高野連の「1試合7イニング制度」導入検討に物申す

日本高野連が、高校野球における大きな「ルール変更」に舵を切り始めました。

それは、「1試合7イニング制」の導入の検討を本格的に開始したことです。





高校野球で「1試合7イニング制」が最短で2026年から導入される可能性



日本高野連は6日、大阪市内で第6回理事会を開催し、将来的な7回制の導入に向け、新たに「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」を設置すると発表した。

夏の酷暑対策や健康面などの配慮を含め、医療関係者を含めた11人の有識者で話し合う「高校野球7イニング制に関するワーキンググループ」を設置し、6月中旬から4度に渡って導入のメリット、デメリットの精査を継続し、この日報告会が実施された。来年1月以降に複数回会議を重ね、12月の理事会までに対応策をまとめる。

日本高野連の宝馨会長(67)は「高校野球が健全な方向で進んでいくように努力していきたい」と説明し「高校野球に限らず、野球全体が試合時間が長いということで、時間短縮に向けて工夫してます。短縮できればいろんな方向も変わってくるかなと思います」と話した。

また、同会議ではリプレー検証導入についての議論も並行して実施していく。25年センバツからの導入を目指していたが、宝会長は「今日決めたらなんとか(25年春に)間に合ったかもしれません。今日決められなかったっていうことで、それは無理だと思いますし、春はやめて夏から導入ということもないだろうと思いますから、1年は伸びたということになると思います」と明かした。

7回制、リプレー検証ともに、最短で26年以降の導入となる。



私はここ数年、危機感を頂いているのですが、このままだと、野球をプレーする子供が減りに減り、野球は相撲のようになってしまうだろうと思っています。

相撲は日本でも海外でも人気がありますが、実際に相撲をとったことがある人は極少数であり、相撲は「見ること」を前提にしたスポーツです。
そして、日本において、野球もまさにそうなりつつあるのです。

NPBの観客動員数はコロナ禍が明け、増加の一途をたどっていますが、競技人口はその反比例が起きているのです。

野球も昭和・平成前半の頃までは競技人口で他のスポーツを圧倒していましたが、近年、その競技人口は減少の一途をたどっています。
スポーツ庁によれば、中学生の軟式野球部の部員は2009年には30万人を超えていましたが、2028年には10万人弱、2048年には2.4万人になると推計されています。







日本における野球人口の減少には、少子化だけでは説明できない様々な理由があります。
まず、この数年、日本の夏の暑さは異常です。
野球は原則、屋外でやるスポーツですので、このままですと、屋外で長時間、野球をプレーしたり、練習したりするのは危険ということになり、子を持つ親が野球をますます敬遠するようになります。

夏の暑さには高野連も頭を痛めていると思います。
2023年の夏の甲子園大会から、本格的に「クーリングタイム」を設けたり、
2024年の夏の甲子園大会では、一部の試合で気温がピークになる日中を避けて、朝・夕に試合時間をずらしたりする試みもなされています。

しかし、高野連が考える、「野球は試合時間が長い→試合時間を短縮する必要がある→1試合のイニング数を短縮する」という発想で本当にいいのでしょうか?

「1試合7イニング制」に対する高校野球の現場の反応



高野連が「1試合7イニング制」を本格的に言い出したのは今年の夏からです。




高校野球の現場を預かる監督たちの反応は概ね「反対」でした。

明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督は、選手の打席数が確実に減ることに対して懸念を示した。

「みんなが平等、公平に最低でも3打席立てるということで(9回制が)できたと聞いたことがある。(7回制なら)3打席は3番までしか立てないかもしれない。高校3年間練習をしてきて2打席で終わるのは、かわいそうな気がしますけどね」




その中で唯一、「賛成」を表明したのが、広陵高校野球部の中井哲之監督です。

唯一、7回制に賛成の立場を示したのが広陵(広島)の中井哲之監督だ。

「(議論開始は)当然ではないですか。7回制には7回制のドラマがある。選手ファーストであるべきで、肩肘(の故障予防)とか熱中症のこととかを考えると、そうあるべき。野球人口は減るし、これならできるという野球界を考えていくべきだと思います」

広陵は、暑さ対策の一環として今夏の甲子園大会からユニホームを黒から白に変更。7回制に関する活発な議論を歓迎したことは、慣習に縛られずに柔軟な姿勢を貫いてきた中井監督らしい意見と言える。

学生野球における「1試合7イニング制」は国際的なトレンド

実は、学生野球における「1試合7イニング制」というのは国際的なトレンドになりつつあるのです。

海外の高校年代では、米国や韓国のほか台湾やカナダ、ベネズエラなども7イニング制を採用しており、2023年のU-18ワールドカップは1試合7イニング制で実施されています。




7イニング制で行われた昨夏のU18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)で高校日本代表は初優勝した。チームを率いた明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督は、とにかく先制点を重視した。「後半勝負なんて考えたらあかん。早い回から仕掛けないと」。下位を打つ打者が好調と見れば、次戦で打順を上げ、多く打席が回るようにした。



高野連が国際的なトレンドを鑑みた上で、「1試合7イニング制」を検討し始めているとしたら、それはそれで筋が通っているとも思います。

一方で、私は日本における「高校野球」「甲子園」という100年に渡る伝統をリスペクトするのであれば、安易に国際的なトレンドに合わせる必要はないと考えています。

したがって、高野連には、「高校野球」「学生野球」の伝統を継承するためには、何を変えず、何を変えるべきなのか、という原点に立ち返っていただきたいと思います。


「1試合7イニング制」の前に試してほしいことは「リエントリー」制度


私は常々思っているのですが、「1試合7イニング制」を導入する前に、高野連に試してほしいことがあるのです。

①「1チームでベンチ入りできるメンバーを増やす」
②「1試合で一度、ベンチに下がった選手を再度、出場させることができるようにする」


①は容易に想像がつきますので、説明は割愛します。

②について説明しますと、ソフトボールではすでに「リエントリー」というルールで1979年から採用されています。



■リエントリー(再出場)
ソフトボールでは、1979年のISF(国際ソフトボール連盟)ルール改正で、「リエントリー(再出場)」が採用され、スターティングプレーヤーはいったん試合から退いても、一度に限り再出場することが認められた。
再出場する場合には、自己の元の打順を引き継いだプレーヤーと交代しなければならず、それに違反し、相手チームからアピールがあると、「再出場違反」となり、違反した選手と監督が退場になる。
JSA(公益財団法人日本ソフトボール協会)ルールには、1980年に採用され、現在に至っている。



私はさらにこのルールに手を加えて、同一選手の複数回の交代を認めてもよいと考えています。

この「リエントリー」のメリットはなんでしょうか?

選手はまず試合に出ることが大事です。それがスターティングメンバーであれば尚のこと。
仮に、あなたが高校球児で、憧れの「甲子園」に出場したとしましょう。
あなたはレフトのレギュラーです。

炎天下の下、試合が始まりました。
守備でレフトのポジションに立つあなたの頭上を真夏の太陽が容赦なく照らします。
そして、あなたは回を追うごとに体調が悪くなっていくのを感じました。
もう限界に近いです。
しかし、監督に「気分が悪いのでもう交代させてください」と正直に言えるでしょうか?

あなたは甲子園のグラウンドに立つために、3年間、長くつらい苦しい練習に耐えてきたのです。
ここで交代を申し出たら、もう二度と甲子園のグラウンドには立てないかもしれません。
そんなセリフを吐くぐらいなら、グラウンドで倒れたほうがマシです。

しかし、ルールで、試合中に一度交代した選手も再び、出場できるというように規定されていればどうでしょうか?


このルールにはもう一つ、メリットがあります。
それは、「投手交代」や、「代打」「代走」「守備固め」が出しやすくなり、選手起用が柔軟にできるようになるので、ベンチにいる選手を最大限、活用することができるようになるのです。

例えば、X高校対Y高校の試合で、中盤を迎えてX高校が2点ビハインドだとします。
X高校の攻撃、5回表二死満塁の場面で、「9番・投手A君」に打順が廻りました。
ここでA高校が追いつき、追い越すためには、A君に替えて長打力のある代打のB君を出したいところですが、監督としてはX君に代打を出せば、次の回から継投せざるをえません。

ところが、ここで「特別代打」というルールがあれば、X高校の監督はA君に代打を出しても、A君は次の回もマウンドに上がることができます。

「代走」もそうです。
X高校は終盤、1点ビハインドの攻撃で、ノーアウトで捕手のC君が走者として出ました。
ここで、A高校のベンチには、C君よりも俊足のD君が控えていますが、C君は捕手なので次の回の守りで捕手を交代させなければなりません。
ここで、「特別代走」のルールがあれば、X高校の監督は迷わず、C君に代走を送ることができます。

また、高校野球では、エースの投手が一度、マウンドを降りて、他の守備位置につき、その後、改めてマウンドに上がるケースもよくあります。

これは当然、一度、試合のラインアップから外れてしまうと試合に再出場できないからに他なりませんが、「特別交代」のルールがあれば、投手をベンチで休ませ、あとで再登板させることも可能になります。


「試合で1度交代した選手は再び、試合に出ることはできない」というルールは、野球が現行のルールになってからずっと変わらないものです。

しかし、1試合「9イニング制」を「7イニング制」にするほうがもっと大きなルール改正になることは誰の目にもあきらかです。


試合そのものの戦い方が大きく変わります。
先ほどの記事でも、高校野球の現場を預かる監督の意見として、こう述べています。

今夏の甲子園大会で初優勝した京都国際(京都)の小牧憲継監督は、打順から継投策まで投打に影響が及ぶと考えている。

「根本から野球が変わりますよね。1番からいい打者を並べ、早めに仕掛けていかないと、あっという間に試合が終わってしまう。(投手は)2イニングずつ繋いでいけば球威は落ちない。いい投手を揃えているチームが有利になってくると思います」



「記録」の取り扱い方も変わります。
私は、「記録」の取り扱いが変わるようなルール変更は極力、変えるべきではないと思っています。

ただし、「リエントリー」にはデメリットもあります。

高校野球のチームには部員が9人ぎりぎりというところもあります。
従って、そういうチームには、このルール改正は不利に働くことになります。
選手を交代したくても交代できない、ということになるからです。


しかし、ルールの改正には常にメリット・デメリットが伴います。
高校野球に関わる選手たちの総量としての「幸福度」「満足度」がどうなるか、という観点でとらえるべきだと考えいます。

「試合時間の短縮」という安易なトレンドに乗らず、球児の「幸福」「満足」の最大化を




ご存じの通り、野球の試合時間を短くしようという動きは、ベースボールの本場、米国MLBでも進められています。

これはベースボールというスポーツは試合時間が長すぎて、多忙な現代人にとって近年、「娯楽」として受容されにくい、というものが出発点になっています。

日本高野連の宝馨会長(67)は「高校野球が健全な方向で進んでいくように努力していきたい」と説明し「高校野球に限らず、野球全体が試合時間が長いということで、時間短縮に向けて工夫してます。短縮できればいろんな方向も変わってくるかなと思います」と話した。



しかし、教育の一環として行われている「高校野球」はまったく別の観点で、「試合時間の短縮」というものを捉えなければなりません。

最優先事項は「グラウンドにいる選手の健康を守るため」であれば、必ずしも「試合時間の短縮」である必要はないのです。

憧れの甲子園のグラウンドに立てる、プレーできるという「喜び」の時間を短くすることが、高校球児たちにとって本当に大切なことでしょうか?

仮に、選手一人のプレーできる時間が短くなったとしても、その満足度や幸福度の「総量」を減らす方向に持っていくのは、本末転倒ではないかと考えます。

野球ファンの我々も、「野球は9イニングでやるもの」という固定観念だけではなく、柔軟性を持った代案を示すことが大事ではないかと思います。

そうして、高校球児にとってどんな「幸福」な機会をつくってあげられるかを考え抜くことが、教育者に限らず大人たちの役目ではないでしょうか。

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