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『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(鈴木涼美)を読んで90年代が恋しくなる

じぶんの生まれた1991年といえば、湾岸戦争とバブル崩壊が始まった年。「失われた三十年」とともに年を重ねてきた(年齢そのもの)わけだけど、暗くてモヤモヤした時代を生きている実感はなかった。

オウムも山一證券の倒産も泣いている社長も、どちらかというと後から知ったこと。

ジュリアナ東京は91年にオープンしているし、バブルがはじけたと言われた後も、なんだかんだふわふわしていたかんじが世の中に漂っていたのではないか。思い返してみると、バブルの残り香のようなもののなかで90年代を過ごしてきた気がします。

こうしてつらつら書いているのは、この本を読んで「90年代」が恋しくなってしまったからです。少年時代を過ごした身としては、あの時代はキラキラしていてまぶしかった。

たまごっち、ヘイヘイヘイ、Mステ、スーパーファミコン、ドンキーコング、ドン・キホーテ、渋谷、GLAY、アユ、安室、SPEED、夜もヒッパレ、日テレ土曜21時のジャニーズドラマ枠、怪奇倶楽部のタッキー、TK、ポケベル、ケータイの着メロ、N211、めちゃイケ、SMAPの君色思い。

まぶしさと同時にかってに「こわさ」も感じていました。エアマックス狩り、コギャル、ルーズソックス、チーマー、不良。なぜか知っているりぼんの「GALS!」であるとか初期の「遊戯王」に出てくる話のようなイメージ。渋谷こわい!のようなもの。

いま脂がのっている四十代の芸人さん(バナナマン設楽さんとか)のトークでたまに聴く『「夕やけニャンニャン」のタイトルコールとあわせてみんなで公園でジャンプして帰る』みたいな、そんなとんねるず世代ど真ん中の70年代生まれっていいなあと、もともと思っていました。そんなタイプです。

あらためて思うのは90年代の後半にかけて青春を送るのもいい!著者は83年生まれでドンピシャ、プロフィールにあるように女子高生時代のバイトはブルセラ(この単語だけで意味が成立していることを初めて知りました)。まさに宮台真司的というか実践者そのものでもあるわけです。

本書の内容は、2014年から2019年までのテレビブロス連載さらにこれまでのエッセイ・評論・書評をまとめた5年分のコラム集。ブロス連載自体をこれまで知らなかったのがもったいないと思ったし、担当がおぐらりゅうじさんというのもわかるし、心通じているもわかるし、その結果この本がおもしろくなっているのもわかります。

著者はただ懐古主義的に自身の青春を綴っているわけではありません。さまざまな具体は「なんとなくクリスタル」的な記号消費としてのラベルではなくて、著者の生きてきた証があるからリアル。その刹那を肯定しながら、女子高生のふんわりした当時の感覚をちゃんと言葉でとらえているのが印象的です。写ルンですとか、ポスカとか。

書き出しだけパラパラめくるだけでもそのおもしろさが伝わると思います(相当練っていらっしゃるのでは)。ブロス用コラムも書評もちょっとおかたい評論もぜんぶおもしろい。

cakesの記事を拝見して知ったのですが、著名人のスキャンダルきっかけの記事をたまたま勧めてもらったのがきっかけ。こういう出会いもあるものですね。

あ、最後に「あとがき」に記されているエピソードで土壇場で脚注300書いたとあります。脚注でタレントひとり紹介・説明するだけでも著者のフィルターというか目線が入っているので読めてしまいます。しっぽの先まで餡がつまったたい焼きですね。

というわけで以上です!


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