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折々の絵はがき(50)


◆絵はがき〈梨木通〉長谷川良雄◆

〈梨木通〉
長谷川良雄 明治40年 京都国立近代美術館蔵

 京都御所の東に位置する梨木神社。その名前は旧町名の梨木町に由来しています。梨木通は、今出川通りのひとつ北の通りから神社までをつなぐ南北の短い通りで、寺町通の一本西に京都御所に沿って通っています。この通りはその昔、朝夕参内する公卿たちの参内道として使われていたのだとか。描かれているのは、おそらく梨木通の今出川を上がったあたり、北のつきあたりに幸神社(さいのかみのやしろ)が見える路地でしょうか。眺めていると、目でスケッチをするようにゆっくりと歩く長谷川を、近所の子どもたちが走って追い抜く光景が思い浮かびました。
 長谷川良雄は明治17年、京都府紀伊郡東九条村で代々地主を務める家の三男として生まれました。輸入業を営む家は大変裕福だったそうです。彼は御所内に設立された京都高等工芸学校図案科の第一期生として入学し、浅井忠に学びますが、父親の死去にともない家督を継ぐこととなり、その傍らで画業を続けました。
 寺町通を丸太町から梨木神社に向かって歩いてみると、今でも街中とは時間の流れがまるで違うことに気が付きます。低い建物、豊かな緑、たくさんの路地。工芸学校からほど近いここはきっと長谷川のよく知る場所だったでしょう。気の向くまま歩き、知らない路地へ迷い込んでは方々でスケッチを楽しむ。これは彼のそんな時間から生まれた一枚なのかもしれません。梨木神社には500株もの萩が植えられており、名所「萩の宮」としても知られています。9月には豊かな花々をつけた枝が風に揺れ、秋らしい情景をつくり出すでしょう。その景色を長谷川もきっと目にしたのではないでしょうか。

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