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宝くじがあたったら。リモートワークの終焉。

完全リモートワークがウリだった弊社にも、出社回帰の波が押し寄せておりまして。
上層部が突如不退転の覚悟で我々従業員へ出社を強要してきまして。
これはもう、物言う大株主に強烈な圧をかけられたとしか思えないと専らの噂でして。

多くて月に一度の出社ですんでいた我が部署も、ジワジワと出社指示が増えており、それに伴って同僚と顔を合わせる機会が増えてきた。

突然の出社回帰命令にあたり、猛反発する従業員らに向けて経営陣が壊れたお喋り玩具のように繰り返し訴えていた言葉がこれである。
「偶発的なコミュニケーションでイノベーションを生み出してほしい」日本語でどうぞ。

とりあえず、私の所属している部署は特段イノベーションを必要としている職種ではなく、むしろリモートで成果を上げ続けてきた。
小さな子供を育てながら働いている女性も多いため、無駄に出社させられ、通勤で疲弊させられるのはご勘弁いただきたいのが総意である。

そんな我がチームが必要性の薄い出社をさせられ顔を合わせる機会が増えた結果どうなったか。

答え。
会社への不平不満に花が咲く。そりゃそうだ。

これが意外と楽しい。
社長の泥沼不倫スキャンダルを文春が暴いてくれないかだの、大株主がハニトラにひっかかり機密を外国に横流しした罪でお縄にならないかなどえげつない妄想話で盛り上がる。

先日は宝くじに当たり億万長者になったらどうするか、という全人類が幾度となく妄想してきたであろうもしも話に花が咲いた。
こういうのはね、何度やったっていいものですからね。

「即日仕事辞めますね」そう言ったのは仕事で割と評価されている真面目な優等生タイプ。
「私は仕事続けながら駐車場経営とかで不労所得を得ますね」そう言うのは普段から割と仕事の手を抜きがちな女性。

真面目に仕事してる子が即日仕事を辞めたいと言うのに対し、真面目に仕事をしていない子は続けるという。
私はここに、この世の不条理のようなものをしみじみと感じた。

ちなみに私は割と仕事を評価されている真面目なタイプだと自負しているが、そんな私はすぐには辞めない派である。

生きるために働かなくちゃいけないというスタンスで働くのと、我億万長者也、という気持ちで働くのとは見える世界がまるっきり変わると思うのだ。

一見何も変わらないのに全てが変わってしまった世界をこの目で見てみたい。

なんといっても私は最強なのだ。
上司からの評価とか、査定とかを気にする必要はない。何故なら私は億万長者だから。

空気を読むとか、愛想笑いとか、そういう面倒なものは全部やめる。
だって私は億万長者だから。

たいたいさん、あなた最近ちょっと不真面目よ。査定はDマイナス!降格!降給!
とか深刻な顔で言われたって痛くも痒くもない。月給が月に数万減ったとて、笑である。
なにしろ私、億万長者だから。

案外、思いのままに振る舞い恐れ知らずに発言することで、その妙な自信とか大物感、積極性とか柔軟な発想力とかが評価され、すっごい昇格するような気も割と本気でしたり。
意外と人生そんなふうに出来ているんじゃないか説。

まあでも私は生まれつき仕事嫌いの人間なので、億万長者になっていっとき庶民ごっこを楽しみ満足したなら辞める。

当然辞める前に私をいびり倒していた苦手な上司に3ヶ月ほど舐めた態度を取りムカムカさせてから辞める。

ムカムカさせられていた上司は私が辞めたらさぞスッキリするだろう。良かったね。おめでとう。

退職したその週末に、偶然を装い道端でばったりと上司に出くわすという蛇のように執念深い演出でトドメを刺しにいく。

もちろん、私はピッカピカに光り輝く黒い高級車からもっこもこのミンクのコートに身を包み、降り立つ。ここはやはり分かりやすく富の匂いを出したいからね。

バーキンを持つ両の手には飴玉サイズのギラギラの宝石が付いた指輪が10個並ぶ。

サングラスをちょっとずらして私の存在を元上司に認識させる。
真っ赤なルージュの口元を微笑みの形にして言うのだ。
「あら、〇〇さん?偶然ね。あたくし?いえちょっとそこまで。ご機嫌あそばせ」

私の妄想を聞いた同僚たちの笑い声でハッとする。

ああ、そうだった。

私まだ宝くじ当たってないし、ここは職場で、我々に与えられたランチ時間はきっかり1時間で、私そもそも宝くじ買ってないし、加えて私には今のところ私を虐める嫌な上司もいないのだった。

私は仕事よりホホホと笑いさんざめくのが似合う高貴な女を自認していて、だから仕事なんてほんとはしたくないし、残り時間を気にしながらご飯を食べるのはノットエレガントで嫌になっちゃうけど。

とりあえずランチタイムにアホらしい妄想話で笑い合える同僚がいて、嫌な上司もいない、意外と恵まれた環境にいることを感謝せねばとも思うのだ。







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たいたい
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