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読書感想文 2024



2024.02 
『幼年期の終わり』 
-Arthur Charles Clarke-

昨年から始めているSFの名著に取り組む活動、『月は無慈悲な夜の女王』『タイタンの妖女』に続く第三弾となる本書。
まっすぐに面白いファーストコンタクトものという印象。
同じように異星人の登場する作品でも、自由闊達といった雰囲気の『タイタンの妖女』とは対照的。
「突如接触を図ってきた異星人の目的は何か」という謎が常に読み手を惹きつけ、最後にはそれが納得感のあるかたちで綺麗にまとめられる。
SFに興味ある人であれば問答無用でおすすめしたい一冊。

2024.03 
『新版 名作椅子の由来図典』 
-西川 栄明-

椅子の起源ともいえるような古代の椅子から、近現代のエポックメイキングな名作椅子までイラスト付きで解説してくれている本。
この本には素人目にも2通りの読み方があると感じる。
ひとつは椅子の家系図としての読み方。
なんか見たことあるデザインだけどこういう系統だったんだ!とかあの椅子のDNAはここからきていたんだ!とか気づくことがあって面白い。
もうひとつは椅子の解体新書としての読み方。
椅子を構成する要素とはなんなのか、各椅子はどの要素に特徴があるのか、などについても興味深く読める。

2024.04 
『茶の本』 
-岡倉 覚三-

茶、茶道を通して日本の哲学や宗教について解説した本。
1929年初版の本なので言葉遣いや語彙がやや古かったりするが、この時代特有の熱量のおかげで気持ちよく読める。
青空文庫で公開されているので以下の節を読んでノリが合うなと思った方はぜひ。

西洋人は、日本が平和な文芸にふけっていた間は、野蛮国と見なしていたものである。しかるに満州の戦場に大々的殺戮を行ない始めてから文明国と呼んでいる。近ごろ武士道――わが兵士に喜び勇んで身を捨てさせる死の術――について盛んに論評されてきた。しかし茶道にはほとんど注意がひかれていない。この道はわが生の術を多く説いているものであるが。もしわれわれが文明国たるためには、血なまぐさい戦争の名誉によらなければならないとするならば、むしろいつまでも野蛮国に甘んじよう。われわれはわが芸術および理想に対して、しかるべき尊敬が払われる時期が来るのを喜んで待とう。

『茶の本』 -岡倉 覚三-

2024.05 
『後悔するイヌ、噓をつくニワトリ』 
-Peter Wohlleben-

ニワトリに関する著作はとにかく読んでみようと思って購入。
著者はドイツの森林官(管轄区域の森林の経済的、生態学的、社会的機能を維持・向上する人)。
ガチガチの科学本というよりは、著者の長年の経験をもとに「動物ってこういうとこあるよね」というエピソードをまとめたエッセイ本。

2024.05 
『ディスタンクシオン〈普及版〉I 〔社会的判断力批判〕 』 
-Pierre Bourdieu-

今年メインで取り組もうと思って読み始めた社会学の金字塔。
「文化資本」という概念を導入し、社会に存在する格差の仕組みや原因の説明を試みた著作。
I巻では、言葉や概念、理論の説明が主になる。
II巻では、支配階級、中間階級、被支配階級それぞれに対して具体的なアンケート調査結果を出しながら個別具体の説明をしていく。
内容も文体も難しく、当然一度読んだだけでは3割も理解できた気がしなかったので、8月に改めて通読した。
格差が広がっていると言われ、「上級国民」なんて言葉がネットでも多く使われる現代日本、そこに生きる我々に対して実に示唆に富む名著。

2024.05 
『ディスタンクシオン〈普及版〉II 〔社会的判断力批判〕 』 
-Pierre Bourdieu-

I巻の方を参照。

2024.05 
『論理哲学論考 シリーズ世界の思想』 
-古田徹也-

いつか論理哲学論考を読みたいと思っているが、いきなり原著にあたると挫折しそうだったので解説本から始めてみた。
原著はその特殊な章立てゆえ、階層を把握しながら読むこと、そして他章との参照関係を理解しながら読むことが、素人にとっては苦労するポイントとなる。
そこを上手にカバーしながら解説してくれているのでとても読みやすかった。

2024.05 
『我が産声を聞きに』 
-白石 一文-

5月は固い本が多かったので、趣向を変えて小説を、と思い文庫化したばかりの本書を購入。
これまで読んできた白石作品とは少し違う作風。
比較的ライトな読み味で新鮮な感じ。

2024.06 
『ボクはやっと認知症のことがわかった』 
-長谷川 和夫-

院生時代に同期に薦められて温め続けていたがついに読了。
著者の長谷川さんは、「痴呆症」を「認知症」と改めたり、認知症判定に用いられるテスト「長谷川式認知症スケール」を考案したりなど認知症研究の第一人者。
そんな方自身が認知症になったときにどう感じるのか、世界はどのように見えるのか、赤裸々に綴られている。

2024.06 
『一瞬の光』 
-白石 一文-

白石一文さんのデビュー作。
『我が産声を聞きに』を読んで白石一文熱が高まっていたので、ついに読んだ。
これまでのどの白石作品よりも心にきた…。

2024.06 
『NHK「100分de名著」ブックス カント 純粋理性批判』 
-西 研-

論理哲学論考と同じく、いつか原著を読むための予習。
うん、完全に理解した。

2024.06 
『ブルデュー「ディスタンクシオン」 2020年12月 (NHK100分de名著)』 
-岸 政彦-

ディスタンクシオンの内容の理解を促進するためにあたった本1冊目。
非常に短いページ数の中でディスタンクシオンの重要な概念についてまとめられている。

2024.06 
『ブルデュー「ディスタンクシオン」講義』 
-石井 洋二郎-

ディスタンクシオンの内容の理解を促進するためにあたった本2冊目。
ディスタンクシオンを訳した先生の解説本なので、訳本を読み終えた後の自分と親和性が非常に高く、するすると頭に入ってきた。

2024.08 
『言語を生みだす本能(上)』 
-Steven Pinker-

人間が言語を習得するメカニズムについて著者の論をまとめた本。
チョムスキーの生成文法を起点として、言語学的、そして進化論的にどうやって言語を習得するのか、習得できるようになったのかを語る。
研究の引用などはしっかりしているが、ガチガチにお堅いという感じでもないので、言語学に興味のある方であれば楽しく読めると思う。

2024.09 
『江戸指物: 下町職人の粋と意気』 
-関 保雄-

落語を聴いていると馴染みのない固有名詞が出てくる。
あとで調べてみて、現代ではあまり見かけない指物(釘などを使わずに組んだ木工の家具、器具)のことであると知ることがままある。
そのため予習しておきたいなと思っていたところ、図書館でたまたま目に留まったので借りてみた。
様々な指物についてイラスト付きで説明されており非常に助かった。
また、ただモノの解説をするだけではなく、著者が和家具屋さんで働かれていた方ということで、指物師さんや指物の買い手とのエピソードなども交えられており読みやすくもあった。

2024.10 
『ソフトウェア見積り 人月の暗黙知を解き明かす』 
-Steve McConnell-

職業柄、工数を見積もることがよくある。
建設業の方であれば馴染みがあると思うが、工数とはある作業を完了するのに必要な人数と時間だ。
例えばある作業の工数が「5人月」であれば、5人の作業者がひと月丸々その作業をすることで完了できる、という見積もりになる。
この見積もりがプロジェクトのコストに直結するので過剰に見積もることはできない。
かといって少なめに見積もると短納期での作業となり現場が火の車となる。
そんな見積もりについて、考え方や手法などを学べた良い本。

2024.10 
『ネットワークはなぜつながるのか』 
-戸根 勤-

仕事関連でスキルアップのために読んだ。
ネットワークの仕組みの全体像を大まかに把握するにはとてもいい。

2024.10 
『致死量未満の殺人』 
-三沢 陽一-

早川書房のアガサ・クリスティー賞受賞作品を全部読む取り組みの一環。
本書は第3回(2013年度)の受賞作。
舞台は吹雪の山荘、正統派の殺人ミステリ小説。
著者がミステリ研出身のためか、ノックスの十戒を遵守するかのごとく、序盤中盤は読者が推理するのに必要な情報を丁寧に描いている。
逆に淡々とした状況描写で登場人物たちの細かい心理描写などはあまりないため、小説としては退屈するパートかもしれない。
ただ余計なミスリードなどもなく、まっすぐに謎解きに取り組むことができるのでミステリ好きの方はぜひ。
また以前のアガサ・クリスティー賞作品感想は以下。

2024.10 
『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』 
-Andy Weir-

最高のSF小説。
記憶喪失の主人公がどこかもわからない場所で目覚め、状況を把握していくところから始まる。
主人公が悪態やジョークを飛ばしながら小気味よく進行するので非常に読みやすく、普段SFを触れないからといって敬遠する必要はない。
次々と明かされていく事実が衝撃的でどんどん次の章が読みたくなるので、ぜひ主人公と同じくなにも知らない状態から読み始めてみてほしい。

2024.10 
『プロジェクト・ヘイル・メアリー 下』 
-Andy Weir-

上巻の方を参照。

2024.11 
『言語を生みだす本能(下)』 
-Steven Pinker-

上の方を参照。

2024.12 
『それ以上でも、それ以下でもない』 
-折輝 真透-

2019年度のアガサ・クリスティー賞受賞作品。
本書を読んでいる間ずっと不思議な感覚だった。
冒頭に犯人の分からない殺人事件が提示されるのでミステリっぽくはある。
ただそれ以降、最終盤までその事件はずっと物語の裏に隠れて出てこない。
ミステリというと一番大きな事件に関する新事実やどんでん返しなどが次々出てきて、それらに引っ張られるように読み進めるものだと思っていた。
しかし本作では当時の社会、村の人間模様、主人公の苦悩する様子といったものがひたすら描写される。
それほどフックになるものがないのに、なぜ読み進めているのかよくわからなかった。
ただ読み終えて振り返ってみると、私は登場人物たちの体温というか空気感というか、そういったものをリアルに感じていた気がする。
そうして彼らに感情移入し、彼らがどのような結末を迎えるのか、それが気になって読み進めたのかもしれない。
平易に言えば彼らのことが好きになっていたのだと思う。
こういうベクトルの筆力もあるのかと今は感じ入っている。

2024.12 
『宇宙衞生博覽會』 
-筒井 康隆-

初めての筒井康隆作品。
と思ったが、いま調べたら『時をかける少女』が同氏の作品とのことで驚き(浅学)。
本書は短編集という形式のため、さまざまな筒井世界を垣間見ることができる。
エロティシズムやグロテスク、皮肉や風刺といったアングラな表現が前面に出ているが、その奥には深い洞察が隠されている。
特に「最悪の接触」と「ポルノ惑星のサルモネラ人間」がお気に入り。

2024.12 
『月の落とし子』 
-穂波 了-

『それ以上でも、それ以下でもない』と同じく2019年度のアガサ・クリスティー賞受賞作品。
いやぁ、面白かった。
しょっぱなのウィルス感染が発覚した瞬間からハラハラする展開の連続。
ミステリ小説らしく謎を発端としてぐんぐん先へ牽引される。
「それ以上でも、それ以下でもない」と実に対になる読み味。
これらの作品が同年にアガサ・クリスティー賞を受賞したというところに、本賞の懐の深さを感じる。

2024.12 
『銃・病原菌・鉄 上』 
-Jared Diamond-

言わずとしれた名著。
人種間、国家間の経済格差がなぜ現在のようになったのか。
その究極の要因まで遡るため、地理学、生態学、文化人類学など広範な領域の知見が展開される。
下巻がまだ未読なので全体を通しての感想はそちらで述べたい。

2024.12 
『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』 
-品田 遊-

めちゃくちゃ分かりやすく反出生主義について解説した本。
全知全能の魔王が現れ、主義主張の異なる10人の人間を集めた。
人類を滅ぼすべきか否か、その10人に議論をさせ、いずれの結論にせよ理由に納得すれば魔王はそのようにするとのこと。
そんな設定で10人の会話形式で物語は進行していく。
ライトな読み味だが、議論の内容は非常に興味深く、出典もきちんと明記されている誠実な一冊。

2024.12 
『これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学』 
-Michael Sandel-

日本ではNHKの番組「マイケル・サンデルの白熱教室」でご存知の方が多いかもしれないサンデル教授の本。
正義に適う社会とは、その問題へのアプローチとして功利主義、自由主義、アリストテレス主義(美徳の涵養)の3つを紹介していく。
各主義の理想だけでなく、反論も併記されており、具体例も豊富なので机上論ではなく一緒に考えることができる構成になっているのがうまいところだ。
倫理について学びたい方は一読して損のない一冊であると思う。

2024.12 
『世の中への扉 おどろきのスズメバチ』 
-中村 雅雄-

毎年スズメバチの営巣の様子を撮影しYoutubeにアップロードしてくださっている方がいる。
私は毎年初夏頃に投稿され始めるその動画をいつも楽しみにしていた。
そんなわけでスズメバチ好きの私がついKindleセールで買ってしまった1冊。
この本で取り上げられているのはスズメバチのなかでもキイロスズメバチ。
その1年の営巣のドキュメンタリーといった趣だ。
ページ数も少なくエッセイのような感じで読めておすすめ。
ちなみに当該のYoutubeチャンネルは以下。

2024.12 
『時の睡蓮を摘みに』 
-葉山 博子-

今年最後の1冊として、2023年度アガサ・クリスティー賞受賞作の本書を選んだ。
舞台は第二次世界大戦下の仏領インドシナ(現ベトナム、ラオス、カンボジアあたり)。
歴史にも地理にも疎い自分にはまず出てくる事件、地名などがピンとこない(浅学)。
ただそれでもオリエンタルな雰囲気、アオザイと睡蓮で彩られた風景描写は魅力的に感じた。
構成としては視点がいろいろ移り変わる群像劇のようなかたち。
個人の意思とは関係なく国や社会といった大きな流れに翻弄される哀しみ、その中でも懸命に自由を希求する人々が写実的に描かれる、重厚な厚みを持った作品であった。

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