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マニュアルと思いやりとブタ財布を持つ私

日本語学校に勤務していたとき。中級クラスの読解授業で『マニュアル社会』という文章を読んだことがある。

「機転」とか「臨機応変」というものが、マニュアル社会の中では活かされにくい、といわれている。几帳面にマニュアルどおりに従っていると、機転を働かせる才能が失われる、とも聞く。

(『話す・書くにつながる!日本語読解中級』P42より引用)

授業で、アルバイト先ではマニュアルがあるのか聞いたところ、クラスのほとんどの留学生たちは、それぞれの職場で細かいマニュアルがあり、それにそって対応しているというのが多数だった。もし、マニュアルにないことが起こったら、先輩か店長(上司)に相談するとのこと。

そのときは、「ふ~ん、そうか・・」と、心の中でつぶやいていた私。それが先日、これはマニュアル100%遵守?と思われることがあった。

通りがかりに偶然見つけたスーパー。ここで、うちの近くには売っていないお菓子を発見。物は試しと買ってみることに。合計金額592円なり。私は小銭でいっぱいの財布の中から1円玉を見つけ、1102円払った。これなら、おつりは510円で、500円玉、10円玉それぞれ1枚ずつとなり、小銭すっきりだ。

「ありがとうございます。509円のおつりです」と、レジ担当の若い女性。

「えっ?510円では?」と言いそうになるのをじっとこらえ、店を出てからレシートをチェック。

ガ~ン!

なんと、出していたのは1101円だったのだ。自分では1102円出したと思っていたのに、実は1円足らなかったというこの失態。いよいよ、自分も頭がボケてきたのか・・・というショックに打ちひしがれた。そして、509円分の硬貨6枚を財布にしまいながら、何だか、もやもや。

レジの女性は1101円払った私に、当然509円のおつりを、きちんと心を込めて渡してくれた。笑顔も素敵な女性で、接客態度は二重丸!この店にマニュアルがあるとしたら、マニュアルどおりの接客だろう。

でも、もしレジの女性が「このお客は小銭が多くなるのが嫌だから、多分1102円出そうとしているんだな。でも、出したつもりになっているのかも?」などと考え、ここでちょっと臨機応変に、「お客様、1101円でよろしいでしょうか?」と聞いてくれていたら、私は絶対に、もう1円を出していた。「ああ、聞いてくれてよかった!」という安心感と共に。

今や、これだけ電子マネーがあるというのに、いまだに小銭でパンパンになったブタ財布をおともに買い物している私が言うのも、おこがましいかもしれない。それに、「機転がきく」とか「臨機応変」の言葉は、何かトラブルが起こった時に対処するというニュアンスが強い。この場合、恥をかいたのは私だけで、店員さんは仕事の一環としてだから、トラブルでもなんでもない。だから、「臨機応変」というのも変だろう。

でも、自分のことを棚に上げてあえて言うと、「やっぱり、どんなときでも100%マニュアル遵守・依存よりも、そのときどきで柔軟に、相手の立場に合わせて行動」ということを忘れてはならないと思う。

相手(お客)はロボットではない。血の通った人間。だから、相手は何を今考え、望んでいるのか。それを慮れるのも人間である私たち。それで、短い時間でもお互い、清々しい気持ちになれたら、「今日はなんだかラッキー、ハッピー!」なんて思えるんだけどな。

「マニュアル社会」から少~し、外れるのも勇気がいること。でも、ときにはあえて外れてみるのも、人の温かさに触れることができるのではないかなあ・・・






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