バイオリニスト篠崎史紀さんのトークイベントへ
集中して仕事をしたい時、最近はカフェでもコワーキングスペースでもなく、「文喫」へ行って作業することが多い。
閉館してしまった六本木アカデミーヒルズ的なプライベートライブラリーだが、文喫天神岩田屋店はこじんまりしており、比較的人も少なく、とても集中し易い。
文喫は一応全国展開しているが、まだ六本木、栄、天神の3店舗しか存在しない。
ここでは定期的に文化系の講座やイベントも開催されており、どれも質が高く、本当に興味がある人々が集まっているという感じで、良き学びの場として、私もたまに参加している。今回は、N響特別コンサートマスターでいらっしゃる、まろさんこと篠崎史紀さんの絵本出版記念イベントへお伺いした。
絵本のイベントなので、本当は大人の私はお呼びでない存在なのかもしれないが、大人からバイオリンを始めた身としては、どうしても生で篠崎さんのお話を聞きたく、親子連れに混じって単独で参加した。
可愛いキッズルームで、みんなフカフカのクッションに座りながら和気藹々とした雰囲気の中、金色の布張りのバイオリンケースを持った篠崎さんがご登場。佇まいが何ともカッコ良い。
オールバックのシルバーヘアと紫色の靴下がまたお洒落!彼の存在を知らない人でも一目見ただけで、何かしらの芸術に関わる仕事での成功者だろうなというのが滲み出ている。
肝心なお話はというと、主に音楽と教育について。今回出版された「おんがくはまほう」という絵本は、篠崎さんが初めて海外留学された際、知り合いが誰もおらず寂しい思いをされていた中、バイオリンが沢山の友人との出会いを繋いでくれたというもの。
絵本の物語をベースに、この世で音楽だけが唯一、国、宗教、人種や政治を超えて人々が一つになれるものであり、音楽がいかに世界平和にとって大切なのかを語ってくださった。
篠崎さんご自身、ご両親から、「音楽をやると世界中に友達ができるよ」と言われ、その言葉をきっかけに楽器を始められたそう。もしご両親が「楽器を弾けるとかっこいいよ」と言われていたら、自分はやっていなかったかもと仰っていた。
その言葉だけを信じて楽器を続けられたなんて、何と純粋な人だろう。実際、ご本人は、とてもキラキラした子供のような強力なエネルギーを放つ方だなという印象を受けた。
お話の中で何度か、「子供は大人が思っているよりもずっと一人の人間として色々な事を考えられる」と仰っていた。なので、篠崎さんが主催する0歳児から入れる親子コンサートでは、ガチのクラシックマニアが好きそうな曲を敢えて演奏するらしい。
大概の子供のためのコンサートでは、いかにも子供向けに選曲されているが、篠崎さん曰く、あれは子供のことを舐めすぎだと。子供だってちゃんと良い音楽は理解できるし、実際、難解な曲でも、子供はリズムに乗ってステージ前に集まって踊り出すそうだ。
それは本当だと思う。私には2歳になる甥っ子がいるが、夏頃たまたま「題名のない音楽会」で、ランランと奥様が連弾でサンサーンスを演奏される映像が流れていた。彼の目はテレビに釘付けになり、私の手を引っ張ってテレビの近くまで行き、「あー、あー!」と画面を指差し、何やら赤ちゃん言葉で、懸命に「この二人の演奏凄いね!僕は今完全にど肝を抜かれているよ!」と言いたそうだった。
うん、子供はちゃんと凄いものを凄いと理解できると思う。これは難しいとか簡単だとか偏見を持っているのは大人の方なのだろう。
質疑応答の時間、あるお母様が、バイオリンを習っているという幼稚園児の息子さんに対してのお悩みを相談されていた。お母様はピアノが弾けるので、子供には自分が弾けないバイオリンを弾けるようになって欲しいと習いに行かせているそうだ。
しかし、息子さんは中々積極的に練習してくれず、進みもゆっくりだと。息子さんがもっと練習するよう、何かアドバイスを欲しいとのことだったが、それに対する篠崎さんの回答が目から鱗だった。
篠崎さんがそのお母様に放った一言は、「お母さんもバイオリンを始めなさい」だった。大人は子供より長く生きている分、正解を知っている。だから、その正解を子供に押し付けようとする。
だが、子供は正解を押し付けられるのが嫌い。子供は親よりも友達を大切にする。何故なら、友達は一緒に歩んでいける存在だから。
もしお母さんが、子供にああしなさい、こうしなさいと言う代わりに、彼にバイオリン一つまともに構えられない姿を見せ、一緒に頑張る姿を見せたら、子供はお母さんを共に歩む仲間と認識し、きっと自発的に練習するようになりますよ、とのお言葉。
私には子供がいないが、「なるほど!」と心底納得してしまった。確か、元首相の鳩山さんの奥様も、子供さんを勉強させるために、子供が勉強する時には自分も同じ部屋で、図書館の相席の人みたいに一緒に勉強していたと仰っていたと思う。
教育って奥深い。今回、私が期待していたバイオリンや篠崎さんの演奏活動に関するお話はメインではなかったけれど、1時間という短い時間で、とても内容の濃い、貴重なお話を聞けた。
最後に、絵本購入者へのサイン会もあり、お写真も一緒に撮って頂いた。(私とのツーショットは割愛)
絵本「おんがくはまほう」は、挿絵もとても素敵だ。トークイベントでは、丁度キッズルームに絵本の原画も展示してあったが、それはそれは緻密に丁寧に描かれており、しばし見入ってしまった。
現在、この絵本は全国の書店で発売中ですが、お近くに書店がない方はもちろんインターネットでも購入可能なようです。
今後、この絵本を題材にしたコンサートも企画されているそうですので、お子様に限らず、大人の方も絵本を手に取り、一度童心に帰ってみてはいかがでしょう?因みに文喫天神店へ足を運べる方、店頭では、まろさんのサイン入りバージョンがまだ販売されていますよ♩
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