日本語の授業と大根役者
個人的に、私が絶対向いていないと思われる代表的な職業は3つ。
①医療従事者(医師や看護師など)➁銀行員や税理士 ③俳優(女優)
①はまず、血が怖いから。落ち着いて大量の血を処置する前に、恐ろしくて自分が倒れている。
➁数字を見ると頭の中が混乱するから。家計簿に書き込む少ない桁の数字しか理解できない。加えて毎年、税務署に提出する書類も、どこに何の数字を書けばいいのか全く分かっていないので、毎回同じことを尋ねている。
③まず、顔や身長など身体的なものが問題外。それに短いセリフすら覚えられないから、演技なんて無理。
他にもできない、向いていない職業は山ほどあるが、あくまで主なものだ。
・・・とこのように思っていたのだが、最近、日本語の授業で③の必要性を感じるようになってきたのだ。
例えば、こんなとき。
授業終了のチャイムが鳴るや否や、彼は教室を( )出て行った。
a ゆうゆうと b のろのろと c あたふたと
この3つの擬態語の違いを留学生たちに簡潔にわかってもらうには、どうしたらいいか。
適切な例文を出して、使い方から理解してもらうことも正攻法だ。ただ、ちょっと印象に残りにくいかも。
そこで、演技。「終了のチャイム鳴りました」と言って、私は、えらそうにふんぞり返ってゆっくり歩き、教室のドアを開ける。『ゆうゆうと』出て行くです」
「あ、今日はバイトで店の掃除しないといけないんだった。大変なんだ、これが。腰、痛くなるし。やりたくないなあ。バイト行きたくないなあ。嫌だなあ・・・」とブツブツ言いながら、ゆっくりゆっくり歩き、ドアを開ける。『のろのろと』出て行くです」
「わっ今、12時半。1時から彼女とデート。急げ急げ!早くしないと間に合わない!後のことはよろしくっ!」と走ってドアを開ける。『あたふたと』出て行くです」
これで多分、大体の意味は理解し、とても慌てているという状況からも正しく選んでくれるかと思う。
いずれにせよ、大根役者のクサい演技にも、学生達は率直に笑ってくれる。まあこれで、この3つの語彙の意味が分かってくれれば、クサい芝居も役に立つというものだ。
ただ、淡々と語彙の説明をするのではなく、もし時間が許すようなら、ちょっとした“演技”もすれば、教室の雰囲気も変わり相乗効果も期待できる。
小学3年生の学芸会で、二言ほどセリフを言ったギャングかなんかの役をやったきり、その後の人生、裏方ばかりだった。が、日本語の授業で大根役者デビューとは。
全くもって、人生は分からない。
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