京都便利堂

美しいものを美しく再現する。私たち京都便利堂は美術分野一筋に130余年間歩み続けた蓄積…

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美しいものを美しく再現する。私たち京都便利堂は美術分野一筋に130余年間歩み続けた蓄積を未来へと繋ぎます。 オフィシャルオンラインショップ:www.kyotobenrido.com/

マガジン

  • 折々の絵はがき

    好きな作品を手のひらの上で気軽に鑑賞できる「絵はがき」。 ゆっくり眺めていると、いままで気が付かなかったあらたな作品の魅力に出会えるかもしれません。1枚の絵はがきを取り上げ、みなさんと一緒に作品世界に入り込んでみたいと思います。 京都便利堂ニュースレターで掲載している「折々の絵はがき」のバックナンバーです。ニュースレターへの登録はこちらからhttps://bit.ly/3ZVtlBm

  • 京都便利堂ものづくりインタビュー

    手ごろな商品を通じて美術をより身近に親しんでいただきたい――。 それぞれの作品世界を大切に生かし、本当の良さを伝えられるもの そして日常のシーンで楽しくご使用いただけるものをと考え 便利堂は企画・デザインから制作まで妥協のない姿勢で商品づくりに取り組んでいます。普段は表に出ることのない便利堂の商品づくりの裏側をたずさわるつくり手の声をご紹介していきたいと思います。 京都便利堂ニュースレターで掲載している「京都便利堂ものづくりインタビュー」のバックナンバーです。ニュースレターへの登録はこちらからhttps://bit.ly/3bGN2l8

最近の記事

折々の絵はがき(68)

◆〈朝の月〉森田りえ子◆ 平成4年 京都文化博物館蔵  まだ夜が明けきらない、朝のごく早い時間でしょうか。空には上弦の月が浮かんでいます。空が少しずつ色を変えるなか、金色の光を放つように咲く糸菊。その輝きは夜の間に浴びた月の光をそっと放っているのかと見まがう美しさです。明け方、誰に愛でられることもないまま静かに佇む姿のなんと贅沢なことでしょう。  糸菊は別名「管菊」とも呼ばれ、花びらがすべて管状になっているのだとか。くるくるとカールするように丸まる花弁の先はどれもが意思を持

    • 折々の絵はがき(67)

      ◆〈日光中禅寺湖〉川瀬巴水◆ 昭和5年(1930) ボストン美術館蔵  すっかり赤く染まった木の葉。それを見ると、あたりの空気がひんやりと澄み渡っているのが伝わってきます。きっと朝晩はもう寒いくらいなのでしょう。空には雲が風の向くまま浮かんでいます。ああ気持ちいいなあ。すーはーと旅先で深呼吸するような心持ちになり、つかの間、絵はがきのなかの秋を味わいました。  奥日光の入り口に位置する中禅寺湖は、四季折々に美しい姿を見せることから、明治から昭和初期にかけ外国人の避暑地として

      • 折々の絵はがき(66)

        ◆〈山頭火シリーズ「あすもたたかう歩かせる星がでている」〉池田遙邨◆ 昭和62年 京都国立近代美術館蔵  すでに日はとっぷりと暮れています。どれだけの距離を歩き続けたのか、くたびれた山頭火は道端の松の幹へ誘われるように腰を下ろしたのでしょう。ようやく人心地ついてふと空を見上げると、そこには静かに星が瞬いています。「ほう…」。彼がそんな風に息を漏らしたかはわかりません。しかし、夜の青を穏やかに照らす星々の光に、一人きりだった彼の心はどれほどなぐさめられただろうと思うのです。思

        • 折々の絵はがき(65)

          ◆絵はがき〈対柳居画譜 向日葵に飛蝗〉柴田是真◆ 明治時代 19世紀 東京国立博物館蔵  どこかからセミの声が聞こえてきます。遠くに目をやるとゆらゆらと陽炎が揺れ、その間も全身は熱波に包まれているよう。太陽は容赦なく照り付け、服の中を汗が幾筋も流れ落ちていきます。シャツは背中に貼りつき、目は暑さから逃れられる場所を探すのを止められません。1枚の絵はがきからはそんな真夏のひとときが思い浮かび、「ああ、また夏が来るな」と覚悟 するような気持ちになりました。  画面をはみ出して描

        折々の絵はがき(68)

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        • 折々の絵はがき
          67本
        • 京都便利堂ものづくりインタビュー
          21本

        記事

          折々の絵はがき(64)

          ◆絵はがき〈鯉のぼり〉国吉康雄◆ 福武コレクション  画面いっぱいに描かれた大きな鯉のぼり。その姿はどこか子どもが描くおおらかな絵のようで、一目見ると忘れられない迫力をたたえています。ぎょろりと大きな目は何かをひたと見つめ、立派な身体は途中で折れ曲がり…おや? よく見ると口から真っ赤な何かが出てる? 急に不穏さを感じ、画題に《鯉のぼり》となければ生きた魚に見えたかもしれないと思いました。  よく見ると、女性が両腕を上げて鯉のぼりを支えています。ふと中心から目を離すと、玉乗り

          折々の絵はがき(64)

          折々の絵はがき(63)

          ◆絵はがき〈花の習作〉福田平八郎◆ 昭和36年頃 京都国立近代美術館蔵  絵はがきからは春の陽気に誘われて出かける人々のくすくすと楽し気な笑い声が聞こえてくるような気がしました。白い玉砂利に見えるのは、よく見ると舞い落ちた桜の花びらです。1枚ごとに異なる色合いが重なり、枝に咲いているのとはまた違う愛らしさをたたえています。まるで気がついた人だけがもらえる贈り物のようだなと思いました。  構図を引き締めるのが、画面を斜めに走る池を区切る板の直線。花びらが囲われた区域一面に浮か

          折々の絵はがき(63)

          折々の絵はがき(62)

          ◆絵はがき〈六十余州名所図会・阿波鳴門の風波〉歌川広重◆ 江戸時代(19世紀) 東京国立博物館蔵  ざぱーんざぱーん。波の音とともにごうごうと強い風の音が聞こえてきます。画題の「風波」とは風が吹いて立つ波のこと。確かに波は山のようにそびえる岩へ打ちつけると激しく砕け、高々と真っ白いしぶきを上げています。知らない間に吸い込まれてしまいそうだな。まるで巨大な生き物のようにうごめく海のなか、波と波がぶつかり合い渦を巻く様子は恐ろしく、足がすくむような感覚に襲われました。  ここは

          折々の絵はがき(62)

          便利堂ものづくりインタビュー 第18回

          第18回:山田繊維株式会社 代表取締役 山田芳生さん 聞き手・社長室 前田 2023年12月9日に発売したオーガニックコットン風呂敷 70cm〈鳥獣戯画〉の製造をご協力いただいた風呂敷専門メーカー「山田繊維株式会社」さんへ、弊社企画担当の西川さんとお邪魔して、風呂敷の魅力について代表取締役の山田芳生さんにお話を伺ってきました。 ―――すてきなお店ですね。壁にも天井にもたくさん風呂敷がディスプレイされていて目移りしてしまいます。 山田社長(以下「山」):ありがとうございます

          便利堂ものづくりインタビュー 第18回

          折々の絵はがき(61)

          ◆絵はがき〈髪梳ける女〉橋口五葉◆ 1920年 千葉市美術館蔵  どこか物思いにふけりながら髪を梳かす女性。彼女は毎日こうして長い髪を手入れしているのでしょう。波打つ黒髪が透き通るような肌をいっそう際立たせています。湯上りでしょうか。ほっと肩の力の抜けた様子に、日中の姿はどんなだろうと思いを巡らせました。長い髪はきりりと結い上げられ、顔には化粧が施された、いわば「表向き」の佇まいもさぞかし美しいはず。今、彼女が纏う撫子柄の浴衣は繰り返し洗われてきたのかくったりと身体になじみ

          折々の絵はがき(61)

          折々の絵はがき(60)

          ◆絵はがき〈高台寺界隈〉上村淳之◆ 昭和48年 京都文化博物館蔵  連なる山々を背景にして、建物は木々に守られるようにそっと佇んでいます。絵はがきから感じるのは初夏の気配。京都の東山の山すそには清水寺や八坂神社、知恩院や法然院などたくさんの寺社があり、この高台寺もその一つです。中心地からそう離れているわけではありませんが、ここには不思議なほど喧噪が届きません。辺りには木々が美しく茂り、思わず目を閉じて深呼吸したくなるような澄んだ空気に満ちています。空からは柔らかな日差しとと

          折々の絵はがき(60)

          折々の絵はがき(59)

          ◆絵はがき〈東海道五十三次・庄野〉歌川広重◆ 江戸時代 東京国立博物館蔵  急な坂道。突如降り出した雨はぐんぐん激しさを増し、風も強く吹いています。青い脚絆をつけた旅人と思しき人は向かい風にあおられ、番傘を半開きにしかさせません。鍬を担いだところを見ると、となりを走るのは農夫でしょうか。彼は飛ばされそうな頭の笠をぐっと押さえて前傾姿勢。「まいったなあ」とばかり、夕立から逃げるように駆けています。お客さんを乗せた駕籠には準備万端、合羽がかけられ、二人のかけ合う「急げ急げ」の心

          折々の絵はがき(59)

          便利堂ものづくりインタビュー 第17回

          第17回:ハリバンアワード クリスティン・ポッターさん 聞き手・社長室 前田 ハリバンアワード2023最優秀賞を受賞されたクリスティン・ポッターさんにコロタイプとの出会い、ものづくり体験などについてお話を伺ってきました。 ―――ハリバンアワード2023の最優秀賞受賞、おめでとうございます!  本当に素晴らしい賞に選んでいただいてありがとう。私がこうして日本に来るのは2回目、25年ぶりということもあり、今回の滞在をものすごく楽しみにしていました。お招きいただきありがとうござ

          便利堂ものづくりインタビュー 第17回

          折々の絵はがき(58)

          ◆絵はがき〈散策〉 菊池契月◆ 昭和9年 京都市美術館蔵    女性の美しい佇まいに、どこかですれ違ったらきっと振り返るだろうなと思いました。短い髪がふわり、春風に揺れています。のどかな陽ざしは午後でしょうか。鮮やかな橙色の着物があっさりとした顔立ちによく似合い、縞柄はすんなりとした手足をより長く見せています。桜には新芽が顔を出し、まだ大人の入り口に立ったばかりといった彼女の初々しさをそっと引き立てているよう。淡い色の瞳はわずかに異国の香りを漂わせ、一重まぶたと切りそろえ

          折々の絵はがき(58)

          便利堂ものづくりインタビュー 第16回

          第16回:山本修さん 聞き手・社長室 前田 長年の経験と地道な研究で挑んだ、コロタイプのエコロジー化についてコロタイプ研究所所長の山本修さんにお話を伺ってきました。 ―――「便利堂コロタイプ研究所」では、コロタイプマイスターである山本さんが、所長として日々研究に取り組まれています。この研究所とは、どのような役割を担っているのでしょう?  研究所には3つの役割があります。ひとつは、皆さんにコロタイプを知っていただく、学んでいただく場としての「コロタイプアカデミー」。次に、コ

          便利堂ものづくりインタビュー 第16回

          折々の絵はがき(57)

          ◆〈竹〉福田平八郎◆ 昭和16年頃 京都国立近代美術館蔵  どこかの竹林でしょうか。竹は競い合うように空へとその背を伸ばしています。姿は凛々しく、しっかりと広く張った根が思い浮かびました。描かれた7つの竹は色や太さもそれぞれ微妙に違います。ひんやりと冷たく固い肌に浮かび上がる模様。つるりとしていたりざらざらだったり、そっと触れるときっと手触りも違うのでしょう。  京都には随所に竹林があり、中にはうっそうと生い茂る竹藪も多くあります。そっと足を踏み入れるとそこには思いのほか冷

          折々の絵はがき(57)

          折々の絵はがき(56)

          ◆〈花卉図画帖 桃〉中村芳中◆ 細見美術館蔵  一年でもっとも寒い二月。ダウンコートを着こみ手袋をはめ、白い息を吐く日々はもうしばらく続きそうです。とはいえ暦の上では立春を迎えました。立春。この二文字を見るとどんなに寒くとも「…そうか、春か」と少し先の未来に目を細めるような気持ちになるのが不思議です。冷たい空気の中、木々には生まれたての新芽が顔を出しています。草木の芽生えに気が付くと自然の営みにわけもなくじんとして、愛おしさにおのずと笑みが広がります。  この一枝には桃の花

          折々の絵はがき(56)