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「ショートショート」平均男の特殊能力『筆記用具』編②
・・・①からの続き。
中学3年生の1学期のことだった。
私はいつものように、授業を受けていた。
退屈な授業だ。
先生を観察し、癖を見抜き、モノマネを習得してからは、授業中の暇つぶしもなくなった。
窓側の席であれば、体育でサッカーをやっている校庭に目をやり、視察に来た代表監督さながら、試合を眺めることが出来るのだが。
窓側の席や、学校一のマドンナの隣の席になれる程、席替えのくじ運はない。
運でさえ、平均なのだろう。
しっかりと平均的な睡眠を取れているはずなのだが、こうも退屈な授業だと眠くなる。
ウトウトしていると、モノマネし慣れた先生の声とは違う声が聞こえた気がした。
隣の席の友人を一瞥したが、こちらに話しかけてきている様子はない。
後ろの席の友人が、授業中に話しかけてくるとしたら、背中をつついてくると相場で決まっている。
気のせいか。
でも確かに聞こえた気がした。
あまりキョロキョロしすぎると、授業に集中していないことが、先生にバレてしまう。
一回忘れよう。
教科書に目をやり、読んでいる振りをした。
するとまた、何か声が聞こえた。
やはり、気のせいではない。
でもどこからは分からない。
もう一回、目の動きだけで辺りを見回した。
そこで何かを感じ、自分の机の上に置いてある筆箱で目が止まった。
「僕の悩みを聞いてくれる?」
はっきりと聞こえた。
溜息交じりの声だ。
なんだ、どこから声が聞こえた?
やはり、先生の声でもないし、後ろからでも、隣から聞こえた訳でもない。
「ねー、聞こえてるんでしょ?」
また聞こえた。
筆箱方面からだと確信した。
筆箱は机の前寄りの左端に置いている。
完全に聞こえている、筆箱から声が。
音の出るボールペン?
確かに小学生の時に、イルカの鳴き声がするボールペンを持っていたことがあったが、さすがに、高校生になるのを控えている中学3年生になった今、もう持っていない。
そういえば、小学生の時の休み時間に、イルカの鳴き声がするボールペンで音を出し過ぎて、あだ名が「イルカ」になったことがあったっけ。
おっと、今はそんなことはどうだっていい。
現実から目を逸らしたいのだろう。
信じられない、完全に筆箱から声が聞こえている。
なんなんだこれは。
・・・続く。