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"Higher for Longer"の金融政策の続く環境:米国債権アナリストの見解


 JPモルガン、フランクリン・テンプルトン、パインブリッジ、BNPパリバの債券アナリストを招いたBloombergのインタビュー・コンテンツの紹介です。
 先週9月18日のFRBによる0.5%の金利引き下げ決定を受けた直近の10年物国債の動きや利下げ見通しについてのFRBと市場のギャップがもたらす債券市場の不確実性について。また、中立金利の見通し、ハイイールド債市場、財政政策の影響についてをテーマとして取り上げて各アナリストが各々の見解を紹介しています。
 2022年3月のFRB利上げ開始から2年半が経過。9月18日に発表された金利見通しは、2026年の中央値が2.9%、ロンガーランも2.9%と予測されており、今後も高く据えられた金利に経済がどのように対応するのかが注目されています。インフラ懸念も払しょくされてはおらず、長期金利の上昇やハイイールド債の発行の活発化する兆しを踏まえ、直近から中期にかけての影響について意見交換が行われています。ご参考下さい。

[主なトピックス]

  • 50ベーシスポイントの利下げとその影響

  • イールドカーブと景気後退リスク

  • 中立金利と長期的な金融政策

  • 債券市場のボラティリティ

  • 財政政策の影響とインフレ継続リスク


尚、当該コンテンツのオリジナル・コンテンツは、米国時間 9月20日に配信されたものです。




[1]プロローグ


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 
FRBが金利を50ベーシスポイント引き下げ、経済を守るために大胆に動きました。投資家たちは今後の金利引き下げペースについて議論を交わしていますが、パウエル議長は50ベーシスポイントの引き下げが常態化するとは考えないよう警告しています。
 国債市場は、ここ数年で最も注目を集めた週を終え、やや弱含んでいます。今日は、その50ベーシスポイントの引き下げをどう消化するかが大きなテーマです。


<フラッシュバック:50BP利下げ決定後のアナリストのコメントまとめ>

FRBは非常に繊細な判断を試みました。

ダナ・ピーターソン(ザ・カンファレンス・ボード)

50ベーシスポイントの利下げをした上で、どうやって市場の不安を払拭できるでしょうか?

ビル・ダドリー(元ニューヨーク連銀総裁)

記者会見での課題は、市場を動揺させずに50ベーシスポイントの引き下げを発表することにありました。

ジェフ・ローゼンバーグ(ブラックロック)

パウエル議長はそれを非常にうまくやり遂げたと思います。

ビル・ダドリー(元ニューヨーク連銀総裁)

彼は見事にそれを乗り切りました。

ジェフ・ローゼンバーグ(ブラックロック)

今回の50ベーシスポイントの引き下げは、ハト派的な対応です。

モハメド・エル=エリアン(ケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジ)

ただ、予想よりはやや控えめなハト派と言えるでしょう。

ボブ・ミケル(JPモルガン)

彼らは基本的に「良いニュースがあるのでこの利下げを行う」と説明しました。

ビル・ダドリー(元ニューヨーク連銀総裁)

他にもいろいろと言っていましたが、50ベーシスポイントの引き下げを実施したのが実際です。

ピーター・ティル(アカデミー・セキュリティーズ)

これは、金融政策の引き締めを行っている現状に対応したものです。

ジョナサン・ピングル(UBS)

7月に利下げを見送ったときと何が変わったのでしょうか?

モハメド・エル=エリアン(ケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジ)

おそらく彼らはこの後、慎重な姿勢を崩さないでしょう。25ベーシスポイントの引き下げが続くでしょう。

ピーター・ティル(アカデミー・セキュリティーズ)

今後はデータに基づいて、非常に慎重に進めていくと思います。

スバドラ・ラジャッパ(ソシエテ・ジェネラル)

基調としてはソフトランディングを目指しています。

ジェフ・ローゼンバーグ(ブラックロック)

ソフトランディングを目指すシナリオであり、うまく実現できることを願っています。

ビル・ダドリー(元ニューヨーク連銀総裁)



[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 現在、米国債2年物と10年物のイールドカーブについて注目したいと思います。このイールドカーブは、10年債と2年債の利回り差を示しており、歴史的に見ても非常に大きな逆転を経てきました。現在は5週連続で急勾配に動いており、このことは2021年以来最長の期間、そして2022年以来最も急勾配の水準となっています。通常、このような状況は景気後退と一致することが多いのですが、今回はどうなるでしょうか?

 まず、短期的な見通しについてお話しする前に、短期金利に関する期待の変化を見てみましょう。ここ数か月、特に数週間で大幅に再評価されているのがわかります。50ベーシスポイントの利下げに向けた動きが続く中、第2四半期末からすでに100ベーシスポイント以上の変動が見られています。

 さて、FRB議長のジェローム・パウエル氏は、FRBの決定を受けて発言しました。彼のコメントをご紹介します。

これを「これが新しいペースだ」と考えるべきではありません。ベースケースとして考えてください。もちろん、何が起こるかはその時になってみないと分かりません。

ジェローム・パウエル(FRB議長)@FOMC会見(9/18)

我々は時間をかけてポリシーをより中立的な水準へ調整し、適切と思われるペースで進めています。

ジェローム・パウエル(FRB議長)@FOMC会見(9/18)

我々が後れを取らないようにするという決意の表れと受け取って下さい。 

ジェローム・パウエル(FRB議長)@FOMC会見(9/18)



[2]インタビュー:債券利回り


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 ここでお招きしているのは、JPモルガンのオクサナ・アロンコフ氏とフランクリン・テンプルトンのソナル・デサイ氏です。
 短期金利の動きや50ベーシスポイントの利下げに注目されてきましたが、それ以来、債券市場でのボラティリティもかなり高まっています。これらの動きは、どれだけ早く、どの程度まで利下げが進むかという推測に基づいています。オクサナさん、年末に向けてどのように予測されますか?


[オクサナ・アロンコフ](JPMorgan)
 ここまでの債券市場は興味深い反応を示していると思います。特に長期金利の動きに注目しています。今週の初めに、長期の金利がすでに200ベーシスポイントの利下げを織り込んでいるとお話ししました。しかし、経済が劇的に減速しない限り、この水準が10年物国債にとって適切なのかは疑問です。そして実際、私が予想していた少々性急な50ベーシスポイントの利下げが決定した後、10年物国債はむしろ着実に上昇しています。ジェローム・パウエル氏が経済を守り、後れを取らないようにし、金利が過度に制約的にならないようにすると話していましたが、経済データにはそのような傾向は見当たりません。何から守る必要があるのでしょうか? GDPは非常に好調ですし、今週も小売売上高が予想を上回りました。工業生産も堅調です。全体的に見ても、労働市場が極端なタイトさからやや正常なレベルに戻った点を除いて、非常に建設的な指標が並んでいます。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 そもそも50ベーシスポイントの利下げが必要だったのでしょうか?この疑問については、いくらでも議論できますが、今後の進展はどうなるでしょうか? 11月の会合で再び50ベーシスポイントの利下げが必要だと思いますか? それとも、ここからペースダウンしていくとお考えですか?

[ソナル・デサイ](Franklin Templeton)
 オクサナの意見に全面的に賛成です。私自身も、50ベーシスポイントの利下げは必要なかったと考えています。まあ、実際に50ベーシスポイント下げましたが、パウエル議長は市場を落ち着かせようとしたのだと思います。
 今日、ウォラー理事が何をしているのかはよく分かりませんが、パウエル氏の発言に含まれたタカ派的な印象を取り消そうとしているように感じます。私としては、25ベーシスポイントずつの利下げが妥当だと思っています。正直なところ、長期的な中立金利は3.75〜4%に近いべきだとずっと主張してきました。過去数四半期に渡りFRBは、中立金利の推定値を少しずつ引き上げて、2.5%未満から2.9%近くまで上がってはいますが、さらに引き上げる必要があると考えています。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 そのテーマを出して頂き、ありがとうございます。今週、投資家たちからR-star(自然利子率)について様々な意見を聞いてきましたが、オクサナさんはどのようにお考えですか?

※ R-star(自然利子率)
経済が完全雇用を維持し、物価の安定を保ちながらバランスよく成長できる実質金利。景気を過度に加速も減速もしない金利水準として名目利子率や実質利子率のどちらでも使わることのある中立金利とは厳密的に異なる。

[オクサナ・アロンコフ](JPMorgan)
 まずは、FF金利に関する現実を確認したいと思います。パウエル議長が中立金利に戻ると言及していますが、歴史的に見ると、平均的なFF金利は5.6%です。1980年代初頭の極端な例を除けば、約4.6%になります。これは、現在の市場が織り込んでいる水準よりも、ずっと高い水準が長期間続くということです。R-starについても、もう2%台ではなく、FRBもその結論に静かに向かっています。2%のインフレ率について言及していますが、実際には市場がより高いインフレ率を受け入れるような状況を許容しているのです。
 昨年末には2.2%だった推定が、現在は3%に向かっており、この数値は今後も上昇し続けるでしょう。
 私たちは「長期間にわたる高金利(Higher for Longer)」の時代に突入していますが、その一因として、財政の影響力が大きくなっていることが挙げられます。これがもう一つの重要なポイントです。現在は、財政主導の時代にあり、それが長期金利や中立金利を下支えする状況が続くでしょう。

[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 興味深いのは、仮に中立金利が2%以上だと考えても、スプレッドは依然として非常に大きいという点です。3.75%くらいまで低下するとおっしゃっていましたが、今週初めにはカーライルが4.5%に近いと発言していました。まだ大きなギャップがあります。市場とFRBが中立金利を調整していく中で、来年はどれくらいのボラティリティを予想していますか?

[ソナル・デサイ](Franklin Templeton)
 そうですね、来年を見通す際には、財政政策の動向を無視して考えることはできません。財政政策の影響は非常に大きいですが、11月の大統領選挙の結果にも左右されない可能性は高いと思います。なぜなら、両党とも財政拡大の意向を示しているからです。よく「心配しなくても、政府が分割されるので抑止される効果がある」との話を聞きますが、現実を振り返ると、過去2年間もそうした状況でしたが、それでも大規模な財政赤字が積み上がるのを防ぐことはできませんでした。
 もし一党が完全に勝利するようなことがあれば、それは極めて深刻な事態になります。ボラティリティが高まるのは間違いありませんが、5年から10年の長期的な見通しの中、利回りが上昇圧力を受け続けるかについては、「YES」。はい、そうなると思います。

[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 興味深いのは、ここで先物の価格を見てみると、端末のWIPで確認すると、来年末までに約200ベーシスポイントの利下げが織り込まれている点です。それは、おおよそ3%未満、具体的には2.84%前後の金利を示唆しています。これは、私たちが話してきた水準よりもまだかなり低いです。市場が何か大きな誤りしているのでしょうか?それとも、ここで話しているよりも厳しい着地点を織り込んでいるのでしょうか?


[オクサナ・アロンコフ](JPMorgan)
 そうですね、7兆ドルもの国債がまだFRBのバランスシートに残っている状況で、債券市場の予測機能について話すのは難しいと思います。ちなみに、これはリーマンショック直後に約3兆ドルだったのが、今では倍以上に膨れ上がっています。それでも私たちは今、この現実の中にいます。
 では、市場が何を織り込んでいるのかというと、過去15年にわたって、終わりなき流動性供給と財政刺激が続いてきたことを無視するわけにはいきません。FRBが流動性を提供し続けたのは、本来その必要がない時期にも及んでいました。
 このため、市場には「正常化」というものが10年物国債の利回りが2%台という認識で根付いている部分があり、今後さらに多くの経済データが出るにつれて、その考えが誤りであることが明らかになると思います。
 非常に興味深いのは、財政的な背景についても同じことが言えるという点です。今のところ、1.9兆ドルの財政赤字がある中で、定期的に弱い米国債入札が見受けられますが、この現象は今後ますます頻繁に起こるでしょう。その結果、債券市場がプレッシャーをかけ、長期金利の期待値が上昇していくと思われます。これから10年の金利動向を考えると、確かに上下に大きく揺れる局面があるでしょうが、全体的には金利は下がるのではなく、上昇していくと考えています。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 財政のインパクトについても興味深いので、もう少し掘り下げましょう。ソナルさん、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOがワシントンのイベントで、インフレがそう簡単に収まるとは思えないと述べていました。多くの投資家にとって、この財政のインパクトは重要な要素です。2025年に新しい大統領、共和党でも民主党でもどちらが就任しても、再びインフレを懸念する必要があるとお考えですか?

[ソナル・デサイ](Franklin Templeton)
 そうですね、端的に言えば、まったくその通りです。私は、供給ショックが主因だという考えには最初から懐疑的でした。今になってIMFも、これまでのインフレは供給ショックよりも財政政策や金融政策が大きな要因だったと認めています。実際、私たちが数年間言ってきたことと完全に一致しています。つまり、財政政策が需要に大きな影響を与え、今後も需要を支えるだろうということです。
 市場には「最近の出来事に偏った見方」があると思います。リーマンショック後の時期を引き合いに出し、その水準に戻ると考えている人がいますが、これは偏った見方です。その前の50年間のデータを見ると、むしろ市場と経済が実際にどう動いてきたかを反映する方向に戻っていくと考えられます。
 そして、デフレ懸念は全く見られません。リーマンショック後には長期停滞やデフレが大きな心配事でしたが、今のところそれらが差し迫った危機である兆候は見受けられません。


[オクサナ・アロンコフ](JPMorgan)
 そうですね、私も同じ意見です。少なくとも私の知る限り、FRBはこれまで一度も、自身の金融政策と現在のインフレとの関連性を認めたことがないのです。つまり、「もしかしたら、我々が何か間違えたかもしれない。これからの方針を再評価する必要があるかもしれない」という、いわゆる「反省の瞬間」(Come to Jesus:神のもとへ赴く)がまだ訪れていないように感じます。
 それで、彼らが「中立金利に戻る」とか「金融政策を緩和する」と話すとき、それが実際に何を意味するのか疑問に思います。さっきも言われた通り、ここ12年、15年の状況は異常だったんです。これが「普通」ではなく、今のような5%や4%台後半の金利が、債券市場の歴史を考えれば、むしろ正常に近い水準なんです。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 最後に、投資家たちは「高金利が長く続くこと」(Higher for Longer)に徐々に慣れてきていますね。
 フランクリン・テンプルトンのソナル・デサイさん、ありがとうございました。JPモルガンのオクサナ・アロンコフさんも引き続きお付き合いいただき、ありがとうございます。



[3]インタビュー:入札市場


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 これから入札市場についてお話しします。今月の米国の高格付け債の発行額は、すでに予想を上回っていますが、今週は今年最大の想定外がありました。FRBの大きな決定の後、一部の発行が少し混乱しました。信用市場の状況やその裏側で何が起こっているのかを詳しく見ていきます。

 まずは米国債から。注目すべき2つの入札がありました。10年物のTIPS(物価連動国債)と20年物の再発行があり、後者は1年以上ぶりの最低利回りで落札されました。プライマリーディーラーへの割当額も2月以来の高水準となりましたが、需要はやや低調でした。
 米国の高格付け債市場では、今週の発行総額が1220億ドルを少し上回り、予想されていた1250億ドルには届きませんでした。これが今年最大の想定外です。ただ、ディーラーたちは来週の反発を期待しており、どう展開するかが注目です。

また、ジャンク債の利回りの平均が2年以上ぶりの最低水準となっており、これが新規発行を活発化させています。今月の発行総額は240億ドルに達し、昨年9月から34%増加しました。

 そして、BNPパリバのメーガン・ロブソン氏は、米大統領選に向けてクレジットスプレッドが拡大すると予想しています。

今後6〜8週間について、私たちはクレジットに対して弱気の見方をしています。投資家は政策リスクをやや軽視しているように思われますが、通常、選挙が近づくとボラティリティが高まる傾向があります。特に今回は、結果が大きく異なる二者択一の状況ですので、投資家はリスクを抑え、ポートフォリオをリスク縮小に向けて調整することが一般的です。これが結果的に、クレジットスプレッドの拡大につながるのです。したがって、11月に向けてクレジットスプレッドは広がると考えています。

[メーガン・ロブソン](BNPパリバ)



[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 JPモルガンのオクサナ・アロンコフさんは引き続きご参加いただいています。そして、PineBridgeのグローバルヘッドであるスティーブン・オーさんもお招きしています。
 ここまでの状況を踏まえて、スティーブンさん、今の時点でジャンク債を購入する判断をされますか? ソフトランディングを予想しているなら、信用リスクの高い債券に手を伸ばしますか? それとも、状況が悪化する可能性を懸念されていますか?


[スティーブン・オー](PineBridge Investments)
 最初に、ジャンク債について話をする際には、少しイメージアップが必要かもしれません。できれば、「セミ・ハイイールド」とでも呼ぶ方がいいかもしれませんが、実際にはその水準には達していません。しかし、基本的には、引き続いてサポートされる兆しが見えています。デフォルト率は上昇ではなく低下傾向にあります。確かに経済は減速していますが、ハイイールド債が最もパフォーマンスを発揮するのは、急成長の経済ではなく、緩やかに経済がプラス成長している経済局面です。
 さらに、FRBが金利を引き下げたことだけでなく、今後の経済に対する強い自信を示す広い視野を持ったメッセージを発したことで、ハイイールド債やスプレッドへのサポートは続くと考えられます。
 ただし、これに反論もあります。特にトリプルC格付けの債券で大きなラリーが起こり、現在のバリュエーションは、少なくとも「適正」か、やや「割高」になっていると考えられます。そのため、今後のシナリオとしては、スプレッドが拡大する可能性が高いです。しかし、拡大すべきか、実際に拡大するかは別問題です。現時点では、レバレッジド・ファイナンスやハイイールド債、レバレッジド・ローンに対する強い需要は続くと見ています。したがって、今年の残りの期間についても、ネット・クーポンベースでは、「利回りマイナス型」のリターンが見込めると考えています。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 信用市場のリスクの高い部分について、どの程度懸念されていますか? スプレッドがここまで縮小している中で、ほとんどリスクが織り込まれていないと言っても過言ではない状況と思いますが。

[オクサナ・アロンコフ](JPMorgan)
 そうですね、リスクは確実に市場に織り込まれていますが、そのリスクに対する脆弱性までは十分に反映されていない状況です。投資を考える際には、常に「何が織り込まれているか」を意識する必要があります。現在、ハイイールド債のスプレッドは200ベーシスポイント台後半にあり、歴史的に見ても非常に狭い水準です。現金に近い利回りと言っても過言ではありません。
 問題は、2020年を乗り切るはずがなかった企業がまだ残っていて、今後の資金調達が難しくなることです。特に、FF金利が4.5%という高水準の中での債券発行は、彼らにとって非常に厳しい環境です。このように信用力の低い企業が耐えている理由の一部は、市場の需要が供給に対して依然として強いからです。また、ハイイールド債のデフォルトの約80%は、直近の満期債務とは無関係に発生することが多いです。これは企業のファンダメンタルズが悪化して、突然「この投資は流動的でなく、継続不可能だ」と判断されることが原因です。
 今の状況を見ると、ハイイールド債のデフォルト率は確かに上昇していますが、非常に低いレベルからの上昇です。また、利子負担カバレッジ比率やEBITDAが下がっている企業も出てきています。全てのセクターでそうではありませんが、特に弱い企業が目立ちます。そして、ハイイールド市場では一部のセグメントが崩れ始めると、市場全体に波及することがよくあります。これまで何度も見られてきた現象です。
 したがって、何が市場に織り込まれているかを考えると、投資家は今、少し余裕を持って待ってみるのが賢明だと思います。今後、市場にもっと良い参入ポイントが現れるでしょう。なぜなら、今は「高金利が長く続く」環境にあり、ジャンク格付けのクレジットには厳しい状況だからです。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 その点を話題にしていただいて嬉しいです。スティーブンさん、現在の水準に安心できるようになるには、どれほど金利が低下する必要があるとお考えですか? 来年や再来年に満期を迎える債券のことを考えると、以前の水準に戻らない可能性が高いのではないかとの多くの懸念があります。その懸念が正しいとすると、金利が十分に早く低下しなかった場合に、どのような影響が出始めるとお考えですか?


[スティーブン・オー](PineBridge Investments)
 過去数年間、レバレッジドファイナンス発行体がデフォルトに陥る主要な要因として、金利の高水準はそれほど大きな影響を与えていません。これまでデフォルトした企業は、数は少ないものの、どちらかというと独自のビジネス課題や構造的な問題を抱えていたことが原因でした。今後数年間についても、利回りの低下や金利の引き下げがデフォルト率の上昇を直接的に引き起こすとは考えていません。実際、ハイイールド市場におけるデフォルト率はすでにピークに達しており、今は減少傾向にあります。
 しかし、レバレッジドファイナンス市場には「負債管理の取り組み」(Liability Management Exercises)と呼ばれるプロセスが進行中で、これはデフォルト以外の形で損失が発生している状況です。また、レバレッジの高水準が問題となっている部分もありますが、これは主にプライベートクレジット市場の成長によるものです。過剰にレバレッジをかけた企業でも、構造的に健全な企業の多くはリファイナンスに成功しています。
 したがって、ハイイールド市場でのリスクに関しては、広範な指数全体を見る傾向がありますが、実際には最も脆弱な層、すなわちトリプルC格付けやストレスのかかった部分に焦点を当てるべきです。これらの部分にクラスターが集中しており、現在ではその総量は非常に低い水準にとどまっています。


[ソナリ・バサク](Bloomberg)
 スティーブンさん、オクサナさん、本日はお時間をいただきありがとうございました。新しい情報がたくさんあって、今日は1時間でも話せそうでした。



[4]オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/09/21 EST)

[出演]
  JPMorgan
   オクサナ・アロンコフ(Oksana Aronov)
   Head of Market Strategy

  Franklin Templeton
   ソナル・デサイ(Sonal Desai)
   Fixed Income CIO

  PineBridge Investments
   スティーブン・オー(Steven Oh)
   Global head of credit, fixed income and co-head of leveraged finance

  BNP Paribas
   メーガン・ロブソン(Megan Robson)

  Bloomberg
   ソナリ・バサク(Sonali Basak)



御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 
だうじょん


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 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。



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