藤井七段のタイトル戦連続挑戦に見る観る将の憂鬱
私は2010年から見る将として将棋界を見てきた。
当時は全盛期ではないものの羽生さんが君臨していた。私は昭和63年生まれなので同世代の棋士を応援していた。ただ彼らはタイトル戦で羽生さんのぶ厚い壁に阻まれていた。「最後は羽生が勝つ」状態が数年は続いていた。
2018年やっと羽生さんが無冠になり、群雄割拠の時代が訪れた。20代の棋士もタイトルを取り始めて、誰が勝つか分からない見ていて面白い状況になったのが心底うれしかった。
そこに彼が現れた。彼の名を「藤井聡太」。史上5人目の中学生棋士、詰将棋選手権連覇、3段リーグ一気抜けの全部乗せでプロデビューを果たした。
デビュー後から29連勝や各本戦トーナメントに顔を出しており、やはり只者ではないなという感じで見ていたが、最近の充実ぶりは異常だ。
2020年前半は豊島竜王・名人、渡辺三冠、永瀬二冠が頭一つ二つも抜けている印象だが、そこに食い込んでいるのがまず異常だ。さらに彼らに勝利した印象も「一発入った」というより「一皮抜けてひょっとしたらストレートでタイトル奪取してしまっても不思議はない」といった印象なのだ。そしてまだ17歳。一度タイトルを取ったら10年は離さないと感じさせるほどだ。
またコンピュータ将棋の飛躍的進歩も彼と他の棋士の差を広げる要因になっていると思う。コンピュータの強みはなんといっても読む量が桁違いなことだ。大局観に相当する評価関数も強さに関係するだろうが、結局それを形成するのは膨大な読みの量があるからだ。
つまり詰将棋が誰よりも早い彼は誰よりもコンピュータに近い存在であり、さらにコンピュータの指し手を理解しているのではないだろうか?
ここから予想されることは藤井七段は一度タイトルを取ったら10年はタイトルを保持し続ける可能性が高いということだ。もっと最悪のケースは8冠独占を数年保持というのも現実味のある話だ。
観戦という観点でいうとどちらが勝つかわからない、もしくは勝つと思っている方が敗れるというのが面白いのだ。そういう意味では本田五段が棋王戦挑戦は驚いたし、「藤井七段より先にデビュー1年目の棋戦で挑戦する」のには心が踊った。
ただこれから藤井七段がスターに駆け上がっていくのは残念ながら予定調和だ。そして他の棋士がそれを阻止するのは相当に難しいことに思われる。10年前の羽生さんに感じた以上の閉塞感がまた訪れるのかと思うと、彼の躍進を素直に喜べない自分がいる。
誰か彼を止めてくれ。
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