第8回 校内研究、どうしていますか(2)――自分のコミュニティを自分たちでつくる
1. なぜ、校内研究をやめようと言ったのか
「校内研究、一度やめてみませんか?」
現任校に着任した4年前、初めて校内研究のことを考える会議で私はこう言いました。
なぜ、このような発言をしたのかは、第7回をご覧ください。
※第7回 校内研究、どうしていますか(1)――なぜ、校内研究をするのか?
その会議で、私と、研究推進を担当している同僚は、次のような話をしました。
「みんなは研究授業やることについて、どう思っていると思う?」
「あまり前向きではないんじゃないですかね」
「どうして、そう思っているんだろう? 自分の考えでもいいから教えてくれる?」
「大変だからじゃないですか。指導案も大変だし。あと、みなさんに観てもらうのも緊張するし」
「なるほど。なんでほかの人に観てもらうのって緊張するの?」
「いやー、やっぱりいろいろ言われたりするし。それに、うちの学校ってみんな教室の扉が閉まっているんで、なかなかほかのクラスの授業を観ることもないんですよ」
このようなやりとりをするなかで、私は校内研究をやめてみることを提案しました。
ですが、これは「何もしない」ということではありません。
これまで当たり前のように行ってきた「研究テーマを設定し、誰が公開授業をするかを決め、その授業に向けて指導案検討を行い、公開授業をやって、その日に事後研究会を行い、年度末には研究紀要をつくる」とルーティン化され、負担感を強く抱いている校内研究のあり方を見直すということです。
どうして見直した方がよいかと思ったのか。大きく3つの理由がありました。
①校内研究に前向きではない
1つめは、前年度までに取り組んでいる校内研究自体に前向きな印象を受けなかったからです。
本校は、各学年3~4学級ありますが、公開授業をするのは各学年1人に限定されていました。「どういう人が公開授業を担当しているの?」と聞くと、若手が多いとのこと。私はこれを聞いて、正直嫌な気持ちになりました。
少し話が逸れますが、横浜市では、一人の教職員が2つ以上の教育研究会に所属しており、校内や他校の人に授業提案や実践提案をする機会はたくさんあります。
そして、そういう場で、誰が提案をするかについて話し合っていると、「若い人がやった方がいいよ」と若手に押しつける(ように私には見えた)先輩をたくさん見てきました。
もちろん、経験した方が学びになるということはよく分かります。
ですが、そう言っている先輩も同じ教員なんだから、「むしろ若手がやってみたいと思うような新しい実践を見せてくれよ」とずっと思っていました(単に、若手に仕事をやらせて自分はやらないように見える先輩が嫌いだっただけかもしれません(笑))。
話を戻します。
ともかく、着任したばかりで前年度までのプロセスをろくに知らない私が、「学年で一人しか公開しないのはもったいないから、全員で公開授業をした方がよい」などと言っても、やりたいと思う人はほぼいなかったでしょう。
ですので、ひとまずは「やめよう」と言ってみたのです。
②校内研究の方向性に疑問
2つめは、その会議のなかで、校内研究の方向性に少し疑問をもったからです。
この年の校内研究の方向性は、前年度の反省を踏まえて、「実践を通して、学習のルールをどのように統一していくか考える」となっていました。
理由を聞くと、全体的に子どもが落ち着かないので、学習ルールを統一した方が子どもも大人も安心して取り組めるようになる、ということでした。
着任したばかりの私は、前年度までの学校の様子がよく分かっていなかったので言及できなかったのですが、「子どもが大人(学校)に合わせるのではなく、子ども一人ひとりが過ごしやすい、学びやすい 環境を共に考えながらつくろう」としていくというマインドを育めるような校内研究にしたいなと漠然と考えたことを覚えています。
③教員が「授業を観合う」ことに後ろ向き
3つめは、教職員自身が「授業を観合う」ということに後ろ向きであったことです。
この頃はコロナ禍で各教師の扉が閉まっていたのかもしれませんが、聞けばコロナ以前からの傾向とのことです。
それに、多くの教員は、公開授業で他の教職員に授業を観られることが、自分(教員)のことを評価される時間だと思っていることが、会議の場で伝わってきました。
これら3つのことから、旭小学校の校内研究は、抜本的に見直した方がよい段階ではないかと考えました。私は自身が「校内研究を通して育ててもらった」と強く思っているので、「校内研究をするのは、悩んだり疲れたりするときもあるけど、自分のためになって楽しいよね」という感覚を教職員間で共有できればと考えたのです。
2.まずは教職員間で気楽に授業を観合えるように
では、どのように見直していったのかについてです。
上記3つの課題のなかで、私がまず改善したいと思ったのは「教職員自身が『授業を観合う』ことに後ろ向き」であったことです。
また話が少し変わりますが、私は教員という仕事は厄介だと年々思います。
それは、教員は、みんな自分が子どもの頃に授業を受けたことがあるからです(当たり前ですが)。
なかには子どもの頃を全く覚えていないという人もいるとは思いますが、膨大な時間を学校で過ごした私たちには「授業を受けた経験」が身体に染みついています。そしてその経験は、授業を考えたり、子どもとかかわったりする際に少なからず影響します。
ですが、私たち教員が授業を受けてきたかつての時代と今の時代とでは、授業に求められていることが大きく変わっています。
そんなことは教員の誰もがわかっていますよね。
でも、本当に私たちの授業実践は、自分が子ども時代の経験からアップデートしたものになっているでしょうか?
子どものときの原体験を再現した授業になっていないでしょうか?
私たちは日々、児童・生徒や保護者対応、事務処理、授業準備に追われ、「自分の授業実践はどうなんだろう?」と問い直す時間すらないのが現実です。
そんななかで、自分をアップデートするきっかけをつくってくれる方法の一つが、他者との会話なのです。
私は、本を読むのが苦手ということもあり、同僚、他校の仲間、ときには一般企業の方など、多くの方と会話をするなかで変化してきました。
なかでも最も多く話をしてきたのは、同僚です。
その会話は簡単なきっかけから生まれます。
たとえば、違う教室の前を通ったときに、「なんかおもしろそうなことをしているな」と思うことはないでしょうか。
他の教員の実践を観て、「どうして、あのクラスの子どもたちはあんなに楽しそうなんだろう」と思うことはないでしょうか。
こんなことをきっかけとして、会話が生まれ、私たちの学びにつながるのです。
ちなみに私が最も自分を問い直すきっかけになるのは、自分のことを他の人から質問されたときです。
「どうしてその実践をするの?」
「あの子の姿をどう観ていた?」
などと質問をされたときは、いつもドキッとして自分の考えを深く問い直していた実感があります。
このような私の経験もあり、まずは教職員間で気楽に授業を観合い、子どものこと、授業改善のことなどについてたくさん話せる職員室にしたいと考えました。
3.「子どものことを観るんだよ」
まず、なぜ授業を観合うのかについて、研究推進を担当している人たちと考えてみることにしました。ですが、「よりよい授業にするために」「みんなで考えるために観る」などといった漠然とした考えしか出てきません。
そこで、「授業で何を観てるの?」という問いに変えたところ、「発問」「教員の支援の仕方」「板書」「掲示物」等々、「教員が何をしているか」ということをたくさん観ていることがわかりました。それだと教師の評価のようになってしまいます。
そこで改めて、「何を観たらよいのだろうか」について考えることにしました。
するとそこで、私と同じ年度に着任した益子照正校長先生が次のように発言されました。
「子どものことを観るんだよ」
この発言を受けて別の教員がこう言います。
「『子どものことを観る』ってよく言われるけど、具体的にどんな感じなのかイメージがわかりません」
そこからみんなで「子どものことを観る」とはどういうことか、それぞれの考えを話していきました。そして最終的には、「子どもの姿を観て、よいと思っても課題だと思ったとしても、どうしてそういう姿になったのかをみんなで考えていく。そして、その会話を通して、旭小学校の子どもの素敵な姿を共有したり、みんなの指導の引き出しを増やしたりしよう」となりました。
このことを踏まえ、本校校内研究の目的を「授業を観合うと授業者だけでは気づけない子どもの姿に気づくことができるというよさを実感すること」と設定しました。
ただ、どうしても子どもの「課題だと感じる姿」ばかりに目がいきそうな懸念があったので、この年度は「子どもの素敵だと思う姿」に着目して、その姿がどうして観られたのかについて考えていくことにしました。
このような話にまとまった後に、せっかく子どもの素敵な姿をたくさん共有するんだから、みんなでどんな子どもを育てたいかということも考えられるといいなと思いつき、最終的にはみんなで見つけた子どもの姿をもとに、学校教育目標も考え直そうという話になりました(くわしくは「5.」でお話しします)。
4.2週間の「参観ウィーク」
次に、この目的をどのように達成していくか、方法を考えました。
どうしても「負担感」という言葉がくっついてくるので、極力準備をせずに授業を観合えるようにしました。
具体的には、教員一人につき、2週間の授業公開期間「参観ウィーク」をつくります。
参観ウィークの順番が回ってきた教員は、参観ウィーク開始直前の週末に、見てくれる人たちに自分が授業を行ううえで大切にしていることを伝えてから、自分の週案を職員室に掲示します。指導案はいっさい書きません。他の教員は、週案に書かれている授業のねらいを見たり、自分の授業予定を踏まえたりしながら、参観ウィーク担当者の授業を必ず一度以上は観に行きます。
観に行く教員は、「いいな」と思った子どもの姿を記録する「参観メモ」を持ちます。この参観メモには、「子どもの名前」「いいなと思った姿」「どうしてそのような姿が観られたかの予想」の3点を記入します。
このメモの最も大切な点は、子どもの名前を記入することです。
これは本校に限ったことではありませんが、職員室や研究会で子どもの話をする際に、「あのクラスは……」「あの子たちは……」と複数の子どもをひとまとめにした主語を使う教員が多くないでしょうか。
この語り方には、子ども一人ひとりの機微を丁寧に観ようとせず、その教員の「こんな子どもになってほしい」という強いバイアスがかかった子どもの見とりにつながる危険があるのではと思います。
私は、クラスで同じことをしていても、子ども一人ひとりの考えていること、感じていることは違う、それを丁寧に見とり、一人ひとりに対応していくことが授業力だと考えています。ですから、子どもの姿を観るという意識を高めるためにも必ず個人名を書くということを条件に参観し合うことにしました。
参観ウィーク最終日の放課後は、見とった子どものよいと思った姿を共有していきます。そのなかで、同じ子どもの同じ場面を観ていても、観る人によって素敵と思う姿が違っていたり、同じ場面のなかで素敵と感じたり、そう感じなかったりする子どもがいたりする、といった会話が多くなされました。
参観ウィークに1年間取り組んだ結果、「初めて校内研究を楽しいと思った」「授業を観てもらうと勉強になると思った」という前向きな声が聞かれました。
具体的には、たとえば授業を公開した人からは「自分が気づいていない子どもの姿をたくさん知ることができてうれしかった。もっと子どものことをよく観る力をつけないといけないと思った」という声があがりました。
また授業を観た人からは、「同じ子どもの姿でも観る人によって捉え方が違うのがおもしろかった」「研究授業では何を観ていいのか分からず教室の後ろから全体を眺めていたが、子どものことを近くで観るようになった」という自身の変化についての声が聞かれました。
5.みんなで学校教育目標を考え直す
年度末、校内研究のまとめとして、1年間探してきた子どもの素敵な姿を念頭に置いて、みんなで学校教育目標を考え直しました 。その際には、これまで素敵な姿に着目して会話を重ねていたので、あえて「旭小学校の子どもたちを観て、もっと伸ばしたいと思った力」を出し合いました。全教職員で話し合ったことをもとに、「思いをもつ力・関わる力・やり抜く力」を育んでいきたいということになり、これをそのまま学校教育目標に据えることにしました。
翌2022年度は、参観ウィークの方法は変えずに、「思いをもつ力・関わる力・やり抜く力」が育まれている子どもの具体的な姿を探し、みんなで学校教育目標のイメージを深めていくということに1年間取り組みました。
この2年間、授業参観を重ね、子どもの姿を根拠に感じたことの話し合いを通して、授業を観合うことへの抵抗感はだいぶ薄れてきたと思います。
そして、2022年度最後の教員アンケートで、こんな声がいくつかあがってきました。
「子どもの姿を話し合うのは楽しいんだけど、授業をどうしたらよいかということについてももっと話をしたい」
これを見たとき、私は涙が出そうになりました。
2年間、同僚が笑顔で子どもの姿を語る様子に手応えを感じながらも、褒め合っているだけのように見えてしまうこともあり、「もっと直接的に授業改善の話をした方が教員の学びになるのでは」という不安な気持ちが心の片隅にあったからです。
でも、このような声があがってきたことで、2年間の積み重ねが無駄ではなく、「授業づくりの話をしたい」という思いの醸成につながったんだとうれしい気持ちになりました。
6.自分たちの学校を自分たちでつくっていく経験
今ふり返ると、学校のなかには伝統的に取り組んでいて、なんとなくやった方がよいこと、やらなければならないことと思いながらやり続けていることってたくさんあるのではないでしょうか。その代表的なものの1つが校内研究だと思います。
今回の校内研究の取り組みで最も大切だったことは、そのやり続けていることの「なぜ?」を問い直し、必要だと考えたら、今の自分たちに合ったやり方を考えていく――このように自分たちの学校を自分たちでつくっていく経験ができたことだと考えています。
遅々とした歩みではありますが、一つひとつ問題提起し、みんなで経験しながらよりよいかたちを探って試行錯誤していく。このプロセスをみんなでつくっていくことこそが、校内研究をはじめとしたさまざまな取り組みへの納得感を生んでいくんだと思います。そして、今回の校内研究を変えてきたプロセスは、私だけでなく、多くの教員が「自分たちの声が自分たちの学校経営に影響するんだ」と実感できた出来事だと考えています。
このように、自分のコミュニティを自分たちで「つくる」という経験は、教員みんながクラスの子どもたちに求めていることだと思います。最近、学びの相似形という言葉もよく耳にしますが、大人が自分のコミュニティをつくる経験は、必ず教室経営に活かせます。
最後に、本校では、2022年度の年度末にあがった教員の声を受け、昨年度(2023年度)から年間1人1回の公開授業を行う校内研究になりました。
これだけご覧になると、以前の方法に戻っただけと思われるかもしれませんが、これまでの2年間の歩みを踏まえて、本校らしい校内研究を行っているつもりです。この詳細については、次回お伝えします(校内研究には思い入れがあるので、3回にわたってお話しすることになってしまいました)。
みなさんの学校の校内研究はどんな感じでしょうか?
ぜひ、いろいろと教えていただけるとうれしいです。