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アニメ『ばいばい、アース』の感想──ついでに原作カットによる分かりにくさを全力で補足解説する記事④

はじめに

 第1クールの締めとなる2話分です。かなり原作を圧縮省略進行なので、原作読んでないとマジでおいていかれると思います。今までの削り具合の比じゃないくらいぶっとばしています。

主に心理描写や結果に至る過程がその対象になっているため情報量が多いのに薄く感じてしまう。実際行動の動機とか結果に至る理由が拾いにくい。

とにかく開始です


前回までの記事


第9楽章

 ベルが<旅の者>へなるために王に謁見。余談ですが王は「なんとか<旅の者>になる方法を維持している」という立ち位置です。アニメでは全く伝わっていない……というかむしろ否定派っぽく見える。

王が映ったあとに神の樹が明滅していますが、これは神の樹に王が抗ってる描写です。わかんないよねー

鍵の登場。見てわかる通りグランドピアノです。原作では「ピアノ」という概念が存在しない世界故にその見た目の描写にかなり文字数が割かれていたりします。鍵盤に触れるまでの流れもかなり恭しく手探りのように描写されていました(ピアノ知らないからね)。鍵盤も白と黒の歯がたくさんみたいな表現でした。

刻まれている<MOONWORK>モーナークのスペルなのですが、<導き手>ガイダンスがなんで働かなかったのかは不明です。シアンも<旅の者>なので知らないはずは無いんですけどね

<MOONWORK>とは<月すること>だと王から発展と回帰を意味する言葉と説明が入りますが、たぶん初見ではなんのこっちゃとなるでしょう。私も原作を読んだときでさえ「??」となったので情報減ったアニメではなおさら。分かりやすくまとめるでもなく、単純にセリフ削って短くしたらそうなるよ。

ざっくりと説明しますと「月」ってことです。

さすがに短いのでもう少し。公転する月を思い浮かべて下さい。常に動きつつも見上げれば同じ場所に現れるように見える。だけど実際は全く同じ場所に戻って来てる訳でもないし、月自体も自転しているので微妙に異なる見た目。常に変わりつつ、同じ状態へと戻っているように見えて同一のものでない変化を表しています。毎年咲く花とか、毛や歯の生え変わりとか季節の移り変わり的なものです。

作中でもキールが何度も剣を折られていますが、その時の状況は何れも違う。1話で<旅の者>になると決心したベルと今回再び決心を新たに決めたベルもまた異なる。まあそんな感じです。

ベルが「月」という単語を知った後に「間違っていなかった~」と言っていますがこれも補足。月という単語に聞き覚えと懐かしさ、作中の言葉を使うと郷愁を感じたのでピアノや<モーナーク>のスペルも自分の由縁に関係するのではと思ったからですね。なので<旅の者>を目指したこと自体は間違っていなかったという意味になります

 旅の<鍵>であるピアノはかつてパラダイス・シフトで各国の王が手に入れた「神の法外たる楽奏」で魔法アンチ・テーマだと言うことを王が説明しますがカット。実は舞踏会の前に似たような会話をシアンとキティ(全)がしているのですがこちらもカットされています。シアンやキティ(全)の思惑を垣間見れる会話でもあったのに残念。しかもパラダイス・シフトという言葉は今後の展開(2期)でかなり重要なものになるのになぜカットしたのか分からない

 次に王が言った「偶然に出会う」の下りですが覚悟してください。長いです。というのもその後に続く以下のやり取りが大幅にカットされているから。そしてその部分なくして二人のやり取りの理解が困難なレベルのやり取りです。

「偶然」に出会うには「手段と方法」が必要であり、手段と方法は「手法と目的」がなければ意味がない。手法は自己表明で方法は自分以外のやり方を受け入れることであり、これらが呪いもたらし又祝福へと変える云々~

偶然とは「必然」ならざるもの。必然であるとは<法>の下で定められた枠内の出来事。つまり偶然とは「神の定めた法」の支配の外側の現象である云々~

さらにそれらを体現する存在を<人>ビューテルという。<人>とは心のかたちゲシュタルトを持った全ての存在、すなわち人格的存在ペルソナリテである云々~

おまけに<人>を識るには、まずその在り方、先ほどまでの「月すること」や「偶然」とかをを引っくるめた在り方を理解しなければならない。そしてそのもの自体の名は<現存>ナウヒアと呼ばれている

ここでアニメでの王のセリフに合流します。この会話がすごい遠回しでわかりにくいのは王が直接その核心部分を伝えることが出来ないから。ベルはそれを察したからこそ意味を探りながら会話に付き合っています。

 アニメの「偶然~」と「心のかたち~」の間にこれだけ会話があったんです。カットしても通じるならともかく意味ありげでイミフな会話に仕上がっていましたね。

そんで会話の大部分カットによる大問題が発生。<現存>ナウヒアが何を指すのかがアニメと原作で異なってしまったこと。アニメでは「心のかたちを持つもの。そのもの自体の名は<現存>ナウヒアと呼ばれている」となっていますが、原作ではその生き様や在り方を指して<現存>ナウヒアと呼んでいます。この違いのせいで続くベルの言葉と微妙に噛み合わなくなっています。

原作ではベルの”やって来たこと”が<現存>ナウヒアだっつってんのにアニメでは”ベル”が<現存>ナウヒアみたいになってるからね。ベルの続く会話は前者の意味に沿ったものだからそりゃ変な会話になるよ。

ベルの<旅の者>になるという決意には「世界に交じり合いたい」という「目的」があった。さらにその「手段」として剣士となり、<唸る剣>を振るうという「手法」を用いた。それらの「方法」についてはシアンから受け入れたもの。それらのどれもが「偶然」であり、またどれかが欠けても旅の扉を叩くことさえ叶わなかった。まさに今、旅の鍵の前に居ることも「偶然」だった。ここら辺を王との会話でベルが理解したの納得した感を出していました。

補足です。決意の根幹の「のっぺらぼう」であることや<旅の者>であるシアンの存在は神の管理外と分かりやすい。<唸る剣>はドランブイが作ったモノなので神の管理外となります。剣士になったことについては<旅の者>になる試練の為なので神の管理外。なので全部「必然」ではなく「偶然」となります。

 そんでベルが上記の内容を踏まえて「現存ナウヒア……世界を穿孔せよデュルヒ・ブレッヒェン」と叫ぶのですがアニメではこの用語が1話以来ようやく出てくるし問題点であげた通り王との会話が噛み合ってないので「どうしたいきなり」となる。さらに世界を穿孔せよデュルヒ・ブレッヒェンって現存ナウヒアと似てるよねとベルが続けるのですがこれもカット。余計に分かりにくい。

世界を穿孔せよデュルヒ・ブレッヒェンは原作では意味を含めて何度も出てくる用語で、ベルにとってかなり大事な言葉であり作品のテーマとしても重要なのに……これは明確な失敗だと思います。

 だけど、この王とベルの会話シーンは改悪部分だけじゃなく良い所もあります。ベルが横に<唸る剣>を抱えながら会話しているところですね。ベルの心境に合わせて<唸る剣>が状態を変えるのはビジュアル的に分かりやすい。原作だと背負ったまんまです。

 えー、まだまだ続きますよ。

 ベルが王の間から出る際の会話についてです。
王「唸りをもたらす者よ~」
ベル「私がまわりのやつらに悪い影響~」
王「神はそれを望まぬ」
良く聞くとここも微妙に噛み合っていません。王がベルが旅に出るとみんなが思い悩むとしか言ってないのに何故か「みんなに悪い影響与えてる?」って聞き返してます。この王の言い方だとまだ旅に出てないから影響ないし特段悪い要素も無いのに。その後に「神はそれを望まぬ」と続いていると「それ」が「旅に出ること」か「みんなが思い悩む」に掛かってしまう。ベルの問いに「そうだ」みたいに断言してから「それを望まぬ」なら良かったかもしれないけど、質問無視して「それを~」って続けちゃうと前の自分の言葉に掛かっちゃうよね。

じゃあ実際は神は何を望んでいないのか

そのためにはカットされた会話全体を追う必要があります。原作ではベルは居るだけで<唸り>を放ち周囲に影響を及ぼしており、既にその<唸り>に影響されて動き出した(唸りをあげようとしている)者達がいる(超重要)。ベルが旅に出るということは彼らを置いて行くことになります。ベルは自ら<唸り>をあげることが出来たが、彼らはベルが居たからこそ<唸り>の上げ方を知りました。なのでその途中でベルが去ることを引き留めようと、また逆に枷にならないよう勤めようと思い悩むだろう。それは彼らにとって呪いであるということを王は言います

ここで云う「唸りをあげる」は「偶然に出会おうとする」と読み替えてもいいです<現存>ナウヒアを実践しようと思い立つとでも云うのでしょうか。これは<法>から外れようとする行為に他ならず、故に<都市>に住む者が唸りを上げるということ自体も彼らを苦しめます。しかし、その生き方(唸り)を知った以上はそれを諦めるも進めるも苦痛。なのでその事を指して呪いと言いたいのでしょう。

原作ではこのような会話があってからベルは「私が”あんたにとって”の悪い影響を与えているのか」と問い返しています。あくまで本人達ではなく王にとって都合悪いのかと聞いたわけです

その問いに対して王が答えます。ベルは自分がもたらすものを分かっていない。おまえは全員が<唸り>をあげる世界を望むのかと。それは誰もが定められた<法>にとらわれず自分だけの<法>を主張し合う世界ということです。そして「神はそれを望まぬ」と言いました。いずれそんな世界が来るのだろうが、多くの民はそれを望んでいないし王自身も神に抗うことは許されていない。神に見捨てられた<旅の鍵>の存在を認めるのがやっとであるとも。

つまり今の世界が壊れるようなことを「神は望んでいない(ついでに多くの民も)」と言ったわけでした。まだ準備が出来てない的なニュアンスも含みながらですが。

こんな感じでアニメで数秒で終わった会話の間には本来はこれくらい情報詰まってました。まぁ、アニメでずっと会話垂れ流すのも冗長だから短くしたのだろうけど……あまりにも……こう、意味が変わってしまうのはどうかと思います。本当にただカットしただけで、会話の前後の流れを繋げようという気さえない。アニメで一番悲しさを覚えたシーンです。

 王がベルにYOU,城に住んじゃえよって勧誘した後にベルが剣を構えますがやや間があって構えを解きます。ここも分かりにくいけど正直、上手いことアニメで表現したなって部分でもあります。原作では、ベルが神の樹から強烈な支配の意思を感じて剣を振る直前のような緊張を帯びたが、王が視線で押し止めたシーンなので地の文章ないと難しい表現。


 アドニスはキールの<魔>ニドホック落ちがトドメとなり、憔悴しきっていて色々とどうでも良くなっています。戦闘衣装で手ぶらで一人歩いているの、他の剣士が襲ってくるのを待ってるからです。アドニスは剣を盗んでいるので恨みを買っており何度か襲われていますが今までは無抵抗でした。反撃して倒すとより強烈な復讐が続き死ぬまで収拾つかなくなるからです。今回はもう死んでもいいや、いっそ殺してくれ気分なので襲ってきた剣士を皆殺しにしちゃいました。

アニメも比較的エグい斬り方してますが原作はもっとエグい。相手を爆散させたり指とか腕を切り落としまくりです。

情報を削った挙げ句に前後の繋がりを考慮しないというこのアニメの欠点がここにも現れています。アドニスが相手の斧を腕で防いだシーンですね。この衣装は頑丈な繊維で作られていて半端な剣撃では斬ることが出来ない素材となっています。原作ではカタコーム戦で説明が入っていて、この衣装のお陰でこの説明が負傷が少なく済んだという描写もあります。アニメではカットされたので「なんで腕で防げんの?」ってなりましたが


 アドニスが王座の間にカチコミ。このときのアドニスは神ではなく目の前に居る「王」に問いかけています。王が言った「その懐疑も<法>の内である」というのはあくまで神の定めた枠の中でしか動いていないよってこと。なんでかと言うと彼の懐疑は「王が回答できる範囲のもの」だったから。ついでに「神や法を疑っている時点でそれらを在るものとして受け入れている」ことにもなります。ということで彼の渾身の「懐疑」も「必然」だったとなります。

精神攻撃でさらに追い詰められて<弟王>か<旅の者>かの二択を強いられます。10話で分かることですがシアンはこれに近い状況から<旅の者>になっているので「まだ逃げ道はあるよ」という王の優しさともとれます。アドニスが<旅の鍵>を演奏できなかった理由は本人もしゃべっていますが目的がなかったからですね。彼はまだ<現存>ナウヒアしてねぇんです。

産まれながらに神の法の外にある「呪い」を受けているので「偶然」には出会っているのではと思われますが、ベルに妹王を勧めたように神側としてイレギュラー枠で弟王という立場を確保しています。呪い自体はイレギュラーだけどその発生は予期する内でその対策もあるという感じです。そこからさらに自らの意思で行動するか否かが重要。アドニスはスタート地点を眺めて足踏みしている(さらにいえばスタートしたと勘違いしている)状態に近い。

 ところ変わってベルの待つアドニスのお部屋。彼の生き方は「○○だから✕✕する」みたいな感じで自己否定が先立ち、「○○の為に✕✕」するベルの生き方と逆だったりします。なので行動原理を自分の内に見いだすことのできるベルの生き方を羨望しています。ベルが「おまえを産み直してやる」と前回とは逆のことをいっていますが、単純に相手の望んでそうな言葉で励ましているだけですね。

アニメでは未遂で終わったアドニスの蛮行ですが、原作では最後までやっちゃってます。これ、割りと重要なのですがこの一件によるベルの傷心具合が今後の展開にも関わってくるので致命的だったりします。別に濡れ場が見たいとかじゃなくてそれに伴ういろんな人物の行動原理が軽くなるんですよ。ベルの「ぶっ殺してやる」とか色々と。

他のキャラの心情もですが、ここまで吹っ切れた行動を取っていても素手でベルの肌に触れないようにするアドニスもカットされてしまったので全員割りを食ってます。

お陰でストップ安まで好感度下がるはずが暴落くらいで済んだアドニス君。まぁ未遂でキティ(無)の目に映る自分にビビって逃走する腰抜けになりましたが。

原作でも現場から逃走します。キティ(無)の目に映る自分を見てビビって服を着て震えながら剣を向けたり、呆然と声を上げずに泣くベルに気がついて堪らず逃走って感じ……アニメより屑ムーブしてます。

最後は飢餓同盟入りして終了

さいごに

 最初に9話と10話の分といったがアレは嘘だ。思ったより(ほんとうに思ったより)9話についてが長くなってしまったので分けることにしました。わざとだったり無理して長く書いている訳ではないんです。物語の理解に必要そうな部分を補足するとこうなるんですよ。何回も書いたけどそれだけカットがヤバイってこと。

いやさ、正直あの分量をカットしながらパッと見で破綻なく纏めているのは凄いと思います。

でも多分、この時点で原作を知らない視聴者は何となくで見てるので「なんか知らんけどベルとアドニスはピアノ引けませんでした」が伝わればそれでいいみたいな感じなのかな。もう知らん。

次回10話です(もっと長いかも)

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