記野式:サクッと!ゲーム業界講座 1月前半号
あけましておめでとうございます。旧年中はご愛読いただきましてありがとうございました。本年も一生懸命書いてまいりますので何卒よろしくお願い申し上げます。
年末から年明けにかけてあっという間に円安が進み、現在1ドル=116円前後になっています。弊社の売上は大部分が米ドル建てなのでこの円安は大歓迎なのですが、日本経済を考えるとあまりに行き過ぎた円安はよろしくないのでは?と心配になったりします。
日本政府がデフレからの脱却を図っているのは「インフレが好景気とペア」であるとの定説ですが、実は現在の円高は輸入製品をはじめとしたインフレをもたらすにもかかわらず、景気はひとつもよくなってないじゃん!という「スタグフレーション」を招きかねません。
スタグフレーションは「稼ぎが少ないのにモノの値段が上がる」という最悪のシナリオです。政府の経済政策に委ねる国民としては何とかして~と祈るしかないのでしょうかねぇ。
あ、新年からネガティブな話をしてすいません。早速まえがきから参りましょう。本記事での為替レートは1ドル=116円、1ポンド=157円で計算しています。
<記野式まえがき:定額課金制動画配信(Subscription Video on Demand: SVOD)>
SVODとは、Subscription Video on Demandの略で、定額課金制動画配信のことを指します。Netflix、Hulu、HBO Max、Amazon Prime Video、Disney+など、日本国内ですとdTV、U-NEXTなどがこれにあたります。月額で会費を払うことにより、その期間内で映像が見放題になるというサービスです。
DVDやBlu-rayを買わなくてもインターネット接続とディスプレイさえあれば好きなコンテンツをすぐに観られるわけですから、アメリカのみならず各国でサブスクのメンバーが増えています。
現在では、オリジナルコンテンツはもとより映画館と同時にSVODで封切られるタイトルも増えてきているので、むしろ映画館に行くことの代わりになりつつありますね。「記野式:サクッと!ゲーム業界講座」5月後半号でハリウッド至上主義の斜陽として報告していますが、新型コロナ感染拡大による巣ごもりも作用してこれらのSVODも飛躍的に広まりました。
1.SVODの世界における今後の普及度
Digital TV Research のレポートによると、SVODのサブスクライバ(契約)数は2026年までに16億4,000万に達する見込みとのこと、このうち中国とアメリカが全体のほぼ半分を占めてはいますが、2021年現在ではこの2国で56%だったことを考えると、今後はこれら大国以外で普及していくと考えられます。
レポートでは、Disney+、Hulu、Hotstarなどのサービスを展開するDisneyが2025年にNetflixを追い抜き、さらに2027年にはDisney+単独でNetflixを超えると主張しています。
同レポートにおける2026年時点での全世界における契約数ランキング(予測)は下記の通りです。
1位 Disney+(Hulu、Hotstar含む)2億8,420万
2位 Netflix 2億7,100万
3位 Amazon Prime Video 2億4,340万
NetflixはSVODの先駆けとなった立派なプロバイダですが、そもそもの動画の権利者であるDisneyやWarnerが独自にSVODを始めてしまったため、それまでライセンスを受け展開していた動画配信の権利をはく奪されてしまったのですからしょうがないですよね。
それでもNetflixはオリジナルコンテンツに力を入れており、Netflixでしか観られないコンテンツを仕込み続けています。最近の日本のコンテンツでいうと『浅草キッド』などもそうですね。
2.HBO Maxの躍進
そんなDigital TV Researchのレポートをいい意味で裏切るニュースが舞い込みました。年明けにHBO Maxの運営元であるWarner Mediaから、HBO Maxの2021年末現在の暫定契約数は7,380万だったと発表がありました。
Digital TV Research のレポートではHBO Maxは2026年までに7,300万契約をゲットする予想でしたから…なんと5年も前倒しで達成してしまったことになります。
これは『Dune(デューン/砂の惑星)』や『Matrix Resurrections(マトリックス レザレクションズ)』などが映画館での公開と同時にHBO Maxで配信開始になったなどWarner側の戦略の勝利かと。
ま、映画館からしたらたまったもんじゃないですが…。笑。Warnerからすれば自社コンテンツを鮮度の高いうちに自社チャネルで販売したことになりますね。
HBO Maxの例を見ればわかる通りすべてはコンテンツとその戦略次第なので、Digital TV Researchのレポートはあくまでも指標としてみてください。今回HBO Maxが勝ち取った契約数はWarner自体、そして競合SVODの戦略いかんによっては、契約者は簡単に別のSVODに移行しますからね。
3.中国は別なのです
上記は全世界市場の予測ですが、中国は外資サービスを受け入れませんので独自のサービス提供を行っています(もちろん海外からも加入できます)。Statista によると、中国における2021年5月現在の契約シェアは下記の通りです。
Digital TV Research レポートでは2026年までに中国におけるSVOD契約者数は3億5,400万と予測されており、Top3は下記の通りです。
1位 Tencent 9,870万
2位 iQiyi 7,680万
3位 Youku 4,810万
Digital TV Researchによると、中国とアメリカは2020年末に同程度の契約数になっていたものの、中国の成長は政府の圧力により減速しており、2026年には3億5,400万の見込み。一方アメリカは順調に成長を続け、2026年には4億5,000万の契約が見込まれているとのこと。あ、アメリカは人口数を越えているではないすですか!つまり、世帯で複数のSVODに入っているのがフツーってことですよね。
4.日本ではどうなんだろう?
もともとケーブルテレビをサブスクしていた海外と比べると地上波がタダだった日本はなかなかコンテンツにお金を払わないんだよねーって話をよくしていたんですが、アメリカのSVODの流れを受けてどう変わってきたんでしょうか?
Hollywood Reporter によると、Media Partners Asia がまとめたレポートに日本のSVOD事情が明らかになっているとのこと。このレポートによると、日本のSVOD契約数は2021年8月末時点で4,400万人。
1位はダントツのAmazon Prime Videoで契約数は1,460万、これは日本の全SVOD契約数の33%にあたります。Media Partners Asiaは、Amazon Primeが日本でウケている理由として、バンドル型eコマースサービス(プライムサービスとの抱き合わせ)であること、サービスの使いやすさと競争力のある価格設定、コンテンツの豊富なライブラリなどを挙げています。
その結果、日本でのPrime Videoの視聴は日本のローカル作品、特にライセンスアニメが70%近くを占め、ハリウッド映画や海外のシリーズ作品は20%程度でした。
世界で名を馳せるNetflixは600万でした。実は、2021年初めのレポートでは、Netflixのアジア太平洋地域最大市場が日本からオーストラリアとニュージーランドになると予測されていましたから、Netflixが伸びていないのは予想されていました。それだけ日本が世界的にみて特殊な市場と言うことですね。
現在の日本のNetflixの推定600万契約について、その約25%は「韓国ドラマ」が牽引しています。『梨泰院クラス』や『愛の不時着』など話題になりましたよね。一方アメリカ発のコンテンツは15%にとどまることが明らかになりました。また、Amazon Prime Videoと同様ライセンスアニメがけん引役になっているのも日本特有のカラーです。
2020年6月に日本でサービスを開始したばかりのDisney+は180万にとどまっています。
Disney+は2020年6月に日本で開始され、現在市場での足場を固めているところです。昨年10月27日にDisney+に「STAR」ブランドを追加して日本のローカル番組を含む16,000タイトルがさらに追加されたため大きな弾みをつけるるのでは?と予想されています。
そのほかにHulu Japanが280万、ドコモ・アニメストア(ドコモ携帯向けビデオ)は250万、U-NEXT(2021年からHBOとライセンス契約締結)は240万となっています。
実は、広告付ストリーミングプラットフォームである「TVer」が頑張っています。ドラマ、バラエティ番組、ニュース、スポーツなど幅広いコンテンツを提供するTVerは、2021年1月から8月21日までの間で日本全国で配信されたプレミアムビデオ全体の16%を占めました。Amazon Prime Videoが26%、Netflixが10%と考えると素晴らしい数字ですよね。
日本のSVODは増えてはいるものの、特に有料のSVODの伸びが海外と比べて鈍いようです。地上波がそうであるようにやっぱり「基本無料」ってのが染みついているんでしょうね。笑。
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