テックタッチのカスタマーサクセスで検討するべき5つの施策

海外からやってきたSaaSというビジネスモデルは、ここ数年で国内でも普及が進みました。それに伴い、SaaSビジネスに欠かせない「カスタマーサクセス」という職種も一般的になってきました。

カスタマーサクセスの3つのタッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)の中でも、実際の活動として多いのは、ユーザーに対して1対1の手厚い対応を行う「ハイタッチ」でしょう。

クリエイティブサーベイ株式会社「カスタマーサクセスのハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの方法とCX向上のポイント」より引用

ただ、ハイタッチすることができるユーザー数はサービス提供側の人的リソースに比例します。そのため、ユーザー数が拡大してくると、ハイタッチだけではなく、ひとつの施策で多くのユーザーにアプローチできる「テックタッチ」によるカスタマーサクセスの必要性が生まれてきます。

私はSaaSプロダクトの会社のテックタッチ専門のチームで2年間働いていました。色々な施策を試し、成功することもあれば成果が出せないこともありました。本記事では、私の実体験をもとに、テックタッチで有効だと思う施策を5つご紹介します。

テックタッチ施策を考える前に

施策の紹介の前に、テックタッチを考えるときに知っておいて欲しいことを3つお伝えします。

テックタッチは何のためにやるのか?

テックタッチの目的は「効率よくユーザーにアプローチするため」と紹介されることが多いです。この目的はサービス提供側目線のものですが、ユーザー側から見てもテックタッチというアプローチにはメリットがあります。

例えば、「新しくiPhoneを買ったけど、言語設定が英語になっていて日本語に変えられない」という状況を想像してみてください。解決方法として、Appleに電話して問い合わせるか、Googleで検索するか、どちらを選びたいかというと、後者を選ぶ人も多いのではないでしょうか。

「さくっと調べて自己解決したい」という気持ちは、サービス提供側だけではなくユーザー側にもあります。そのため、自己解決に適したコンテンツを作ることは、ユーザーから見ても大きなニーズがあります。

テックタッチができればできるほどいいのか?

テックタッチがサービス提供側にもユーザー側にもメリットが大きいなら、テックタッチの割合が増えれば増えるほどいいかというと、そうではありません。

ユーザーの抱える課題の種類によっては、どうしても説明が難しいものはあるため、課題の難易度によってはハイタッチのほうがいい場合もあります。

例えば、あなたが事務的な業務を効率化するプロダクトを契約したとします。導入したプロダクトに合わせて、これまでの業務フローを新しく作り替えなければいけないとすれば、先方にハイタッチで対応してもらえると安心できるでしょう。

他にも、ユーザーと関係値を作りたい時もハイタッチが向いています。例えばオンボーディングのフェーズにおいて「サービスの裏にいる担当者への好感度」がLTVにインパクトがあると分かっている場合、むしろ積極的にハイタッチを行って関係値を作りに行く、という戦略もありえます。

このように、ハイタッチもテックタッチも、あくまでユーザーにサクセスしてもらう手段にすぎません。サービス提供側として何を目的にしているのか?そのために解くべきユーザーの課題は何か?その課題はどんな解き方が最もよいのか?を順番に考え、テックタッチで解けそうな課題があれば、テックタッチを検討するとよいでしょう。

テックタッチ成功の秘訣は「出し分けの繊細さ」

カスタマーサクセスにおいて大切なことは、ユーザーにとってのサクセス状態(=ゴール状態)を定義し、ユーザーがゴールに到達するまで、ユーザーの状態に並走する形で情報を伝えていくことです。

例えば、子どもの教育で考えると、まだ平仮名も勉強したことのない子どもに漢字を教えても、理解することはできないでしょう。平仮名の学習がすんでから漢字を教える、という順番でないといけません。

カスタマーサクセスにおいても「どんな状態のユーザーにどのコンテンツを届けるか?」が大切で、例えば以下のようなユーザーの状態に合わせて情報を出し分けていく必要があります。

・デモグラフィック属性
・プロダクトを使って何をしたいのか?
・契約してからどれくらい時間が経っているのか?
・どこでつまづいていそうなのか?
・どれくらいプロダクトを活用できているのか?

経験上、この出し分けを一般的なマーケティング(ユーザー獲得)活動よりも繊細に行う必要があるのがカスタマーサクセスです。

前置きが長くなりましたが、以下で具体的なテックタッチの施策を5つご紹介します。各施策について、【①メリット②実施する時のコツ③注意点】の順にくわしくお伝えします。

施策1. メール

テックタッチの鉄板といえば、メールによるアプローチでしょう。どんなサービスでもユーザーのメールアドレスを取得している場合が多いため、すぐに始められます。メール施策のメリットや注意点をお伝えしていきます。

①プロダクトにログインしない人にアプローチできる

メールの強みは、「プロダクトにログインしていない人にアプローチできる」ことです。ログインしないユーザーに対しても、プロダクトを活用することを促すコミュニケーションができます。

私がカスタマーサクセス活動をしていたときも、毎年の解約者の半分が「ログインすらしないユーザー」でした。メールは、プロダクトの外にいるユーザーにアプローチできる貴重な手段のひとつです。

②ユーザーごとにコンテンツを出し分ける

前段で「カスタマーサクセスでは、ユーザーの状況ごとにコミュニケーションを使い分けていくことが重要」と述べましたが、ユーザーの属性・状態で送信グループを分ければ、簡単に(=ノーコードで)コンテンツの出し分けができることもメールの強みです。

ハイタッチの担当者が「テックタッチをやっていきたいけど、エンジニアのリソースがない」という悩みを抱えるケースは多いですが、まずはメール施策を行ってみるとよいでしょう。

③開封されない確率が高い

メールのデメリットは、開封されないかもしれないことです。ユーザーに対して「私に向けて伝えてくれている情報なんだ」ということが伝わらないと、有象無象のメールのひとつになってしまいます。

そのため、また前段の話になりますが、ユーザーをいくつかのセグメントに分けてカスタマージャーニーを作ったうえで、どのセグメントごとに、どんなタイミングで、どんな情報を出すのかを整理することが大切です。

施策2. 動画

最近は、製品の使い方を調べるときにYouTubeで検索する人も増えました。そういう意味で、動画コンテンツは今の時代に合ったレクチャーツールといえます。カスタマーサクセスにおいては、動画はどんなユーザーの課題に有効なのでしょうか。

①ゼロから分からないときは見てもらいやすい

最初に動画コンテンツをつくるときは、多くの場合はユーザー向けに行っているセミナーをベースにすることが多いと思います。セミナーをベースにしつつ、短尺で分割したり、編集を作り込むとより良いです。

ただ、ハイタッチも兼務していてテックタッチ施策に使えるリソースが限られている場合は、セミナーの録画をそのままユーザーに届けても悪くはないでしょう。なぜなら、本当にゼロから分からない時は、長尺の動画でも見てもらえるからです。

例えば、あなたが転職活動を始めたばかりだとします。何からどう初めていいか分からないときに、「よりよい転職先を選ぶには?」というテーマのセミナーがあれば、時間が30分あったとしても視聴するのではないでしょうか。

オンボーディング期のユーザーに多いですが、ユーザーが「何が分からないかが分からない」という状態のときは、分量の多いテキストよりも動画のほうが喜んでもらえる場合も多いです。

②画面遷移が多くなる説明に使う

ユーザーにプロダクトの操作を伝える時に、中にはどうしても「一連の流れ」として説明しなければいけない場面があるでしょう。必然的に画面遷移が多くなりますが、テキストやスクリーンショットだけだと、ユーザーは頭でプロダクトの挙動を想像しなければならない難しさがあります。

動画コンテンツは、画面遷移が増えてもプロダクトの挙動を理解してもらいやすいため、プロダクト操作を一連のストーリーとして伝えたい時に有効です。

③検索性が低い

動画コンテンツのデメリットは、「検索性が下がること」です。テキストコンテンツだと、ユーザーが入力する検索キーワードに何らかの形でヒットすることが多いですが、動画コンテンツだとそうはいきません。

動画のタイトルを「どんな課題に対してのアンサーなのか」が伝わりやすくするだけではなく、ユーザーが調べるキーワードに当てはまる確率が少しでも上がるよう、タイトルや(動画の内容の)説明文章を工夫しましょう。

施策3. プロダクト内ガイド

ユーザーにとって最も楽なのは、プロダクトの中で案内されることです。以下の画像のように、プロダクト内にガイドを出す方法についてご紹介します。

クラウドサーカス株式会社「SaaSにおけるチュートリアル活用方法とは?人的リソースを使わずにツール定着率を改善する方法」より引用

①ユーザーの行動に合わせてリアルタイムに伝えられる

プロダクト内にガイドを出すことのメリットは、ユーザーの操作に連動する形で、リアルタイムにメッセージを伝えられることです。この「リアルタイム性」は、プロダクト内ガイド独自の強みです。

例えば、ある一定の入力を毎月繰り返しているユーザーに対し、その入力が終わったタイミングで「これらの入力をテンプレート化しますか?」とガイドを出すと、同じ内容をメールで伝えるよりもユーザーの反応率は上がるでしょう。

②ガイドを詰め込みすぎないようにする

プロダクト内ガイドを使う時は、契約直後のユーザーに対して、オンボーディング目的でガイドツアーのような形にすることが多いです。

ガイドツアーを作る時のポイントは、あれもこれもとガイドを詰め込みすぎないことです。ガイドツアーが長すぎると、ユーザーは飽きて途中で離脱するか、後回しにします。親切心でたくさん情報を伝えたくなりますが、ユーザーにとって絶対に必要なガイドだけに絞ることをおすすめします。

どうしてもガイド量が多くなってしまう場合は、オンボーディング内容がまとまった別ページを作って見返せるようにするか、単にクリックするだけではない、ユーザーを飽きさせない仕掛けが必要です。

③開発コストが高い

デメリットは、開発コストの高さです。プロダクトマネージャー・デザイナー・エンジニアのリソースが必要となります。

リソースの確保が難しい場合は、「KARTE」・「pendo」・「テックタッチ」など、ノーコードでガイドを出せるツールを導入するのもおすすめです。各ツールには、プロダクト内にガイドを出す以外にもさまざまな機能があるので、ツールごとに機能を比較し、自社に合ったものを探すとよいでしょう。

施策4. ヘルプページ

ヘルプページはテックタッチ施策というよりも、あらゆるプロダクトに当たり前に存在するものかもしれません。他のテックタッチ施策と並べた時に、ヘルプページはどんな立ち位置になるのでしょうか。

①問い合わせが削減できる

ヘルプページの1番のメリットは、サポートデスクへの問い合わせを減らせることです。各記事の閲覧数などを分析すれば、ユーザーの課題を理解するヒントも得られます。

また、サービス提供側の事情にはなりますが、ヘルプページをKPIを置いて改善していく場合、KPIは「(サポートデスクへの)問い合わせ削減」にするのがよいでしょう。カスタマーサクセスのKPIに置かれやすい「解約率低減」や「LTV向上(クロスセル・アップセル)」に対してヘルプページが寄与しないわけではないのですが、相関を示すのが難しい場合がほとんどです。

ヘルプページは問い合わせ削減にインパクトがあるコンテンツとしてPDCAを回していくことが、ユーザーにとってもコアの価値ですし、サービス提供側としても事業への貢献を示しやすくヘルシーです。

②ユーザーが迷子にならないようにする

多くの場合、ヘルプページは(カスタマーサクセスではなく)カスタマーサポートチームの管轄下に置かれており、問い合わせが多く来る内容をヘルプページに載せていく、という運用をしていることが多いのではないでしょうか。

この運用自体に問題はないのですが、場当たり的に記事数をどんどん増やしていくと、「ユーザーが迷子になりやすくなる」というデメリットはあります。

ユーザーが迷子にならないようにするために、簡単かつすぐに実行できるのは、新しく内容を追加するときに「既存の記事に付け足すか、新しく記事を作るか」を慎重に考え、「タイトルと記事内容が一意になる状態を保つ」ことです。

ユーザーが記事に到達する際、ヘルプページのサイト内からでも、google検索からでも、必ずタイトルを見て記事をクリックします。タイトルと記事内容に乖離があると、ユーザーが欲しい情報にたどり着きにくくなってしまいます。ヘルプページは、一問一答の状態を保っておくことをおすすめします。

③「何が分からないかが分からない」ときには役に立たない

ヘルプページは、ユーザーの疑問が具体的な場合に自己解決してもらうためのコンテンツです。裏を返せば、オンボーディング期の「何が分からないかが分からない」ときには役に立ちません。「検索して記事にたどり着いてもらう」という使われ方なので、検索するというアクションに至ることができないユーザーは救えません。

勉強でたとえると、ヘルプページは「辞書」のようなものです。学び始めの段階では、何を辞書で調べればいいのか分からないため、「教科書」のような役割を持ったコンテンツと使い分けることをおすすめします。

施策5. DMチラシ

最後は、DMチラシです。SaaSのカスタマーサクセスでDMチラシを使うことはあまり聞き慣れないかもしれません。どのようなユーザーに効果的なのでしょうか。

①プロダクトにログインせず、メールも見ない人にアプローチできる

DMチラシのメリットは、プロダクトにログインせず、メールにもまったく反応しない人にもアプローチができることです。

プロダクトにもよりますが、ユーザーの中にはwebでのコミュニケーションに全く反応しない人もいます。例えば、プロダクトを購入する時の経路が、口コミなどネット経由ではない場合、購入後にwebでどれだけアプローチしても意味がないでしょう。他にも、年齢層によっては、webの情報をまったく信用しないという人もいます。彼らに唯一アプローチできる可能性があるのが、DMチラシです。

②伝えたい情報が共通しているセグメントに使う

前段で述べた、カスタマーサクセスにおいて大切な「出し分け」という点では、DMチラシは不利です。なぜなら、出し分けをすればするほどデザイン・印刷コストがかかるからです。

そのため、カスタマーサクセスでDMチラシを使うことはあまり主流ではありません。「どれだけwebでアプローチしても、全然プロダクトにログインしてくれない」という場合にチャレンジする施策だといえるでしょう。

ただ、カスタマーサクセスでDMチラシの施策が向いているターゲットがあるとすれば、例えば「契約してすぐ」のユーザーではないでしょうか。

なぜなら、契約直後のユーザーには共通した情報(=「まずはこれをしましょう」という案内)を送りやすいからです。また、契約直後でプロダクトを使うことにモチベーションが高い状態であることが多いので、より反応してもらえる確率が高まります。分厚い冊子にして、プロダクトを使い始めることにウェルカム感を伝えるのもおすすめです。

やってほしいことや伝えたい情報が共通しているセグメントには、DMチラシを検討してみるのもいいでしょう。

③効果測定が難しい

メールだと、メールを開封したか?メール内のリンクをクリックしたか?など、ユーザーの反応を細かく確認できます。

DMの場合は、「ユーザーの最終的なアクション」で効果測定をするしかなく、その手前情報である「チラシを見たか見ていないか?」などのデータをとることができないのがデメリットです。

多くの場合は、効果測定をできる仕掛けを入れておくことが多いです。例えば、「DM限定!このQRコードから○○を申し込めば、△△を1万円オフ」のようなクーポンを仕込んでおいて、クーポンにどれだけ申し込みがあったか?で効果測定します。

さいごに

以上、カスタマーサクセスのテックタッチで有効だと思う施策5つをくわしくご紹介しました。各施策の性質を考慮しながら、どんなユーザーのどんな課題にテックタッチで取り組むのかを考えてみてください。

より効率的に施策を進めたい時や、効果測定まで楽に行いたい場合は、カスタマーサクセスツールを導入するのもおすすめです。

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