折々の絵はがき(41)
〈雪兎〉小村雪岱筆 昭和17(1942)年刷 埼玉県立近代美術館蔵 より
しんしんと降る雪。もう積もり始めているところもあるのか、寒い中しゃがみ込んだ女は手に雪のうさぎをのせています。誰かからもらったのでしょうか。手が冷えるのもかまわず、女はあたかもうさぎが生きているかのようにじっと見つめています。いえ、うさぎを見ているようで、頭の中ではこれをこしらえた誰かを思い起こしているのかもしれません。「ここへ置いて行こうか」。持って帰れない訳でもあるのか、横顔にはそんな迷いがにじんでいる気がします。
女がどこで何をしてきたのかはわかりません。しかし、雪の日に多くの人がそうするように足早に家へ急ぐことはせず、まるでまだ帰れないとばかり腰を上げようとはしません。何かを思う女の手の平でうさぎは次第に溶け始めるでしょう。このまま形をとどめられたらいいのにと考えているのでしょうか。それとも、溶けてしまうならいっそ、自分の手の中で見届けよう、そう思っている気もします。少しずつ小さくなっていくうさぎの身体を、表情を変えることなく見つめる女の顔が目に浮かびました。
小村雪岱は大正から昭和初期にかけて、主に舞台芸術や挿絵など大衆文化の分野で活躍した意匠家です。この絵は広告用のうちわのためにデザインされたものでした。雪岱の描く女性には不思議なことにどんな場面でもしんとした静けさが感じられます。それは、まるでどれだけのぞき込もうとしても伺いしれない、深い湖の奥底のような静けさです。それを目にするたび、女性は胸の内に計り知れない何かを抱えている、雪岱はそんな風に考えていたのではないかと思うのです。