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美味しすぎない「特製カツカレー」

数年ぶりに小牛田(こごた)にやって来たので人気のラーメン店を目指す。仕事のついで、しかも週末土曜日の出勤なものだから、美味しいものでも食べないとやってられないのだ。

しかし、宮城の片田舎とは言え週末の人気店。その行列は駐車場に入ることすら許してくれず、約束の時間は着々と近づき、結果こんな店にたどり着いた。

何処か白々しい白昼のネオン。店名の「赤い糸」の書体が禍々しく、その不穏さを「キッチンハウス」のポップな枕が和らげる。

BGMで流れる桃色吐息と、他人の家のような臭いが昭和の友人の自宅を彷彿とさせる。カウンターで待ち構えていたママの風体がそれをさらに助長する。モダンロゴが光るストラトキャスターが壁を飾り、Muddy Watersのレコードが睨みを利かす。宮城の英雄さとう宗幸氏からの手紙も拡大して飾ってある。BGMがメモリーグラスに変わった。兎にも角にも居心地がよい。

こうなると正直何を頼んだってよいのだが、壁に掲げたメニューで「推奨」と書かれている特製カツカレーをオーダーする。

大きな皿に乗って出てきたのは玉子でとじられたカツ丼とカレー。なるほど特製だ。メニューを見ると「カツ丼とカレーがドッキング!」とコメントが添えられていた。令和の時代に目にした初ドッキング。甘めの味付けと柔らかく炊き上げられたライスがいかにもだ。

「こんな古い曲ばかりかけてごめんなさいね」

と友人の母が話しかけてきた。昭和歌謡は寧ろ好きだし、何ならここに来るまで大瀧詠一の曲を聴いてきたぐらいなもので、その旨を伝えてみる。

「あらそう!ご両親の影響かしら?お客様は音楽好きそうね、演奏もするの?」

20年も前にドラムを叩いてはいたのだけれど、今はもっぱら聴くばかりです。確かにそう伝えたはずなのだけれど、

「あらそう!そうなんじゃないかと思ってたの。うちの人も昔は音楽を演っていたんですよ。今はもう歳で声が出ないけれども…。今時「「」」はコロナで大変でしょう?コンサートも人を入れられないでしょうし。」

おやおや?と思っていると、厨房にいる旦那さんに声をかける。

「音楽関係の人なんですって!」

何やら在らぬ方向に話が進んでいった。否定するのも面倒だし、ニコニコと表に出てきてくれた旦那さんにも申し訳ない。「今日は天気がよいですね…」と当たり障りのない会話を続け、別途頼んだコーヒーを口にして外を眺める。

「入ってきた時からそう思ってたの!」

サイフォンに入ったコーヒーをお代わりにと持ってきてくれたのだが、流石に申し訳ないと後ろ髪を引かれながら席を立つ。久しぶりに音楽を諦めたことを後悔していた。

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lada
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