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折々の絵はがき(17)
〈娘〉北沢映月 昭和10(1935)年 京都市美術館蔵
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幼い妹とまだあどけなさが残る姉。お行儀よくとでも言われたのか二人とも緊張した面持ちで、つないだ手には「お互いが頼り」とばかり、ぎゅっと力が込められている気がします。この絵からは、娘たちがあたかも母の着せ替え人形のように、どことなく与えられるものを言われるまま着せられたような雰囲気が感じられます。姉の着物に肩上げがしてあるところを見ると、彼女はまだ13歳のお祝いを済ませていないのでしょう。紅い襦袢は彼女の初々しさを際立たせていますが、ふと着物だけを見るとずいぶん渋い色合いをしています。合わせるもの次第で娘時分から大人になるまで長く着ることができそうで、華やかではありません。着る回数の少ないよそ行きは出来るだけ先々まで何度も使えるものを。おさえた銀鼠の色にはそんな母の思いというか、暮らしの知恵が込められている気がします。妹の着物は、姉に合わせて用意されたものでしょうか。
北沢映月(1907-90)は京都に生まれ育ち、上村松園と土田麦僊から日本画を学びました。現代女性の社会的風俗や歴史上の女性たちを描いた画家として知られています。映月は本作で京都市美術展覧会第一回展に初入選しました。
この絵からは、描かれていない母親のたたずまいが色濃く感じられます。成長してゆく娘の姿を思い浮かべて仕立てるよそ行きの着物には、自分のものとは違う特別な喜びがあったはずです。映月が筆を運ぶ間も、母親はどこかから二人を心配そうに見つめていたのではないでしょうか。手をかけて育てることは、こんな風に目には見えないものを知らないうちにいくつも手渡すことをいうのかもしれません。
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