「AIは うんざりするほど優れている」割高な米国株投資に議論の余地はない(AQR Capital Management)
2024年12月3日のAQRキャピタルマネジメントの創業者、クリフ・アスネス氏を迎えてのBloombergのインタビューコンテンツです。
現在の投資環境における課題や戦略を中心に、バリュー株や小型株の現状、ロング・ショート戦略の有効性、特定銘柄に資金集中する影響、税制を考慮した投資運用の重要性、ポートフォリオの多様化戦略、またレバレッジ型ETFについての警鐘など、幅広い議論が展開されました。
クオンツ運用におけるAI技術活用においては、シグナル生成や重みの最適化といた領域においては人間を超える精度をもたらしており、投資活動における競争優位性を得る鍵である一方で、伝統的な経済理論や統計理論との調和の必要性も示唆されています。
[主なサブテーマ]
投資戦略(バリュー株・小型株・市場集中)
小型株プレミアムの有無
米国税制と投資運用の調整
AIとクオンツ投資の未来
レバレッジETFの台頭と市場センチメント
尚、AQRキャピタルマネジメントは、1998年にクリフ・アスネス氏を中心に設立され、世界有数のクオンツ投資運用会社として、データとアルゴリズムを活用した科学的アプローチで、多様な資産クラスや市場に対応する投資戦略を提供しています。同社の主な運用手法は、ロング・ショート戦略やファクター投資、トレンドフォロー戦略で、年金基金や財団、政府系ファンドなどを主要顧客として、AIやオルタナティブデータを積極的に活用しています。研究重視の姿勢と高い透明性が特徴といわれ、データドリブン型の投資分野で著名な企業です。
1. インタビュー
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
これまでに何度も記録的な高値について話してきましたが、その高値の中には株式市場の集中が非常に顕著に現れています。恩恵を受けた銘柄の中でも、特に一部の銘柄が際立って恩恵を受けています。このような状況で、どのように投資を進めれば良いのでしょうか?
[クリフ・アスネス](AQRキャピタルマネジメント)
まず、この時代にクオンツとして活動するのはかなり簡単になっています。我々は一部で伝統的なポートフォリオも運用していますが、その多くはロング・ショート戦略です。具体的には、世界中で約750銘柄をロングにし、同時に約750銘柄をショートにするというバランスを業界別に取っています。このようにして、我々は勇敢な選択をするというより、むしろ問題から距離を置くような運用をしています。
特に、いわゆるマグニフィセント・セブンの銘柄が高騰した年には非常に良い成績を収めてきましたが、これは一部でバリュー戦略も採用している中での成果です。とはいえ、これまで逆の動きが起きたことはほとんどありません。ただ、将来的に逆の動きが起こる可能性も否定できません。集中度の高い市場環境は、一般的なアクティブマネージャーにとっても、我々のような戦略にとっても一定の課題となります。特に、ベンチマークに対してロングポジションしか取れない場合、その情報の多くは、持つべきでない銘柄に関するものです。しかし、一部の銘柄が非常に集中し、巨大化してしまうと、他の銘柄が相対的に小さくなり、その情報の有用性が低下してしまいます。
一方で、ロング・ショートや、少なくともショートも一部許されている伝統的なポートフォリオでは、この問題を回避しやすくなります。つまり、マグニフィセント・セブンを特に考慮しなくても、自分が良いと思う銘柄や良くないと思う銘柄に集中するだけで済むのです。私はこの問題から基本的に距離を置いて運用するスタンスを取っています。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
問題から距離を置くといえば、特に注目すべきファンドがありますね。それについて私の同僚であるジャスティン・アリが指摘してくれましたが、今年約23%の利益を上げているエクイティ・マーケット・ニュートラル・ファンド(訳注: AQRキャピタルマネジメントのファンド「QMNIX」)があります。市場のパフォーマンスを上回っていますね。
[クリフ・アスネス]
そのファンドについては興味ありです。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
このファンドに興味があるのは、市場で一般的な伝統的なバリュー要因があまり良い成果を出していない中で、どのように異なるアプローチを取っているのか知りたいためです。バリューに関して、何をどのように工夫しているのですか?
[クリフ・アスネス]
我々のウェブサイトには、「我々は常にバリュー投資にこだわっているわけではありません。ただし、たまにそうなることもあります。」といった内容の記事があります。市場が絶対的なバブル状態に突入すると、価格に関心を持つ投資家は誰でも影響を受けますが、バリュー投資は我々の戦略の一部に過ぎません。特にここ数年、そして今年は質を重視した戦略が非常に強いパフォーマンスを見せました。具体的には、利益率の高い企業や安定した低ボラティリティ、低ベータの銘柄を指します。また、話せない独自の戦略もありますが、よりEML(新興市場)や代替データを活用した取り組みも進めています。
確かに、引用されると社内から文句を言われるのですが、今年は非常に良い成績を収めています。我々が定義するグローバルに展開し、大きな業界別に賭けをしないバリュー戦略は、今年の成績としてはほぼ横ばいです。それでも、決して悪い年ではありません。一方で、バリュー指数は時価総額加重で構成されており、多くの投資家が米国市場に注目するため、マグニフィセント・セブンとそれ以外という構図が浮き彫りになります。しかし、実際の投資家、特にクオンツだけでなく非クオンツの投資家も、もっと繊細なアプローチを取っています。我々が定義するバリュー戦略は悪くない年でしたが、それが主な成長要因ではありません。むしろ、今年を楽しくしてくれたのは他の要素でした。
とはいえ、今年はまだ終わっていないので、年初来成績という言葉を使いたくありません。まだ12月31日午後4時まで時間がありますし。
[ケイティ・グレイフェルド](Bloomberg)
規模についてもぜひご意見を伺いたいです。最近話題になっているのは、小型株のIPOがほとんどなくなっているという現象です。多くの企業が、もう少し大きくなってから非公開市場に留まる傾向があるようですね。そのため、小型株や中型株のインデックスをスキップしてしまうのかもしれません。このことが、小型株プレミアムという要因が消えてしまったのではないかという議論を生んでいます。これについて、ぜひご意見をお聞かせください。
[クリフ・アスネス]
では、ここでまたクオンツらしく逆に質問をお返ししたいと思います。
我々は、小型株プレミアムが存在したことは一度もないと考えています。
[ケイティ・グレイフェルド](Bloomberg)
それはどういう意味ですか?
[クリフ・アスネス]
確かに、小型株が勝つ時もありますが、プレミアムがあるということは、平均的に見て追加のリターンが得られることを意味します。この考え方が初めて検証されたのは1980年代初期で、いわゆる小型株効果が発見された時期です。私はその約5年後にシカゴ大学にいましたたが、その頃にはすでにこの研究が進められていて、小型株がベータ値を調整した後でも追加のリターンを生むという結果が示されていました。これはクオンツだけでなく、一般的な投資家にとっても重要なポイントです。市場が上昇すれば、1.5のベータを持つ株式は1.0のベータを持つ株式よりもリターンが大きくなるため、小型株が市場に対してより敏感である傾向を持つことは事実です。
ただし、初期のテストにはいくつかの課題がありました。一つは、デリスティング(上場廃止)後のリターンを推定しなければならなかった点です。データベースでは単に上場廃止と記録されているだけなので、そこから回収できる金額を推定する必要がありました。この推定値が過大評価されていたのです。また、従来の統計手法(私も統計は大好きですが)が、毎日取引されない銘柄の市場感応度やベータ、ボラティリティを大きく過小評価していたという問題もありました。多くの小型株は十分に頻繁に取引されていないため、これらの調整を行うと、歴史的に見て小型株プレミアムは存在しなかったことが分かります。
現在の状況を考えると興味深い点もあります。我々はこれを直接取引の戦略に活用しているわけではありませんが、企業が上場を待つ期間が長くなっている影響で、小型株の世界は通常以上に苦境に立たされたバリューのような状況になっている可能性があります。そのため、仮にプレミアムが存在すると信じている場合でも、それが消えたわけではなく、バリュー戦略全般が直面している困難と同じ影響を受けているのかもしれません。
また、私の知る限り、多くの専門家が注目しているのは、小型株の割安と割高のスプレッドが、大型株に比べても歴史的な水準よりさらに広がっているという点です。これは、大型株のスプレッドも過去と比べて広がっている状況下でのことです。これが大きな転換点なのか、それとも悪い状況が続いた結果として今後良い方向に向かう兆しなのか、まだ分かりませんが、どちらの可能性も考えられると思います。
[マット・ミラー](Bloomberg)
大きな転換に関する質問があります。私は現在、資本主義の自由市場であるアメリカで収入の半分を税金として政府に納めています。
私は以前、約10年間ドイツに住んでいました。いわゆる社会主義的なドイツでは、アメリカよりも税率が低かったですし、無料の医療や子育て支援も受けられました。だからこそ、税負担を軽減する方法についての記事を見かけると、つい読んでしまいます。たとえば、ジャスティン・リーさんが書いた「ジャイアントAQRが富裕層クライアントの所得税を削減」(Giant AQR Cuts Income Tax Bills for Wealthy Clients)という記事がありましたが、とても興味深かったです。
[クリフ・アスネス]
その記事のタイトルは正直気に入らなかったですが。
[マット・ミラー](Bloomberg)
どうすれば私もこのような仕組みに参加できるのでしょうか?自分が見落としているものは何なのでしょうか?収入の半分を税金として失っているのに、それに見合う恩恵を受けられていないと感じています。
[クリフ・アスネス]
アメリカとドイツの税制の違いを考えると、確かに重要なポイントがあります。実は、所得税に関して言えば、アメリカの税制は進歩的とされる多くの国々よりもはるかに進歩的です。そのため、アメリカでは本当に高い税率を払っていると感じるのは間違いではありません。
この問題に対する取り組みは約10年前に始まりました。我々は常にクライアントと共同投資を行っていますが、そのクライアントのほとんどは税免除を受けている機関、例えば年金基金、大学基金、財団、または政府系ファンドなどです。この点で、同じ戦略を課税対象の投資家と非課税の投資家に適用するのは賢明ではないと分かっていました。我々は自分たちの戦略を信じていますが、課税状況が異なる投資家に対して同じ方法で運用すべきではありません。
具体例を挙げると、例えば1年前に気に入って購入し、大きな利益を得た株があるとします。そして、購入から11か月半が経過した時点で、モデルやプロセス、もしくはアクティブマネージャーが売却を推奨した場合、税免除を受けている機関であればすぐに売却すればいいのですが、個人投資家の場合はあと2週間待つのが得策です。その短い期間の税制上の違いは非常に大きいからです。実際、税法の中には不思議な規則があります。たとえば、取得後3年後と64日後の利益に対する課税と、66日後の利益に対する課税では、税金に大きな差が出ることがあります。
我々はクライアントの利益のために、売却のタイミングをほんの数週間調整するだけで、税後のパフォーマンスを大きく向上させることができます。基本的にはグロスのアルファを追求する通常のプロセスを維持していますが、税金を考慮した売却のタイミングを戦略的に調整することは非常に効果的です。たとえば、税後運用と税前運用のクライアントがいる場合、ある株の評価を低いと判断したら、税前のクライアントにはすぐに売却しますが、税後のクライアントの場合は15日待って売却します。このような小さな調整が、長期的には大きな違いを生みます。
特に我々の運用では、750のロングポジションと750のショートポジションを持つロング・ショート戦略を採用しています。そして運よく、平均保有期間がほぼ1年未満であるため、自然と多くの意思決定が税前アルファのプロセスと一致します。一方で、HFT(超頻度取引)を行うトレーダーの場合、毎日の取引が課税対象になるため、このような調整はほとんど意味を持ちません。また、ウォーレン・バフェットのような投資家であれば、遺産や慈善活動を通じて税金を回避するという独自の税対策をすでに講じています。
税法は1年という期間に対して非常に寛容で、その恩恵を受けられるタイミングです。私が税法を設計する立場なら今の税法と違ったものにするでしょうが、我々はクライアントのために現在の税法の中で最善を尽くすことが求められます。それが我々の受託者責任なのです。
[ケイティ・グレイフェルド](Bloomberg)
税後リターンについて、少し詳しくお聞きします。これまでも税後リターンは重要視されてきましたが、最近では特に税後リターンに焦点を当てた商品が次々と市場に登場しているように感じます。私が主に関わっているETFの分野では、ETFの枠組みの中でエクスチェンジ・ファンドを作ろうとする試みがあります。少し先を見据えると、これが資産運用の未来、つまり税後リターンを重視した商品やレバレッジを利用したシングルストックETFのような方向性につながっていくのではないかと考えています。
[クリフ・アスネス]
この分野の最善策についての強めの意見を持っています。たとえば、30年前にゴールドマン・サックスでいくつかのエクスチェンジ・ファンドを見たことがありますが、当時からずっと違和感を覚えていました。それらの運用方法が、どうしても自然体とは言えないように感じられたのです。
我々が好むのは、もっと自然なアプローチです。通常のプロセスを進めながら、たとえばあと2週間半待つというような小さな調整を加える形です。そのようなやり方は、自然な延長線上にあるため取り組みやすく、違和感もありません。しかし、交換ファンドのような方法は、どうしても人工的に見える部分があり、その点が私にはしっくりこなかったのです。
[ケイティ・グレイフェルド](Bloomberg)
まるで錬金術のような感じですか?
[クリフ・アスネス]
ええ。私も、そういった解決策にはあまりしっくりきません。ただ、あなたが言うように税後リターンへのより大きな注目という点については、私自身、キャリア全体を通じて待ち望んでいたことです。この業界に入ったばかりの頃から、これは天才的な発想というよりも単純な疑問でした。なぜ課税対象の投資家が税前リターンに注目するのか?という疑問です。
実際、ミューチュアルファンドを対象にした研究では、資金の流れがしばしば最大の税前リターンを持つファンドに向かうことが指摘されています。しかし、それが課税後リターンでは必ずしもベストな選択肢とは限らないのです。
長年のライバルでもあり親しい友人でもあるロブ・アーノット氏が、1980年代にこのテーマについて素晴らしい記事を書いています。確かに革新的な内容だったのですが、当時はほとんど注目されませんでした。そのため、この分野がようやく注目を集めるようになったことはポジティブな進展だと思います。
もちろん、税前リターンをしっかりと生み出すことが大前提です。税制だけを意識した運用では十分ではありません。しかし、一度しっかりとした税前リターンを確保した上で、課税対象の投資家に対してより良い税後リターンを提供する方法を取り入れるべきです。そして、それが新しい発想とされること自体が驚きです。本来、もっと早く実践されていて然るべきだと思います。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
少し前の話に戻りたいと思います。それをどこで何を求めるかという点です。株式市場以外には、どのようなところに注目していますか?近年ではコモディティで大きな利益を上げられてきたようですが、最近では多くの人が債券についても話題にしています。数週間後には、新たな資本市場に関する想定(Capital Markets Assumption)を発表する予定と伺っていますが、多様化についてはどのように考えていますか?いわゆる新しい60/40の考え方とは何でしょうか?
[クリフ・アスネス]
新しい60対40のポートフォリオはどうあるべきかという議論は続いていますが、そもそも誰が本当に60対40に投資しているのかという疑問があります。それが必ず60対40でなければならないというような常識になっているのは少し不思議です。たとえば、我々が50対50の期待リターンについてという記事を書くと、世界中が50対50なんて無理だと言いそうな感じがあります。
我々は、株式と債券の両方について考えています。この内容は、近々発表予定の新たな資本市場に関する想定レポートにも反映される予定です。これらのレポートは主にクライアントサービスの一環であり、我々自身が取引の材料にするものではありません。基本的に10年という長期的な見通しを提供するものであって短期的な運用にはあまり適していません。10年単位で効果を発揮するものは、実用性が低いことも多く、奇妙な指標を示すこともあります。たとえば、現在、「このような結果を期待しています」というような表現です。
具体的には、我々は今後10年間、60対40ポートフォリオについては、特に株式からのリターンが長期平均を下回る可能性が高いと予測しています。これは単純に株式が高値圏にあるためです。しかし、リターンが低いというフレーズでは、投資家を納得させるのは非常に難しいです。さらに、株式をアンダーウェイトまたはショートにする場合、株価が平均より低いペースで上昇しても、最終的にクライアントに対して「お金を減らしましたが、20世紀の基準よりは減らす額を少なくできました」という説明をしなければなりません。それではクライアントに満足してもらうのは難しいでしょう。このような状況下で、従来の60対40に固執するのか、それとも新しいアプローチを模索するべきかという議論は続いています。
この話題に対して、人々があまり興奮しないのも無理はありません。ただ、それでも全ての人々や組織、たとえば個人や年金基金などが、自分たちの生活や計画を立てる必要があります。資産からどれだけのリターンを得られるのか、それで必要な支出を賄えるのかという点で、これらの数字は非常に重要です。もし期待リターンが下がるのであれば、それを把握することは重要です。
ただし、はっきりとお伝えしたいのは、これがトレーディングのシグナルではないということです。それでも市場の期待が低いと考える場合には、60対40の枠組みから離れた分散がより重要だと考えています。正直なところ、我々は常に分散を重視してきましたので、これは普段から私が主張していることと変わりません。ただし、市場が以前ほど高いリターンを提供しない可能性がある時期には、その重要性がさらに増していると考えています。
具体的には、トレンドフォロー戦略や真にショートを行うロング・ショート戦略が有効だと考えています。ロング・ショートといいながら実質的にはほぼロングだけの戦略ではなく、本当の意味でのロング・ショートが必要です。このような戦略が、従来のポートフォリオ構成に代わる選択肢として注目されるべき時期に来ていると感じます。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
株式投資に特化している方にとっての最善のアドバイスは何でしょうか?特に、現在のようなバリュエーションの中で、長期的なリターンに不安を感じながらも今日投資をする場合の戦略についてです。これは、数週間前にゴールドマン・サックスでデイビッド・カーソン氏が話していたことに通じる部分があります。株式だけで運用する場合、どのようにアプローチするのが良いのでしょうか?
[クリフ・アスネス]
ご質問の中に答えが含まれていますが、もし株式のみで運用する制約があるとしたら、次に考えるべきはそこにどれだけアルファを加えられるかという点です。我々が考えるに、たとえば高品質な企業を適正な価格で購入するという、ウォーレン・バフェットが実践しているような戦略は、今後も有効であると信じています。ただし、それは株式リスクプレミアムそのものを解決するわけではありません。これを解決するためには、株式以外の資産に目を向けるか、一部の株式をショートする柔軟性が必要です。
株式に限定された中でも、規律ある合理的なプロセスを持ちつつ、極端に安い戦略に偏らないアクティブマネージャーであれば、まだアルファを生み出せる余地はあると考えています。ただ、オール株式という戦略を根本的に見直すには、なぜ株式100%なのかという問いを自問する必要があります。これまで、特にアメリカの投資家にとっては、株式にとっての黄金期を生きてきたわけですが、多くの人が過去10年のパフォーマンスをそのまま未来に当てはめて考えがちです。現実には、長期的な視点では少なからず平均回帰の傾向があります。これは日々取引可能な戦略というわけではありませんが、少なくとも長期的にはそういった動きが見られるのです。
市場では往々にして逆の考えが広がります。一つの資産が大きく勝ち続けると、それに100%投資することに安心感を覚え、興奮してしまう傾向があります。同じことが米国株と非米国株の関係にも当てはまります。ここ10年で米国株は世界を圧倒しましたが、その多くは米国株が割高になったことによるものです。ファンダメンタルズの改善もありますが、それが米国株の優位性に寄与した割合は10~15%程度に過ぎません。残りの85%は、投資家が米国株のバリエーションに対してより高い価格を支払うようになった結果です。これを未来にそのまま当てはめるのは危険です。
ファンダメンタルズのパフォーマンスについては、米国が他国より優れていると議論する余地はあるかもしれません。しかし、単に価格のマルチプルが動いた結果を未来に延長するのは適切ではありません。ですから、ここで重要なのは、この素晴らしい時代を経験した。だからといって、これが再び起こると仮定するのは少し無謀だという認識を持つことです。
また、株式の上昇に単純に賭けるだけではなく、どのように付加価値を加えられるかという視点を持つことが常に重要です。常に最善のポートフォリオを構築することを目指すべきですが、今はそれが通常よりもさらに重要な時期だと考えています。
[マット・ミラー](Bloomberg)
これは、オズワルド・トムソンさんがリンダさんと話していた内容とも関連していて、現在の市場が非常に高額な状態にあるという事実にも触れています。今はファンダメンタルズよりも勢いや雰囲気が重視される状況です。そこでお聞きしたいのですが、Bloombergには非常に便利な機能があって、企業の収益報告をAIを使って検索できるんです。そこで機械学習やAIという言葉がどれだけ言及されているかを調べてみたのですが、2023年には急増しているのが明らかでした。この話を考え始めた時、真っ先に思い浮かんだのがあなたとAQRのことでした。
まあ、Qアノンとは関係なく、私はクオンツがこれらの技術をどう活用しているかをよく考えています。数年前、あなた方がシカゴ大学からコンピューターサイエンスの専門家を多数採用しているという記事を読んだのを覚えています。AIをどれくらい活用して、他の人たち、つまり競争相手に対して優位性を確保することができるのでしょうか?
[クリフ・アスネス]
AIの世界は、いわゆるクオンツのファクター投資の世界よりも、はるかにダイナミックなものになるだろうと考えています。例えば、ウォーレン・バフェットが実践しているような投資手法を非常にうまく行えば、悪い時期もあるでしょうが、それを続けていけば、世界中がその手法を知っていても利益を上げ続けられる可能性があります。ただし、それはベンジャミン・グレアムの教えを捨てる必要があるという意味ではありません。一方で、ビッグデータやオルタナティブデータを活用する分野では、常に競争が激化し、自分たちの手法を再構築し続ける必要があります。この点については楽観的で、我々はその競争に対応できると考えていますが、それには絶え間ない努力が求められるでしょう。
AIに関しては非常に複雑なテーマで、我々のような会社がそれをどう活用しているかについて話すには時間が足りません。ただ、少なくとも3つの方法でAIを利用していることをお話しできます。
まず、1つ目はシグナル生成です。これはまさに、我々が従来から行ってきたクオンツシグナルをさらに良くすることです。典型例としては、自然言語処理(NLP)を使って文章や音声データを解析し、それが良いニュースなのか悪いニュースなのかを判断する手法です。従来は単語の出現頻度をカウントする程度の粗い分析でしたが、たとえば大規模な横領が増加しているという文でプラス1と評価するのは間違いだったかもしれません。NLPや機械学習は、このような分析をより精緻に行うことができるようになっています。
次に、2つ目はファクターの組み合わせやウェイトの最適化です。この分野では、私がこれまで担当してきた役割がAIによって取って代わられつつあります。たとえば、どのファクターにどの程度の比重を与えるかを最終決定する作業です。AIは、この点で私よりもうんざりするほど優れていると感じることがあります。もちろん、モデルに完全に依存するとオーバーフィッティングのリスクがありますが、それを抑えつつAIを活用しています。
最後に、3つ目は生産性向上ツールとしての活用です。これは非常に基本的な部分ですが、コーディングやデータ処理の速度を大幅に向上させることで、イノベーションサイクル自体を加速させる可能性があります。
また一方で、AIの導入に関して私自身が抵抗感を持った部分もあります。AIは、従来の定量的なプロセスで重視されていた理論と常識を基盤にしたアプローチから少し離れる傾向があります。この点で、AIに依存することへの違和感がありました。特にデータが限られている場合、従来の経済理論や直感が重要になりますが、データ量が十分に多い場合にはそれが必ずしも必要ではなくなることもあります。
私の同僚であるブライアン・ケリーが書いたタイトルがお気に入りの論文「The Virtue of Complexity(複雑さの美徳)」は、これまで多くの人がシンプルさの美徳を語ってきましたが、今では複雑さが目標になり得るという世界に適応しつつあります。私自身もその変化に対応する必要がありましたが、それは確実に投資の新しい時代を切り開く可能性を秘めています。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
何度も繰り返されている話ですが、ウォール街の幹部たちは口をそろえてAIが仕事を奪うことはないと言っていますよね。でも、あなたはここに来て、ある意味では自分の仕事にさえ影響が及ぶと言いました。それは、今後5年、10年、20年でウォール街の仕事にどのような変化が起こることを意味しているのでしょうか?
[クリフ・アスネス]
その問いの鍵となるのはどの時間軸を考えるかという点ですね。哲学的になりすぎないようにしたいですが、十分に長い時間軸で考えれば、AIは我々の仕事をすべて取って代わる可能性があります。それが悪いことかどうかは、移行の仕方次第でしょう。もし、スタートレックのようにレプリケーターで何でも生み出せる世界がやってくるなら、それは決して悪いニュースではないかもしれません。ただ、その過程で大きな社会的混乱が生じる可能性は否定できません。
現時点では、AIは我々のチーム全体の生産性を向上させていますが、人員を削減するような影響は見られていません。しかし、5年後や10年後の予測となると、はるかに難しいものです。正直なところ、分散投資に情熱を持つ私のような人間が、その未来を見通すのに最適な人物かどうかは疑問です。それでも、例えばRFP(提案依頼書)を作成するような仕事では、クライアントの質問に答える部分が今後さらにAIに依存していく可能性は高いと考えています。
とはいえ、10年のスパンでも、人間がまったく関与しなくて済む状況になるとは思えません。現状では、AIが生成したテキストをそのままクライアントに送るようなことはしませんし、今後も慎重であるべきでしょう。ただ、やはり時間軸次第でこの状況は変わっていきます。
技術の進化は止められません。オートメーションを止めると主張する人々の話を聞くたびに、私は笑ってしまいます。それを止めるなんて、どうやって?と思わず言いたくなるんです。もちろん、進行を少し遅らせることはできるかもしれませんが、それでは他国に追い抜かれるリスクを負うだけです。結局、AIはあらゆる仕事に影響を及ぼす未来がやってきます。
私の妻は、20代前半の4人の子供たちのためにAIに奪われにくい仕事は何かというテーマでリサーチをしていました。彼女は最後に、結局、自分が興味を持てることをやればいい。それ以上は分からないと結論づけました。彼女はかなり聡明な人なので、私はその結論を支持しています。
[ケイティ・グレイフェルド](Bloomberg)
残り時間が2分を切りましたので、市場の仕組みについてお伺いしたいと思います。それから、レバレッジを含むシングルストックETFについてもお話ししたいです。先週金曜日に、Simplifyのマイク・グリーンさんとお話ししたのですが、彼とはMicroStrategyのレバレッジ型ETFについて議論しました。彼の見解では、これがMicroStrategyとビットコイン自体との間の記録的なプレミアムを助長している可能性があるとのことでした。ここでは、その特定の商品の話ではなく、この種の商品が増えていることが市場構造や市場の動きにどのような影響を与えるとお考えですか?
[クリフ・アスネス]
少しクオンツの話題から離れて、市場心理についての広い意見を述べますが、この分野では私の専門性はやや低いので、その点を踏まえて聞いていただければと思います。それでも、バリュエーションの違いを見ると、依然として極端な時期にあると感じます。これはマグニフィセントセブンと呼ばれる特定の銘柄群に限ったことではなく、どの業界を見ても同様で、全体を通じてそうした傾向があります。今の市場をバブルと呼ぶかどうかは議論の余地がありますが、4年前なら私は確実にバブルと言っていたでしょう。それでも、現在も極端な状況にあることは間違いありません。市場では投機的な行動や心理が依然として高まっているように感じます。
具体的には、バリュエーションのスプレッドを定量的に分析する部分と、直感的・定性的に市場を評価する部分があります。ただし、この直感的な部分については私の意見をそれほど信用しない方が良いかもしれません。その一例が、過剰にレバレッジをかけたETFの台頭です。正直なところ、誰もそういった商品を必要としているとは思えません。これに24時間取引が加わると、状況はさらに複雑です。もし午前2時に目を覚まして何かにレバレッジをかけたいと思ったなら、財務計画だけでなく人生全般について考え直した方が良いかもしれません。
特にレバレッジの強いETFについて言えば、長期的に保有することは、ほぼ確実に損失につながると考えています。ボラティリティによる逓減効果が非常に大きいからです。もし、それらを短期的な戦術的な目的で使い、かつ頻繁にリバランスを行う場合、一部の状況では合理性があるかもしれません。しかし、それでも私はなぜそんな短期的な戦術が必要なのかと問いかけたくなります。特に、集中投資や2銘柄程度の非クオンツ的なポジションを取るような人々が、そのような短期的な情報を持っているとは思えません。
こうしたレバレッジの強いETFは、投機的なツールであり、市場の極端さを象徴していると感じます。明らかにこれは投資アドバイスではありませんが、私ならこれらのツールを使用することはないでしょう。
[マット・ミラー](Bloomberg)
さて、あなたの専門外の話に少し踏み込むことになりますが、上司に聞くように言われた質問があります。正直、クライアントに聞くのはどうかと思うのですが、トランプ関税の影響がある中で、アジアへの投資はどのように進めていますか?
[クリフ・アスネス]
少し面白い質問ですね。冗談ですが。我々は、完全にクオンツの手法で投資を行っています。具体的には、世界中で国や業界ごとにバランスをとった運用を行っており、これは非常に慎重に実践しています。ただし、そのことがリスクがないという意味ではありません。
たとえば、我々が好む、合理的な価格で購入でき、回復の兆しを見せている企業が市場で支持されない時期があります。そのような時期は、正直に言って楽しい時間ではありません。しかし、我々は長期的に見て、大きなテーマに巻き込まれずにやり過ごすことに非常に優れています。
たとえば、関税問題などは特定の国や特定の業界に大きく影響を及ぼします。これが原因で明確な勝者と敗者が生まれることもありますが、そのようなテーマに深く関与するのではなく、全体のバランスを保つことを心がけています。このアプローチが、我々のリスク管理を支える大きな要素の一つです。
[マット・ミラー](Bloomberg)
では、トランプ政権1期目をトランプ政権2期目の参考にすることはできるのでしょうか?
[クリフ・アスネス]
そのことにはたくさんのジョークが思い浮かびますが、それはさておき、今は非常に良い結果が出る可能性のある時期だと思います。ただし、私は楽観主義者というわけではなく、むしろ現在は不確実性が高まっている時期だと考えています。これは単なる意見ではなく、実際に測定可能なものです。たとえば、企業収益や経済予測のばらつきを見ることができます。また、予測がどれだけ外れているか、実際の数字が発表された際の上下幅も確認できます。このばらつきこそが不確実性の尺度であり、現在それが高い水準にあります。
特に、トランプ政権のような状況下では、経済環境がこれまでの時代とは大きく異なり、不確実性がさらに大きくなると考えています。
ここで少し宣伝をさせていただくと、トレンドフォロー戦略やいわゆるポジティブコンベックスと呼ばれる戦略、つまり、荒れる市場で成果を上げやすい戦略は、今のような時期に適していると考えています。こうした戦略は、市場の混乱に対応できる性質を持っており、現在のような不確実性の高い環境下では、従来以上に有効である可能性が高いです。
ただし、個別銘柄を選ぶ際には、私は正直なところ、こうした議論から距離を置く方針を取ります。ご質問が悪いわけではありませんが、四半期ごとの議論としては適切な視点ではないと思います。市場全体の不確実性や戦略の適用について議論することの方が、より大きな価値があると考えています。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
もう一つトランプに関する質問です。もし税制改革による減税が実現すれば、一部の投資家が考えているように市場の追い風になると思いますか?
[クリフ・アスネス]
短期的には通常そのようになることが多いですね。ただ、私が言わなくてもご存じの通り、財政赤字の問題がありますし、どちらの政党もこの問題に真剣に取り組んでいるようには見えませんね。政府の効率化について話すこともできますし、それからドッジについて話すこともできますね。
これはTwitterからの引用ですが、政府効率化部門のトップが2人いるという話は確かに笑えますね。最初にするべきことは、どちらか1人を解雇することだ、というのも皮肉が効いていて面白いです。どちらがそうするか、あるいはどちらが残るかについては私からは何も言いませんが。
それはさておき、我々は間違いなく以前よりも不確実性の高い世界にいると思います。特に、景気刺激策や予算赤字に関しては、いずれそれが重要な問題になる時期が来るはずです。多くの人が20年前にはすでに赤字が大問題になると予測していましたが、それが間違いだったことも事実です。このような問題のタイミングを当てに行くのは、いわば愚かなゲームに参加するようなものです。私はそのタイミングを予測しようとは思いません。
ただ、刺激策として効果があると見なされる段階から、もう限界を超えたという段階に移行するポイントがどこかにあるのは間違いありません。その境界線がどこにあるのかを正確に測るのは非常に難しく、私はそれに基づいて取引を行うようなリスクは取りたくありません。
具体的な予測を立てるつもりはありませんが、確実に言えるのは、我々は今後どちらかの方向に向かう興味深い旅の途中にいるということです。それがどのような結果をもたらすのか、しばらくは見守る必要があるでしょう。
[ソナリ・バサック](Bloomberg)
クリフさん、本日はスタジオにお越しいただき、本当にありがとうございました。AQRキャピタルのクリフ・アスネスさんに、マーケットについてお話しいただきました。
3. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/12/03 EST)
<御礼>
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。
だうじょん
<免責事項>
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