ショートショート "ビール傘"
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ひとつ傘の下で__
あなたとなら
雨の日が来ても
お互いが濡れてしまわないよう
分かち合えたのよ
若き日の恋
無数の泡が生まれては
儚く消えてゆく
わたしたち
まるでビールグラスのように
黄金色の微睡みの中で
青春を過ごしていた
時が経って
ほんのりとした香しさも
弾けるような想いも
色褪せてゆく
ある日
街ゆく人並みの中
あなたの姿を見つけたの
久しぶりの
なつかしい笑顔
あの時の輝きが蘇る
だけど
交わす言葉は少なくて
沈黙だけが過ぎてゆく
そう__
時の隔たりは長すぎたのね
わたしたち
あまりにも長く離れ過ぎてしまって
涙雨が降る中
お互いに傘の外で
雨に打たれすぎたのよ
私たちの恋は
飲み損なったビール傘
感情が凪いでいる
湧き上がる泡立ちを失った
気が抜けた後のグラスを見つめ
今はただ
ほろ苦さだけが残っている
"さよなら"は云わない__
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