市場は今、典型的な後期サイクルの中ある。そして年末は皆がモンキータイムで忙しい。(MS マイク・ウィルソン)
2024年12月17日、モルガン・スタンレーの米国株式チーフストラテジスト、マイク・ウィルソン氏を迎え、同氏およびモルガン・スタンレーが見据える2025年の米国株式市場の展望と投資戦略をテーマとして行われたBloombergのインタビュー・コンテンツを紹介します。
同氏は、現在の市場は既に後期サイクルの強気局面に入っていると指摘し、2025年は、その中でも質の高い銘柄へのピンポイント投資が鍵になるとしています。また、アメリカ例外主義が世界的に根付いていることから、資金が米国市場に集中している状況が続き、このことが、消費財や運輸セクターといった低成績のセクターの回復につながる可能性についても言及しています。一方で、ディスインフレ進行に伴うPERの低下が懸念され、第1四半期には市場調整が起きる可能性もあるとの見方を示しています。ご参考下さい。
1. インタビュー
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
マイク・ウィルソン氏とモルガン・スタンレーは、「2025年のS&P500のEPS成長は、よりバランスの取れたものになると予想しています。これにより、過去2年間で欠けていた、より幅広い広がりが見られるはずです。」と述べています。
そして、ここ数週間、姿の見えなかったマイク・ウィルソン氏ですが、、、おはようございます。最近の状況はいかがでしょうか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
この点については、まさに議論のポイントですね。今秋、マーケットが広がりを見せた背景には3つの要因があると思います。まず1つ目は、リセッションリスクが市場から排除されたことです。これは少しずつ市場に影響を与えつつあったものですが、結果的にその懸念は薄れました。2つ目は、FRBが50ベーシスポイントの利下げを行ったことです。これはサプライズであり、もしかしたら必要ですらなかったかもしれませんが、市場はこれに反応して活気づきました。そして3つ目は、選挙です。
選挙がプラスに働いた理由は2つあります。前回もお話ししましたが、1つは共和党が圧勝したことです。市場はこれを一般的に好意的に受け止めます。ただ、それ以上に重要なのは、結果が明確だったことです。そのおかげで多くのヘッジが解消されました。特にそのヘッジが集中していたのは、質の低い領域でした。
こうした動きによって、広がりの初動がある意味前倒しで進んだわけですが、今起きているのは金利が再び上昇していることによる懸念です。FRBが予想されていたほど利下げを行えないかもしれない、という懸念ですね。結果、年末に向けてややリスク回避の動きや、単なる利益確定の動きが見られています。
ただ、私たちのレポートに書かかれている「広がりが見られるだろう」というのは、私たちの見解ではなく、あくまで市場のコンセンサスなんです。つまり、それが市場の期待値です。来年、ボトムアップのコンセンサス予想が達成されれば、広がりは見られるでしょう。それが重要なポイントです。結局のところ、「収益予想の修正」がキーポイントになります。私たちはその点について、少し慎重に見ています。
具体的には、金融セクターをアップグレードしましたし、ソフトウェアやいくつかのインダストリアル銘柄に対してもポジティブです。それは、収益のストーリーが改善しているからです。今後3〜6か月は、収益予想の広がりが改善している分野に注目しながら投資を進めていくつもりです。
ただし、これはすべてのセクターが一斉に上昇するような状況ではありません。新たなサイクルに入ったわけではないので、その点はリスナーの皆さんにしっかりお伝えしておきたいと思います。2020年や2021年のように、質の低い銘柄まで含めて全体が上昇するようなラリーは期待していません。あくまで成長が改善している分野にピンポイントで投資を行う、という戦略になります。
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
その違いについて少し掘り下げてみましょう。新しいサイクルではなく、後期サイクルの延長だとおっしゃっているわけですね?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
そうです。
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
それがなぜ重要なのでしょうか? その2つの違いは何ですか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
今起きているのは、まさに典型的な後期サイクルの動きなんです。2017年にも「クラシックな後期サイクル」と呼びましたが、実はこれがサイクルの中で最も強気な局面です。なぜなら、FRBが動き始めることで、株価収益率(PER)が拡大するからです。
過去12か月で何が起きたか振り返ってみましょう。それがまさに今の状況です。2025年や2026年の収益予想が上方修正されたわけではなく、単に予想が先送りされただけです。しかし、PERは17倍から22倍まで上昇しました。これも後期サイクルでは非常によくあることです。
この局面では通常、上昇する銘柄が限られる「狭さ」が見られます。それがまさに今起きていることです。市場に不確実性がある中で、質の高い銘柄は引き続き堅調に推移しています。
ハードランディングになるのか? 成長が再加速するのか? FRBの政策は十分なのか? それとも政策は遅れているのか? 先行しているのか?といった議論が続く中で、市場は大きなチャンスを生むローテーションを繰り返しています。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
この後期サイクルの動きが、「今はアメリカ以外に選択肢がない」という考えによって、どれほど加速されているのでしょうか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
確かに、非常に重要なポイントですね。先月出した月次レポートでも触れたのですが、世界中の投資家と話す中で、「アメリカ以外には関心がない」というのがはっきり見えてきました。シンガポールでも同様の状況です。この「アメリカ例外主義」の考え方は、トランプ氏の勝利がさらに強化しているように思います。なぜなら、「これからはアメリカ国内にすべての資源を注ぐのではないか」と考えるからです。まるで磁石のように資金がアメリカに引き寄せられている、そんな状況です。
市場もその考え方を反映しています。つまり、市場は「その通りだ」と言っているわけです。ただし、過剰に織り込まれている可能性はあります。特定の銘柄やセクターに関しては、明らかに過熱気味だと言えます。それでも、方向性としては間違っていないでしょう。投資家たちは今、目の前にある現実を見ているだけです。米国が市場シェアを拡大することで、「アメリカ・ファースト」の姿勢がさらに強まると予想しているのです。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
「ピンポイントで狙う」というお話がありましたが、やはり成長が期待できる分野に注目することになりますよね。AI以外のテーマにおけるローテーションが見られていて、市場は新しいテーマを模索している状況だと思います。では、次に投資トレンドを大きく変える可能性のあるテーマとして、どんなものが考えられますか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
その通りです。私たちは今、次の成長分野を探しているところです。この2〜3年、民間経済の一部ではリセッションが続いてきました。住宅市場や製造業、IT支出、特に消費財以外の部分では低迷が続いています。そういった「打ちのめされた」分野の中から、次に再加速する可能性がある場所を見つけたいと考えています。
現時点で注目しているのは2つの分野です。1つ目は消費財です。インフレが少し戻りつつあり、これは収益にとってはプラスに働く可能性があります。2つ目は運輸セクターです。この分野は、補充需要や先行需要がまったく見られず、まるで「不況」と言えるほどの状態にありました。ただ、もし投資家にアニマルスピリッツが戻ってくれば、この分野には回復の兆しが出てくるかもしれません。
ただし、現時点ではまだ結論を出すには早いです。収益予想の広がり(リビジョン・ブレッド)が底を打ったという確証は得られていないので、様子を見守っている段階です。それでも、この2つの分野は私たちのビンゴカードの中に入っています。
[アンマリー・ホーダーン](Bloomberg)
一方で、逆に見て、今の動きの中で、不況モードに陥る可能性がある分野は何だと考えていますか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
不況モードにまでは至っていないと思いますが、減速が見られる分野はいくつかあります。例えば、半導体セクターは今かなり厳しい動きになっています。ご存知の通り、AIに関連する一部の銘柄を除いて、全体的に減速傾向にあります。AIというキーワードが出れば恩恵を受けるものの、実際に支出の増加を享受しているのはごく一部の銘柄だけです。
一方、従来型の半導体、特にメモリーやアナログといったコモディティ性の強い分野は、AI期待で一度買われた後、今は売り込まれている状況で、これは現在進行中の動きです。
同様に、消費者サービス分野でも減速が見られるかもしれません。ここではインフレの鈍化が影響しています。少し興味深いのは、一般的に、インフレが加速している局面では、平均的な銘柄が好調になる、という点です。なぜなら、その時期は価格決定力が高まるため、収益成長が期待できるからです。これは2020年から2021年の状況が典型例です。
最近は、消費財と消費者サービスの間で動きに差が出ています。サービス分野は価格決定力がありましたが、消費財はそうではありません。ただ、消費者物価指数(CPI)のデータを見ると、サービス分野のインフレは減速し始めており、逆に消費財は底打ちしつつある兆候が見られます。まだデフレ状態ではありますが、少しずつ改善の兆しが出てきているのです。
[アンマリー・ホーダーン](Bloomberg)
来年の最も強気なカタリストについてですが、バンク・オブ・アメリカのファンドマネージャー調査では、中国の再加速、AIによる生産性向上、ウクライナでの和平合意、そして米国の減税が挙げられていました。これらの中で、最も強気な材料になるのはどれだとお考えですか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
米国の減税については、現時点で、追加的な効果という意味では少し期待薄かと思います。現行の減税策の延長はあるかもしれませんが、2017年のようなインパクトは見込めません。むしろ延長されない場合には、明確なネガティブ要因になるでしょう。減税についてはそのように考えています。
ウクライナでの和平合意については、もちろん望ましいことですが、それが直接的な投資機会に繋がるかというと、少し疑問です。例えば、防衛関連銘柄に強気な投資家が多い現状を考えると、和平合意が実現すれば、逆にそういった銘柄にとってはマイナス要因になるかもしれません。なので、一部の分野にはネガティブな影響が出る可能性があります。
次に、生産性向上ですが、これはAIだけではなく、労働生産性全般の話です。移民の受け入れが減少している現状では、労働生産性を高めることが非常に重要になってきます。もし生産性を高められなければ、ビジネスにとっては大きな逆風になるでしょう。これはAIによる部分もありますが、人々の業務効率自体をどう高めるかという点も含まれます。正直なところ、まだ多くの人がオフィス勤務に戻りつつある段階の状態ですし、そこにも改善の余地はあると思います。
もう1つ、少し先の話になりますが、政府部門の効率化も挙げたいですね。これは2026年、2027年あたりのテーマかもしれませんが、政府職員の効率をどう高めるかが鍵になるでしょう。彼らは決して能力が低いわけでも悪い人材でもなく、単に、良いチームで働けていないだけだと考えています。これは前回もお話ししましたが、こうした人材を民間経済に再配置できれば、回復しつつある民間部門にとって大きな力になるはずです。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
とても興味深い指摘ですね。先ほど、インフレが加速している局面では企業業績が改善しやすいとおっしゃいましたが、これは来年の予想とは少し異なる見方かもしれません。多くの人が、ディスインフレ環境こそが株式バリュエーションにとってゴルディロックス(適温経済)の理想的な状態だと考えています。もしFRBが目指す通り、実際にディスインフレが進行した場合、これまでインフレの加速による価格決定力で恩恵を受けてきた企業にとって、株式市場のリスク要因になり得るのでしょうか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
その通りです。株価収益率(PER)は下がるでしょう。これはインデックス全体のリスクだと考えていますし、しばらくこのことを考えてきました。今年の夏以降、平均的な銘柄の方が良いパフォーマンスを示すラリーがありましたよね。例えば、S&P500の均等加重の指数と時価総額加重の指数を比較すると、均等加重指数の方が強かったわけです。しかし、そのラリーは今ほぼすべての利益を失い、今後その比率は新たな安値をつける可能性があると見ています。つまり、来年の第1四半期の安値を再度試す展開になり、結果として時価総額加重指数の方が優勢になる、ということです。
その安値こそ、私が買いに入りたいタイミングです。なぜなら、その時点でインフレが意外と粘り強く、価格決定力が残り、結果として収益が広範囲に支えられる可能性があるからです。そうなると、平均的な銘柄がインデックスを上回るパフォーマンスを示すローテーションが起きるかもしれません。
そのことは、インデックス全体で10%程度の調整、あるいはそれ以上の下落を伴うかもしれませんが、それでも平均的な銘柄の方が良い動きになる可能性があるのです。これは2000年の初頭にも起きた現象と似ています。当時は経済自体が非常に良好な年でしたが、金利の上昇によって高成長銘柄が下落し、インデックスは下がった一方で、平均的な銘柄は非常に堅調でした。
今の市場の状況は、その時と非常によく似たセットアップだと感じています。ただし、今はまだ早いですね。年末前のこのタイミングは、いわば「モンキータイム」のようなもので、残り2週間は市場がやや混乱しがちですし、多くの投資家が年末のポジション調整に動いている段階です。
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
モンキータイムとは?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
モンキータイム? そうです、これがモンキータイムです。つまり、ポジションの整理が中心で、皆がとにかくホリデーシーズンに入りたがっているんですよね。だから、今は誰も大きな勝負には出ないんです。そういうことです。だからこそ、来年第1四半期は面白くなるかもしれない、と考えています。
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
NVIDIAの調整についてですが、11月初旬の高値から10%超の下落となっていますね。これについては何が起きているとお考えでしょうか?
[マイク・ウィルソン](Morgan Stanley)
まあ、成長の減速が見られる、ということですよね。今年の初めに利益率がピークをつけましたし、成長は減速していますが、それでも非常に堅調です。これは何か問題が起きているわけではなく、単純に良いニュースがすでに株価に織り込まれていたということです。今年の夏以降、株価は横ばいに推移してきましたが、今は調整局面に入っているということですね。
また、他のAI関連の勝ち組銘柄への資金のローテーションも起きています。こうした動きは普通のことで、何か不自然なことが起きているわけではないと思います。
3. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/12/17 EST)
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