第7回 校内研究、どうしていますか(1)――なぜ、校内研究をするのか?
今年度も半年が過ぎました。
毎年思うことですが、あっという間ですね。
私が所属する学校では、4月からさまざまなことに取り組み、日々、うれしいことや悩んでしまうことなど、たくさんの出来事があります。
みなさんの学校でもたくさんのことに取り組み、いろいろな出来事があり、悲喜交々な毎日をお過ごしなのではないでしょうか。
ただ、それらの取り組みがうまくいっても、うまくいかなくても、子どもにとってよい経験になるだけでなく、ともに取り組まれた教職員の関係性もよくなっていてほしいなと思っています。
1.校内研究の悩み
さて、どこの学校でも取り組まれているものの一つに「校内研究」があります。
私は校内研究が大好きで、自分を育ててくれたと思っています。
みなさんの学校では、校内研究、盛り上がってますか?
内容が充実するとともに、教職員の関係性がよくなるものとしても機能していますか?
私は教員19年目ですので、周りには、横浜市内を問わず校内研究を推進している人が多くいます。その仲間たちと校内研究について話していると、
「なかなかみんなが前向きに取り組めない」
「負担感が強くなりやすいのだけど、どうすればよいのだろう」
と悩み苦しむ声が多く聞かれます。
もちろん私も、校内研究が大好きであるがゆえに、悩み苦しむ一人です。
今回は、そんななかで、本校がどのように校内研究を進めてきているのかということをお話ししたいと思います。
2.研究授業は1人1回? 2回?
「玉置さん、今年度の研究計画を考えているんですけど、研究授業って全員が1回しなきゃいけないんでしょうか?」
私が、現任校に着任した4月、研究推進を担当している同僚からこんな相談をされました。
みなさんが、もしその学校の校内研究の推進を担う立場だったとすれば、どう答えられますか?
私がどう答えたかをお伝えする前に、これまでに私がどのような校内研究を経験してきたかをまずはお読みいただければと思います。
もったいぶるわけではありません。
質問に対する私の「答え」に至るまでのストーリーがあるのです。
私は現任校が3校目ですが、初任校の校内研究は、全教職員で研究する教科を一つ決めて、1年間に1人1回の研究授業を行うことになっていました。
当時、なぜだかよく分からないけど燃えていた私は、年度末のふり返りで「1回目の授業研究会で課題が見つかり、その課題をどう改善しようとしたのかを考えるために、研究授業は1人2回行うべきだ!」と毎年吠えていました。
その結果、「空いている枠があれば、玉置がやればいいんじゃない?」となり、私だけ2回授業をしたこともありました(笑)。
当時の私は、
「なんでみんなやる気がないんだろう。1回だけ研究授業をしたところで意味ないのに……」
と不満を言っていました。
みなさん、このストーリーを読まれて、どう感じますか?
今ふり返ると、私のやっていたことは問題だらけでした。
「研究授業の回数」ばかりにこだわり、「なぜ、研究授業/校内研究を行うのか」についてはまったくと言っていいほど議論していませんでした(若気の至りとはこういうことを言うのですね)。
3.なぜ、校内研究をするのかって考えてますか?
2校目の学校は、横浜市内の研究校でした。
毎年行う研究発表会には数百人の方が集まるような学校です。
この学校では、1年間で1人3回研究授業を行うのが基本でした。
各学年3~4学級あるので、誰かしらの研究授業や指導案検討が毎日のように行われていました。
私は、こんな環境に喜びを感じ、日々取り組んでいました。
たくさんの時間をかけて作成した指導案について、校内のメンバーや指導してくださる講師の方と検討を重ね、何度も書き直すことになったり、研究授業に向けた授業準備にたくさんの時間を費やすことで他の業務が滞るようになってしまったりもしました。
行事も充実している学校でしたので、その準備を並行して行ったりと、毎日がとても目まぐるしく過ぎていきました。
朝早くに学校へ行き、夜遅くに学校から帰る毎日。
それでも、私にとっては、授業のことを相談できる方が職員室にたくさんいて、他のクラスの実践がとてもおもしろく、自分もやってみたいと思えることが日常的にあるこの学校には「楽しさ」しかありませんでした。
もちろん、こんな学校でも、子育て真っ最中で保育園の送り迎えがある職員もいます。
研究校のような場所に配属されたくなかった人もいます。
さまざまな人がともに働いているなかで、「校内研究が大変すぎる」「なんでここまでやらなければならないのだろう」という声が複数の方から聞こえてきていたのも事実です。でも私は、「子どものためにがんばっているんだから、やるしかないよね」と、何も変えようとはしませんでした。
「この学校に合わないなら異動すればよいのでは」とさえ思うほどの冷徹な考えの持ち主でした。
ですが、公立小学校なので、毎年メンバーが入れ替わります。
私が研究推進を担当するころには、校内研究を中心とした学校経営を始めた校長先生、私に授業のことをたくさん教えてくださった先輩方がどんどん学校を離れていき、メンバーが大きく入れ替わりました。
新しいメンバーに、「この校内研究はどんな意味があるんですか」「ここまでやる必要があるんですか」と問われたときに、私は、今までの校長先生や先輩方が教えてくれたことをフル活用して説明をしましたが、質問された方が納得するような回答をすることができませんでした。
今から考えると、私は、「校内研究で授業のことをたくさん考えたい!」という強い思いはもっていましたが、「何のために校内研究を行うのか」「教員が授業について考え、力量形成していくとはどういうことなのか」ということについてはまったく考えていなかったのです。
「伝統的に校内研究を中心とした学校経営に取り組んでいるから」という前提に甘え、諸先輩方がつくってくださった環境に甘えて取り組んでいるだけだったということに気づきました。
このような経験を重ねていくうちに、私のなかに「何のために、校内研究を行うのか?」「教員1人ひとりが『自分のためになるからやりたい!』と思える校内研究とはどのようなものなのだろう?」という問いが浮かぶようになりました。
その後、教育委員会の制度を活用して、1年間現場を離れ、慶應義塾大学総合政策学部・井庭崇教授の研究室で校内研究について学ぶ機会を得ることができました。
教育学を直接研究している研究室ではありませんでしたが、教育につながる部分がたくさんあり、この1年間は、本当にたくさんのことを学びました。それは私の校内研究づくりだけでなく、子ども、同僚との関係性づくり、授業づくりにも大きく影響を及ぼすものでした。
なかでも、「人にはすでに力(創造性)が備わっている」という考え方に、私は衝撃を受けました。
ただし、この備わっている力は勝手に出てくるものではありません。
井庭先生は、主に「パターン・ランゲージ」というツールを大変な労力を費やして作成し、誰もがその力を引き出すことができるきっかけをつくろうされていました。
※参考:株式会社クリエイティブシフト「パターン・ランゲージとは」
私はこの学びを生かして、同僚が教職員1人ひとりに備わっている力を引き出してくれるようなかかわりができれば、誰にとっても有意義な校内研究になるのではないかと考えました。
このような気づきを得て、私は現任校に着任することになりました。
4.なぜ、校内研究をしているのかから考えよう!
現任校は、研究発表会のようなことはしていませんでした。
後から聞いたところによると、私がこの学校に着任することが決まった際、職員室で「研究校から来るらしいよ。なんで研究校から来るんだろうね」「1年間大学で学んできたような人がウチの学校で何やるの?」といった声があがっていたようです。
けっして歓迎されている雰囲気はありませんでした(笑)。
着任した私は、異動したばかりということもあり、自分が主担当となるような校務分掌がありません。研究推進も、私より経験年数の浅い方が担当していました。
これは私の憶測ですが、きっと研究推進をされていた方は、このとき「玉置には先に聞いておかないと、後でごちゃごちゃ言われるかもしれない」と思ったのではないでしょうか(笑)。
さて、ようやく冒頭の同僚からの質問に戻ります。
「玉置さん、今年度の研究計画を考えているんですけど、研究授業って全員が1回しなきゃいけないんでしょうか?」
私は、この質問が、「研究授業をするかどうか」という「行い方」についてのものだったので、「これはこれまでの校内研究があまりうまくいっていないのかな」と直感的に感じました。
「なんで、それが気になるの?」
「コロナ禍でもあったので、昨年度は各学年1人の代表が研究授業をする感じだったんですよね。でも、玉置さんは研究校でやってこられているし、『みんなやった方がいい』って思われるんじゃないかなと思って」
「Aさん(質問してくれた人)はどう思っているの?」
「研究授業をやった方がいいなというのは分かっているんですけど、みんなの負担もあるし、どうなのかなと思っていて。そして、昨年度、学年で代表1人だったのに、今年度から全員研究授業するよって言うと、みなさんからも反発が大きそうで……」
「みんなは研究授業をやることについて、どう思っていると思う?」
「あまり前向きではないんじゃないですかね」
「どうしてそう思っているんだろう? 自分の考えでもいいから教えてくれる?」
「大変じゃないですか。指導案も大変だし。あと、みなさんに見てもらうのも緊張するし」
「なるほど。なんでほかの人に見てもらうのって緊張するの?」
「いやー、やっぱりいろいろ言われたりするし。それに、うちの学校ってみんな教室の扉が閉まっているんで、なかなかほかのクラスの授業を見ることもないんですよ」
「そうなんだ。じゃ、今年はみんなで研究授業やりましょう!って言っても盛り上がらない感じ?」
「確実に盛り上がらないと思います(笑)」
「そっかぁ。じゃ、そもそも旭小学校はなんで校内研究ってやってるんだろうね?」
「……どこでもやっていることですもんね。大事だから?」
このようなやりとりを重ねるなかで、校内研究の行い方を考えはするけど、校内研究自体によいイメージはもっていなさそうであるということが分かりました。
そして、校内研究をやる意義について、これまで同僚同士で考えることもなかったということが分かりました。
そこで、私は、このように提案してみました。
「校内研究に意義を感じられていないのであれば、一度やめてみませんか?」
「えっ、そんなこと大丈夫なんですか?」
「まあ、僕もやめるのは初めてだけど、法律でやらねばならないと規定されているわけじゃなさそうだから、大丈夫なんじゃないかな?」
「やめて、どうするんですか?」
「それをこれから一緒に考えない?」
このような感じで、校内研究について1年間大学院で学んでから戻った現任校の1年目、校内研究をやめることになりました。
そして、それから3年が過ぎた現在の本校は、校内研究を行っています。
文字数の関係で、今月はここまでです。
今の旭小学校が、どのようなプロセスで、どんな校内研究を行うことになったのかは、また来月以降にお話しします。
私は、みんなが働きたくなる職員室をつくるために、校内研究の充実は欠かせないと思っています。
だから、教務主任になっても研究主任を兼ねさせてもらっているのです。
みなさんの学校の校内研究は、よい職員室をつくる要素になっていますか?
旭小学校もそのような校内研究になるように、まだまだ試行錯誤しているところです。
ぜひ、みなさんの学校の校内研究の様子もお聞かせいただけるとうれしいです。
来月以降もよろしくお願いいたします。
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