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相場の方向感が不安定なのはキラキラ・テーマの不足。年末の6100は難しい:MS マイク・ウィルソン


 モルガン・スタンレーの米国株式チーフストラテジスト兼最高投資責任者であるマイク・ウィルソン氏を迎えて11月04日に行われたBloombergのインタビューの内容を紹介します。
 マイク・ウィルソン氏は、インフレ状態や金利上昇による経済への影響が強まっている状況では、景気刺激策の余地は少ないと指摘。結果、債権金利上昇は株式市場に対して逆風となる可能性が高いとの見解を示しています。
 また大統領選挙および議会選挙の結果として、特に規制緩和への期待が高まれば株価が上昇する余地があるも、財政懸念からの利回り上昇によって、これも株式市場に逆風となる可能性があるとの指摘をしています。
 現在は、「新たなキラキラしたテーマ」が市場に不足しており、明確な投資ターゲットが乏しい現状においては市場の方向性が定まりにくく、上値も限定されるとし、市場は市場を牽引する新たなテーマの登場を期待しているとの見解を示しています。 ご参考下さい。

[サブテーマ]

  • 現在と2016年の市場環境の比較

  • トランプ・トレードと債券利回りとリスク資産

  • クリアリングイベントと市場の活性要素

  • FRB政策姿勢と金利の影響






1. インタビュー


[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
 では、ここから本題に入りましょう。現在と2016年の類似点はどれくらい強いのでしょうか?


[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 今の状況は、2016年と大きく異なるといえます。最終的に株価がどのように推移するかを決めるのは、景気循環や企業収益、金利といった要素だからです。2016年当時を振り返ると、選挙前の経済にはまだ余剰があり、全体的に景気が停滞していました。2015年から2016年にかけては世界的に製造業の不況もあり、FRBも金利を低めに抑えていたため、労働市場にも余力があり、プロリフレーション政策(Pro-reflationary policy strategy)の余地があったのです。しかし、現在はそのような余剰はありません。物価が非常に高く、消費者や中小企業は金利の上昇に対してはるかに敏感です。金利上昇と景気循環への追随戦略は、そのようなタイプの株式には良いものではありません。
 さらに、債券市場も当時とは状況が大きく異なります。現在は2016年に比べて負債が大幅に増えており、当時のような余裕のある借り入れ環境にはありません。


[キャロル・マッサー](Bloomberg)
 では、トランプ・トレードについて理解するとなると、債券利回りが上昇しているのに、なぜリスク資産が引き続いて上昇できるのか、ということです。


[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 それは、なぜ株価が上昇しているかによると思います。株式市場は依然として成長への懸念を抱いています。労働市場も不安定で、月ごとに良くなったり悪くなったりと見方は様々ですが、全体的には下降傾向です。現在の経済は後期サイクルにあり、成長が減速する懸念があるため、FRBは金利を引き下げているのです。もし債券市場が成長見通しの改善を背景に上昇するなら、それは株式市場にとっても良い材料かもしれません。しかし、財政の持続性への懸念で期間プレミアムが拡大し、債券利回りが上昇している場合は、株式にとって厄介な状況になります。
 

[キャロル・マッサー](Bloomberg)
 この質問をする理由は、債券利回りが上昇し、特に金融のようなシクリカルなセクターで株価が急騰するのは、トランプ・トレードにおける短絡的な反応だと言われているからです。このシナリオでは必ずしも経済的な刺激がすぐに加わるわけではありません。もし利回りが、単に財政赤字の増加と債券市場の警戒感によって急騰し続けるだけだとしたら、リスク資産が上昇し続ける理由はどこにあるのでしょうか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 まず、金融銘柄に関しては少し事情が異なります。これらはワシントンの政策が関連しているため、分かりやすい部分もあります。仮にトランプ政権が続き、さらに共和党が議会を掌握する場合、規制が緩和される可能性があり、M&A活動の活発化も期待できるでしょう。これが金融株にかかわるトランプ・トレードですが、金融株式自体はまだその動きで大きく上昇しているわけではありません。むしろ、Q3の決算シーズンの影響が大きく、そのシーズンに大きな期待がされていなかったことも要因です。したがって、いわゆるトランプ・トレードの中には、今後も上昇の余地があるものもあると思います。
 同時に、トランプ関連でのネガティブな影響が既に織り込まれている面もあります。債券は過剰に売られているかもしれませんし、再生可能エネルギーや消費財企業など、関税の影響を受けるセクターも大きな打撃を受けています。もしハリス氏が勝利すれば、これらの分野で大きな反発が見られるかもしれません。
 こうした展開は複雑で一筋縄ではいきません。おっしゃる通り、すべては「セットアップ」が鍵です。株価や資産価格は、ニュースそのものよりもむしろポジションの取り方によって動くことが多いです。今は、“クリアリングイベント”を求めており、これがその役割を果たして、金利、収益成長、マルチプルといった基本的な分析に戻れるようになることを願っています。私は、完全に整理されるまでに約1カ月はかかると見ています。
 

[リサ・アブラモウィッツ](Bloomberg)
 ”クリアリングイベント”に関してですが、ソシエテジェネラルのキット・ジュケス(Kit Juckes)氏の「共和党が一掃するか、ハリス氏と共和党上院のねじれ国会になるだろう、という見方に同意しますか?


[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 それが大方の予測市場の見解ですし、私が異論を唱えることもありません。ただ、確実というわけでもありません。共和党の一掃が必ずしも株式市場にとってベストなシナリオだとは思っていません。むしろ、トランプ氏が勝利して、議会が分裂する可能性が高いと考えています。
 

[リサ・アブラモウィッツ](Bloomberg)
 共和党の一掃が実現すると、法人税率が15%に引き下げられる可能性がありますね。
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 可能性はありますが、実現するかはわかりません。実際にそのような税率引き下げが行われようとすれば、債券市場の監視役が介入してくるかもしれません。現状では、全体的な税制改革よりも、一部の控除延長や小幅な税率引き下げに注力しているようです。


[リサ・アブラモウィッツ](Bloomberg)
 今回の選挙は税制改革が中心テーマになっていますね。
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 そうですね、でもそれがまだ市場に織り込まれているとは思いません。2016年のことを覚えていますか?あの時も、上院が実際に法案を通した2017年12月まで、誰も減税を織り込んでいませんでした。その頃、実現は無理だろうと言われていました。特に議会が絡むこのようなイベントでは、実際の証拠が出るまで市場は動かない傾向があります。
 

[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
 最善のシナリオとして、トランプ氏が勝利し、政府が分裂する状態を挙げていましたが、その理由を少し説明してもらえますか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 市場はある程度の不確実性を好み、一般的には一党独裁のような状態を嫌います。これまで一貫して、トランプ政権は成長促進型になる可能性が高いが、債券にはあまり好ましくないかもしれないと述べてきました。一方で、ハリス氏が大統領になると成長はやや抑えられるが、債券にはプラスに働く可能性があります。これはここ数週間の相場にかかわらず、当初からの見解です。
 ただ、それが劇的に良くなるかどうかは判断が難しいところです。すでに多くの好材料が価格に織り込まれているのが実情です。一歩引いて見ると、現状のPERは約22倍で、2016年の16.5倍とは大きく異なります。今回は、全く異なる前提条件で選挙を迎えているのです。
 

[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
 今朝の番組に登場したヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニ氏が、年末までの市場は「方向感のない波乱の道のり」で、おそらく横ばいになると話していましたが、その見解には同意されますか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 波乱があるという意味では、年末までに大きな変動がある可能性はあります。ただ、年末まで横ばいに終わるかもしれませんし、その間にも大きな取引機会が出てくるでしょう。何らかの”クリアリングイベント”で、懸念が少なく楽観的なムードになれば、6,000に到達する可能性もあると考えています。ただ、その後はどのシナリオであっても6,000~6,100の水準を超えるのは難しいと思います。その時点ではバリュエーション的にかなり高く、2025年に向けてさらに高い倍率を正当化できるような成長加速は期待しにくいです。


[キャロル・マッサー](Bloomberg)
 今月の“クリアリングイベント”というのが具体的にどういうものか説明していただけますか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 それはお答えしかねます。
 

[キャロル・マッサー](Bloomberg)
 では、それがどんな意味を持つのか、少しでも教えていただけませんか?極端なボラティリティが毎日続くような感じなのか、それとも特定の取引が大きく崩れるようなことを想定していますか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 そうですね、選挙だけでなく、現在の相場がかなり張り詰めていることから、多くの取引が一気に崩れる可能性があると思います。今は、FOMOシーズンで、みんなが残り2か月で何とか成果を出そうとしている状況です。様々な要素が絡んでおり、選挙後に一種の吹き上げが起きて、“クリアリングイベント“が発生するかもしれません。でもその後は現実が見えてきて、来年は誰が勝っても財政引き締めが必要になるでしょう。そうなると再び不確実性が高まり、ポジションの動きも激しくなると思います。
 もうひとつの要素として、マグニフィセント・セブンの企業決算があります。先週の結果はまちまちで、これまで循環系銘柄にやや傾斜してきました。彼らが非常に好調な決算を発表して市場の資金がそこに集中することを心配していましたが、今回はそうならなかった。ただ、新しいテーマが出てきたら、すぐに資金は集まるでしょう。今はそういった新しいキラキラしたものが不足していますが、いずれ何かが現れるでしょう。市場は必ず新しいターゲットを見つけて動いていきます。
 

[キャロル・マッサー](Bloomberg)
 今は、FRBは、キラキラした新しいものではありませんね。水曜日のFOMC会合についてほとんど触れていませんが、全体の構図にどれくらい影響があると思いますか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 彼らに未来を見通す「水晶玉」があるわけではありません。選挙結果がFRBの意思決定に影響することはないと思います。現時点では0.25%の利上げが予想されています。


[キャロル・マッサー](Bloomberg)
 では、あなたの見通しに変化はありますか?
 

[マイク・ウィルソン](モルガン・スタンレー)
 いいえ。結局のところ、FRBはある種の自動運転の状態にあります。経済が急激に悪化しない限り、さらなる急な利下げが必要になることもないでしょう。株式市場にとって重要なのは、彼らのトーンです。ハト派寄りなのか、タカ派寄りなのか。タカ派的な利下げなのか、ハト派的な利下げなのかが焦点になります。そこから動くのは1~2%の調整であって、FRBだけを理由に10%も動くわけではありません。
 FRBは今やバックグラウンドに回っていて、自分たちの役割を淡々と果たしている状態です。9月に決定を下した時が注目のピークで、それ以降、焦点は企業決算に移っています。年末が近づくにつれ、2025年の経済や収益成長見通し、債券利回りの動きが株式市場にどのように反映されるかが評価の焦点になっていくでしょう。




2. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/11/04 EST)

[出演]
  モルガン・スタンレー
    マイク・ウィルソン(Mike Wilson)
    米国株式チーフストラテジスト兼最高投資責任者

  Bloomberg
    ジョナサン・フェロ(Jonathan Ferro)
    キャロル・マッサー(Carol Massar)
    リサ・アブラモウィッツ(Lisa Abramowicz)



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だうじょん


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