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折々の絵はがき(6)
国宝〈鳥獣人物戯画〉平安時代 高山寺蔵
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異なる時代を生きた、見ず知らずのひとと心を通い合わせる。それは芸術だけが叶えてくれることなのかもしれません。
『鳥獣人物戯画』は平安後期から鎌倉前期にかけて墨一色で制作された4巻からなる絵巻で、京都の高山寺に伝来する国宝です。擬人化した動物と人間が描かれていますが、どこでだれが何のために描いたのか、今もなおはっきりとはわかっていません。
なぞは多いものの、この作品は見る人の頬をゆるませる愛らしさとおかしみに満ちています。動物たちが遊びつくす様子はのびのびと楽しそうで、何を話しているのかとついセリフを考えてしまいます。遠い昔の誰かの想像力が、時を経て、いまのわたしたちの心をこんなにも浮き立たせてくれる。それはまるで尊い贈り物のようです。
800年前、描きながら作者はきっと思ったのではないでしょうか。これを見てみんな笑ってくれるかなあ?と。ここには「日常を面白がる」視線と「誰かを笑わせたい」思いがにじみ出ていて、それこそがこの作品を非常に親しみやすくしているのではないかと思います。作者と話ができたらなにを聞こうかと想像します。いま見てもものすごく面白くてかわいいと伝えたらいったいなんと返してくれるのでしょう。
のびやかな筆遣いを見ていると、遠いどこかにこんな場所があるのかもしれないと思います。そこでは動物たちが言葉を話し、じゃれあい、ひとの真似をしてくすくす笑いあっている。想像が広がるとからだが内側からじんわりと温まってくるようです。ああ、誰かを笑わせたいという気持ちは、誰かを幸せにしたいということだ。いくつもの時代を超えて届く声はほがらかで明るく、もっと聞きたいと絵に耳をすませてしまうのでした。