米国市場は健全に推移:メガキャップの1%は、スモールキャップの15%以上(by ゴールドマンサックス)
最近の大型テクノロジー銘柄と株式市場全体の下落傾向の分析と今後の投資機会について、ゴールドマン・サックス・リサーチのクリス・ハッシーとベン・スナイダーとの会話を紹介します。(参考訳)
[トピックス]
ポテンシャルエネルギーと回転理論。資金は市場から抜けていない
大統領選挙を前にボラティリティが上昇するのは特異なことではない
下落時に買う戦略、もしくは、均等加重型資産への分散検討を
来週は重要イベントが目白押し
尚、ご承知かと思いますが、ゴールドマン・サックスは、セルサイドなので、多少ブル色の強い会話になっている点には、ご留意ください。
1. インタビュー
[クリス・ハッシー]
メガキャップのテクノロジー銘柄に加えて株式市場全体が売り込まれましたが、更なる下落の可能性はあるのでしょうか? また、今はどこに投資の機会があるのでしょうか?
ゴールドマン・サックスのリサーチ部門のクリス・ハッシーです。
本日は、米国ポートフォリオ戦略チームのシニアストラテジストのベン・スナイダーが参加しています。ベン、ご参加いただきありがとうございます。
[ベン・スナイダー]
お招きいただき、ありがとうございます。
[クリス・ハッシー]
さっそくですが、2週間前に何が起きたのでしょうか?
S&P 500が年末目標の5600を突破し、すべてが順調に見えたのにも関わらず、今では市場が約5%下落し、水曜日の売りについては、勢いを増しているようです。何がマーケットに起きているのでしょうか?この突然生まれた不安の原因は何ですか?
[ベン・スナイダー]
2週間もあれば、多くのことが起こり得ますが、その要因についえては、特に2つの点を指摘したいと思います。1つはマクロ的な視点、もう1つはミクロ的な視点によるものです。
マクロ的な観点では、2週間前には非常に良好なインフレのデータが発表され、投資家は、FRBが金利をすぐに引き下げ始めるであろうと確信しました。通常、これは株式市場にとって良いことですが、同時に多くの投資家が、バランスシートが強力な大企業、特に多くのS&P 500銘柄やメガキャップ銘柄に対し、これまで過剰な評価プレミアムを支払ってきたのではないかとの疑問を抱くようになりました。これがマクロ的なポイントです。
そしてミクロ的な観点からは、過去1~2年間に急増したAI投資が、本当に高い収益や生産性の向上という形で十分なリターンを生み出しているかどうかという懸念が拡がって来たという点です。この投資行動が実際の企業価値に見合っているかどうかが疑問視されているのです。
[クリス・ハッシー]
では、その2つ目のポイントについてもう少し詳しく踏み込みます。
あなたは、メガキャップテクノロジー株、いわゆるマグニフィセント・セブンは、プレミアム評価に値するそもそもの優位性があるとされていますが、これらの優位性が失われている兆候が見られるのでしょうか、それとも単に過大評価の問題なのでしょうか?
[ベン・スナイダー]
そうですね。これらのテクノロジー株は、ここ10年近くにわたり、FRBが利上げを始める前から、またAI投資が話題になる前から、好調なパフォーマンスを見せてきました。その背景には、強力なビジネスモデル、平均以上の収益成長、高い利益率があります。この2週間の間に、それらのどれかが変わったという情報はありません。
問題は、非常に高いポジショニングと非常に高い評価にあると思います。物理学の用語で言えば、高いポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)のようなものです。そこに先ほど述べたカタリストが加わって、ポジショニングと株価が急激に変動したのです。
[クリス・ハッシー]
物理学の話は面白いですね。そして物理学には回転理論(a theory around rotation)というものもあります。市場が売られると、トレーダーは何かから何かへのローテーションを話題にします。しかし、あなたが指摘されているように、この市場は特定の上位銘柄に非常に集中が進んだあと、それらの上位銘柄が売られています。
S&P 500を高水準に保つために、ローテーション先として十分な選択肢があるのでしょうか?それとも、メガキャップテクノロジー株が売られると市場全体も下落してしまうのでしょうか?
[ベン・スナイダー]
S&P 500だけを見て米国の株式市場の動向を判断しがちですが、実際には指数内には大きな格差が存在しています。
過去2週間、S&P 500は下落し、特にメガキャップテクノロジー株はさらに下落しました。しかし、均等加重型のS&P 500、つまりS&P 500の平均的な株価は実は上昇しています。さらにいえば、中型株や小型株はもっと上昇しています。
数学的に見ても、メガキャップテクノロジー株はS&P 500の市場価値の約3分の1を占めているため、これらの株が下がると市場全体が引きずられるのは当然です。しかし、それは同時に、他の3分の2の部分が改善している限り、良好なマクロ経済データや堅実な企業収益データがあれば、全体として市場が上向く可能性があるということも意味します。
[クリス・ハッシー]
確かに重要なポイントですね。
ローテーションの話に入る前に、もう1つマクロ側の質問をさせてください。マクロの側面では、インフレデータに加えて、米国大統領候補の動きが売りの加速と重なったように見えます。現在の市場には、政治的不確実性が織り込まれているのでしょうか?
[ベン・スナイダー]
その点については、それほど重要ではないかもしれませんが、確かにその一因である可能性はあります。過去数十年を振り返ると、夏の終わり、つまり7月や8月には政治的不確実性の指標が上昇するという一貫したパターンが見られます。投資家は一般的に不確実性を嫌うため、これに伴い株式のボラティリティが上昇し、株式の評価額が少し下がる傾向があります。最近では、ニュースのヘッドラインや予測市場のボラティリティの増加が見られますので、これも今回の市場の下落に寄与していると考えられます。
[クリス・ハッシー]
そうですね、大統領選挙は4年ごとに行われるので、過去の動向を参考にすることができます。選挙前の市場の動きや投資家の反応を振り返ることで、今後の展開を予測する手がかりを得られるかもしれません。
次にスモールキャップの話に移ります。長い間、スモールキャップ株のパフォーマンスの低さについて話してきましたが、最近の売りが進む中で、スモールキャップ株は非常に好調です。
この逆転現象を引き起こしている要因は何でしょうか?スモールキャップはメガキャップテクノロジーの空白を埋めることができるのでしょうか?そして、それに見合うファンダメンタルズはあるのでしょうか?
[ベン・スナイダー]
つまり、これらは冒頭で話したメガキャップ企業を引き下げるカタリストとは反対のものです。
金利が下がると、投資家は、財務の健全な大手企業にはあまりプレミアムを払わなくなるかもしれませんが、レバレッジが高く、財務の弱い小型株には明らかにプラスになります。
また、巨大なテクノロジー銘柄から資金が流出する場合、それがどこか他のところに流れていく必要があります。そして、それが小型株に流れると、大きな影響が生まれます。
市場規模の違いをお伝えしますと、S&P 500からメガキャップの資産の1%が流出して、例えばラッセル2000の小型株インデックスに流れるとすると、その1%はラッセル2000の資産における15%以上に相当することになります。これがラッセル2000で急激な上昇が見られる理由になります。
[クリス・ハッシー]
素晴らしい指摘ですね。
先月、あなたのチームは市場に関する4つのシナリオ、すなわち、リセッション、キャッチダウントレード、キャッチアップトレード、そしてメガキャップの卓越性の延長を提示しました。そのうちの1つがすでに現実化し始めているということでしょうか?
[ベン・スナイダー]
我々は4つのシナリオを考察し、それぞれが現実になる可能性を考えていましたが、実際には2つのシナリオが現実になりつつあります。
1つ目は、メガキャップテック株が下落しているシナリオです。AI投資への期待や興奮が少し減退しているため、これらの株はマルチプルの低下を経験しています。
そしてもう1つは、より小規模な企業がキャッチアップしているシナリオで、これらの企業は、より低い金利やポジションのローテーションを見込んでいるという状態です。
[クリス・ハッシー]
そうですね、マーケットには時価総額加重型のS&Pと均等加重型のS&Pという2つの異なるマーケットがあり、それぞれのトレードが異なる動きを見せています。
さて、9月のFOMC会合や11月の選挙に向けて、今後数ヶ月間でどこに最良の投資機会があるとお考えですか?
[ベン・スナイダー]
数週間前、我々は目標を上回ることができました。景気後退を想定する際に2つの方法があります。1つは市場の下落を不安材料として捉えること、もう1つはそれをチャンスと見做すことです。私はそれをチャンスと捉える傾向があります。
歴史的に見れば、S&P 500が5%下落した時に購入し、その後3か月間保持していた投資家の約80%が利益を得る結果になっています。ですので、S&P 500の下落時に買うのは、たいてい良い戦略といえます。
また、少し分散投資を検討するのも良いと思います。市場の集中度やAI投資について懸念がある場合は、時価総額加重型ではなく、均等加重型のS&P 500に投資することも一つの方法です。
しかし、全体としては、マクロ経済の状況は依然として非常に健全で、多くの株の収益状況も健全であると考えています。また、FRBが間もなく利下げを開始することを期待しており、これは株式にとっては良い材料になります。
[クリス・ハッシー]
素晴らしいご指摘です。
さて、直近の予定として、来週は何が控えているか教えていただけますか?
[ベン・スナイダー]
来週は大きなイベントが2つあります。
まず、決算発表シーズンの最大の週で、約40%の企業が決算を発表します。
そして、7月のFOMC会合があり、今後の金利引き下げに関する見通しについて何かしらのニュースが聞けることを期待しています。
[クリス・ハッシー]
今週は重要な週です。
本日はお越しいただきありがとうございます。
2. オリジナル・ソース
(Original Published date : 2024/07/27)
以上です。
御礼
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だうじょん
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