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最近、私にあらわれている不思議な症状
最近、といってもここ1か月くらいだけど、私に不思議な症状があらわれている。
簡単に言うと、小説や物語などを読んでいると、その光景が目の前にまざまざとあらわれるのだ!私がまるで、その場にいるような感覚。しかも、オールカラーで登場人物の息遣いまで聞こえてくる。
例えば、今、日本語プライベートレッスンで、中国人女子高生Yさんに、芥川龍之介の『羅生門』をやっている。1行ずつ読んでいきながら、Yさんに語句の意味や、登場人物の下人と老婆の心の動きや様子を、質問しながら確認していく。
引き取り手のない屍骸が無造作に捨ててある羅生門の楼の内で、死体の女の髪を抜いて、かつらをつくる老婆。
老婆は、見開いていた目を、いっそう大きくして、じっとその下人の顔を見守った。まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目でみたのである。それから、しわで、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも嚙んでいるように、動かした。(中略)「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、かつらにしょうと思うたのじゃ。」
なんて不気味な。暗闇の中で、ただ自分が生き延びることを考えて髪を抜く老婆の姿。生きることの無常とやるせなさに満ちた目を、この瞬間にも私に向けている。
そして、老婆の話を聞き、自分も追い剥ぎをしないと生きていけない下人。
下人は、すばやく老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く屍骸の上へ蹴倒した。(中略)下人は、剥ぎとった檜皮色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
この下人の早業!老婆の着物をわきにかかえて、あんな急な梯子を下りるなんて。しかも暗闇の中を。・・・あっ、もう下人が見えない。
老婆のほうを見たら、今、屍骸の中から裸の体を起こし、聞きとれない声を出して、梯子の口まで這っている。そして、門の下をのぞきこんでいる。
まさに、骨と皮しかない老婆の痩せた裸体。この世の人の姿とは思えない・・・かろうじて、生きているという感じ・・・ほら穴のような暗黒の夜に包まれている京の街を、身ぐるみを剥がされて、どんな思いで見つめているのか・・・
あ、老婆の深い深いため息が聞こえる。これまでの下人と老婆のやり取りを見ていた私も、背中にぞわぞわするものを感じて、どうしようもない。
私は、教科書を静かに閉じた・・・・そして今、平安時代の京にある羅生門から、この世界に戻ってきた。
・・・という感じに、リアルすぎる体験をしている私なのだ。高校生の時、私もこの小説を授業で読んだけど、ここまで生々しい感覚はなかった。他にも、古文、外国文学、絵本、詩などなど文章で書いてあるものなら、同じ症状が出る。
でも、その時代、その場所に瞬時に行くことはできるけど、登場人物とは話せないのだ。(残念だけど)ただ見ているだけ。登場人物も、私の姿は見えないようだ。
動画を見ているようなビビッドさで、ワンシーンごとに、私の頭と心に強烈に刻まれている。昔と違って、自分の中で何か新しいスイッチがカチリと入ったのかもしれない。
この症状、名前をつけるなら何だろう?全く、思いつかない・・でもまあ、疲れないようにして、今後も、ぞくぞくわくわく楽しみながら、この症状と仲良く歩んでいけばいいか・・・
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