地中海の島で大して何もしなかった話
今年4月末、いろいろ立ち寄ったうちの、ギリシャ3日間の旅。
中日にアテネからフェリーで2時間程度で気軽に行けるエギナ島という場所に行ってみた。
プラス2島ほど別の島へもはしごする2万5千円くらいのツアーも出ていたが、シンプルに高すぎじゃないかと思い、ソロでも気軽に行けそうなエギナ島だけに行ってみることに。
ピスタチオが名産というのにも惹かれた。20代後半になってから、それまでの人生では全く縁のなかったピスタチオというものが急に好きになったのだった。
余談だけれど、港のあるピレウスの駅を降りてから、フェリーチケットの発券所がわからなくて人に聞きまくった。
電車の中でいろいろ調べて見当はつけていたのだけど、いざ向かってみると全然わからなかった(着いてみたら、わかんないわ、、という場所だった)。
聞く人皆、大体「あっちの方」としか教えてくれないので一発ではたどり着けず、ちょっとずつ近づきながら次の人に聞く、という流れになる。
今回、今までの海外旅行よりもとりわけ「Wi-Fiさえあればどうとでもなるな」と感じていたが、時間が切羽詰まっているときにはやはり人に聞く方が明らかに早いと思った瞬間だった。
フェリーは片道10ユーロほどとリーズナブル。内装は日本で乗るフェリーとさして変わりなかった。
では、エギナ島である。前日、あれだけ飛行機に日本人が乗っていたが、エギナで見かけた日本人は一人きりだった。他、多くが遠くから来ている人というよりは、国内の人がちょっと足を伸ばしている感じがした。
ノープランで降り立ち、港に立つ大きな観光マップを眺める。そこそこ広い島で、徒歩で行ける距離は港周辺だけ。とりわけ、島1番の目玉の神殿まではバスを使わないとたどり着かない。
時間がいいバスがあったら行こうと思っていたのだけど、港に立ち、良い天気、良い気候、たくさんのオープンテラス、散歩できそうな海岸線をぐるっと眺めて、「これは特に何もしないのが正解では???」という思いが立ち上ってきた。
というわけで海岸沿いを歩き始めてみる。
途中、当日申し込みできるレンタカーのカウンターがあって、国際免許証を持っている今なら「ここでふらっとレンタカーを借りて乗ることもできるのか…」とB案が浮上したけど、どう考えてもビールを飲みたい気候だったので、やめた。そういう選択肢が発生することが嬉しくて満足した。
片道30分くらいのただ南下していく海岸道路が、とてもよかった。
時折同じように散歩している人や、レンタサイクルの人も通り過ぎていく。
あんまりぎらついた観光感を出している人はいなくて、住人なのか観光客なのか判断しかねるテンションだったのがよかった。わたしも初めて行く場所で、そんな雰囲気を醸せていたらいいなと思う。
海岸沿いには5分に1回くらいのペースでベンチや謎の椅子が置いてあったり、そういった椅子がなくても腰を下ろせる段差があったりして、5分歩いては腰掛け、ゆっくりしてまた歩きだす、というのを繰り返してあっという間にお昼だった。
そこまで空腹でなかったので、スーパーに立ち寄って、缶のお酒を2本と、トマトバジルオリーブ味のスナック菓子を、ピザみたいだな、と思いながら買う。1ユーロくらいだった。
ワイン飲むしかないみたいな味付けに、こういうの日本にもあったらいいのに、と思う。あるのかもしれないけど、100円で買える感じではなさそう。
先ほど目をつけておいたベンチを目指して一目散にまた海岸線を歩く。
途中ゆったりと歩く男性を追い越した。わたしがあまりにもベンチ目がけて猛突進していくのでちょっと驚いていた。ベンチに腰掛けるわたしを、「このベンチは何かあるのだろうか」みたいな感じで何度か振り返っていた。
あまりにもよいベンチだったのでGoogleマップでピン立てておいた。エギナ島に行く予定のある方がいたら、お伝えします。
目の前の凪いだ海を眺めながら、スナック菓子を開け、ビールをゆったりと飲む。ギリシャのビール、いろんな種類があって毎回違うのを試すのがとても楽しかった。大体がピルスナータイプで全然味の差はなかったけれど。
わざわざアテネに来て、そこからわざわざ船に乗って、やっているのが座ってビール飲んでお菓子食べてるだけって、自分的にはかなりいい光景だった。
ただし、ひとつだけやりたいことがあった。それはピスタチオのジェラートを食べることだ。
アテネにもジェラート屋はたくさんあって、それはもう、日本のコンビニくらいの間隔で至る所にあって、きっとそちらでも食べることはできるんだろうけど、ピスタチオ味はエギナにいる間に食べよう、と決めていた。
港のすぐそばには飲食店が連なる通りがあり、どこもオープンテラスを出していてすごく素敵だった。その通りを1往復してから、創業半世紀くらい経つ老舗がリブランドして小洒落た感じになった、というようなお菓子屋さんのジェラートを買ってみることにした。ピスタチオ味だけで5種類くらいあった。名前ではいまいちよくわからなかったので、一番見た目が好みなやつにした。
公衆トイレが全然なくて困っていたのでお手洗いを借りられたのもよかった。外飲みは楽しいけれど、お手洗いだけが懸念点である。
ジェラートを持って船着場に出る。溶けないように急いで写真を撮ろうと思って気づく、コーンがめちゃくちゃ長い。長すぎる。なぜだろう?
コーン長っ、、以外のことが何も考えられなくなりながら、パクパクと食べ進めた。
味は、もう少し甘さを抑えても良いなぁというのが率直な感想だった。甘さでピスタチオ味が薄まっている。きっとどのお店で食べてもそうなのだろう。
日本の甘味というのは世界標準から見るとかなり甘さ控えめであり、そのありがたさを思う。
この時、島にいる間4度くらい出会ったピンクの花柄ワンピースの女性がいて、3回めのこのタイミングから「また会ったね」という親しみを込めて「ハーイ」と手を振る仲になった。
ジェラートを食べ終えたわたしは大層満足して、予約してあった夕方の船ではなく、14時台の船にチケットを変更して早めにアテネに帰り、リカヴィトスの丘の夕日を見に行こう、と考える。
それまでにあとはピスタチオを買えたらよいなあ。その通りにはピスタチオ屋も何店舗かあって、中華街の甘栗よろしく、どの店も味見をさせてくれるべく手招いてくる。もらって食べてみると、思った以上に味付けが濃い!これはちょっと求めていたものと違うな、、と思い、お買い上げせずに港へと向かう。
ちょっと違う!の味、その場で食べる分にはいいのだけど、お土産として持って帰るのはなんだか不本意である。味見って大事だな。
そうしてわたしは、歩いて、ビール飲んで、お菓子食べて、ジェラート食べただけで、エギナ島を後にした。船代を入れても4,000円くらいしか使っていない。帰りの船内ではアルコール度数2%のラドラーを飲みながら帰ったのだが、その絶妙なアルコール感が船旅とベストマッチだった。
行きの船に比べ午後イチの船は空いていて、みな、わたしが当所予約していた夕方の船で帰るんだろうな、ちょうどよかったな、と思った。
前日、半日の間アテネを歩いてじわじわと感じたことがさらに確信を強めた半日間だった。
究極的には、いい天気の日にいい景色を見ながら、散歩して、たまに休憩して、ちょっとした飲食をしていればわたしは満足で、どんな場所に行ってもそれは大して変わらないだろう、ということだ。
おわり。