折々の絵はがき(71)
◆美術干支年賀 《琵琶に弁天の白蛇図》葛飾北斎◆
江戸時代 フリーア美術館蔵
琵琶を包む袋は絹でしょうか。その美しい佇まいからはこの琵琶が持ち主にいかに大切にされているかが伝わってきます。そこへ音もなく這う白蛇にふいに気が付き思わず息をのみました。しかし恐ろしいはずの蛇もまた、この袋の美しさに惹きつけられたのかもしれないと思うとすっと身体の力が抜けていきました。蛇は絹の肌触りを確かめるかのように静かに身体を滑らせています。誰にも気づかれずこのひとときを楽しむ白蛇をそっと覗き見たような気持ちになりました。
白蛇と琵琶は七福神の弁財天を表すおめでたいもの。弁財天は七福神のなかで唯一の女神とされ、頭に白蛇、手には琵琶を携え、学問・弁舌・音楽・財宝などの神として知られています。そうと解ればこの絵がまた違って見えてはきませんか?
本作は葛飾北斎が晩年に描いた肉筆画です。多くの忘れがたい作品を遺した北斎は亡くなる直前まで身近な動植物を描き続けました。鱗一枚に至るまで繊細に描く彼の筆遣いは絵に魂を吹き込むかのごとく。蛇は目を離したとたん、今にもするすると動き出しそうです。さあ、新しい1年の始まり。みなさまの元へ美しく豊かな日々が訪れますようお祈り申し上げます。