目は、政治的な不確実性から政策的な不確実性へと移行している点です。選挙が終わり、結果に関する不確実性は解消されたことは確かに良いことですが、今度は新たな不確実性が生まれています。関税がどのような影響を与えるのか、移民政策はどうなるのか、それが米国の労働市場を過度に逼迫させるのかどうか。さらには、法人税がどう変わるのかなど、多くの未知数があります。
 銀行が言うように、全体の方向性が上昇基調である点には同意しますが、それが一直線で上昇するわけではないと思います。これらの政策が進展し、その影響が市場に消化される中で、今後12~18か月の間では多くのボラティリティが生じると考えています。
 2つ目に懸念しているのは金利です。このテーマについては以前にも話しましたが、金利があまり下がらないだけでなく、スタグフレーション的な環境に入る可能性もあることが心配です。それは銀行にとって非常にネガティブな状況を意味します。逆イールドカーブが発生し、資産再評価が進まない可能性があり、それは好ましくない結果となるでしょう。
 3つ目の懸念は、規制に関するものです。こうした変更が実施されるまでに非常に時間がかかる可能性があります。規制当局は動きが遅い傾向があり、来年の今頃になっても資本の枠組みがどうなるのか明確になっていない可能性があります。この不確実性が続けば、銀行が資本再配置の動きを取らずに静観する状況が続くかもしれません。


[アリソン・ネイサン]
 アレックス、あなたが心配していることは何ですか?


[アレックス・ブロスタイン]
 資産運用会社は、言わば市場そのものです。そして、市場は現在、史上最高値を更新しています。これは常に少し心配な要素と言えます。ただし、私が特に注目しているのは、やはり金利であり、無視できない大きな基本的な要素だと思います。
 特に、以前もお話ししたように、プライベート市場の一部は金融環境の緩和によって恩恵を受けるように設定されていました。しかし、もしその状況が逆方向に向かうとなれば、予想しているM&Aの回復ペースが明らかに鈍化する可能性があります。それに加えて、不動産市場の一部にも未解決の課題が多く残っています。
 多くの人は10年物国債の利回りが現状を維持するか、さらに低下すると予測しています。しかし、もしそうならなかった場合、2020年から2021年にかけての投資案件がパイプラインを通過していない状態のまま残ることになり、これが大きな問題になる可能性があります。


[アリソン・ネイサン]
 楽観的になれる理由はたくさんありますが、慎重になるべき理由もいくつかあるということですね。それで合っていますか?


[リチャード・ラムゼン]
 そうですね、妥当な理解だと思います。


[アレックス・ブロスタイン]
 ええ。それが妥当ですね。


[アリソン・ネイサン]
 リチャード、アレックス、いつもありがとうございます。本日はご参加いただき感謝します。


[リチャード・ラムゼン]
 ありがとうございます


[アレックス・ブロスタイン]
 ありがとうございます




2. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Goldman Sachsより
(Original Published date : 2024/12/23 EST)


以上です。

【出演】
  ゴールドマン・サックス・リサーチ
    リチャード・ラムゼン(Richard Ramsden)
    Business Unit Leader of the Financials group

    アレックス・ブロスタイン(Alex Blostein)
    Asset Managers & Capital Markets

    アリソン・ネイサン(Allison Nathan)
    Host, Senior Strategist


御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 

だうじょん


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