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和室にまつわるナイトメア(FUJI氏)
「和室」
それは家の中にあるのに、なぜか別の空気が流れているように思えた。
幼少期、僕の実家には和室があった。
高度経済成長期がを経て、急激な核家族が進んだ日本では、
旧来の日本家屋は町から姿を消し、
大手ハウスメーカーの建てた家が軒を連ねるようになる。
それに伴い、旧来の日本家屋は「和室」の名を借りて、
洋風建築の一室に押し込めらる事となる。
そして当然の流れとして、洋風建築の一室としての「和室」は
祖父母のスペースにあてがわれる事が多くなる。
僕の家も、そんな日本の建築事情に反する事は無かった。
和室はおばあちゃんの部屋みたいな使われ方をしていて、
おばあちゃんの事は大好きだけど、
幼い僕は、あの部屋だけ空気が澱(よど)んでいるように感じていた。
怖いわけじゃない。だけど、なぜか負のイメージを連想させる部屋。
それが関係しているのか、関係ないのか、
幼少期に熱が出た時に、必ず見る「和室」を舞台にした夢があったんだ。
その夢には必ず知らない人がいる。
僕の家に知らないお客さんが来て、
その人はお父さんやお母さんの知り合いなんだろうけど、
僕の知らないおじさん。
大人たちで話をしていて、僕はそれを少し離れたところから聞いている。
しばらくすると、お客さんが具合が悪くなる。
立って歩けないくらい具合が悪くなったお客さんを、
とりあえず和室に布団をひいて休んでもらおうということになるんだ。
急遽お母さんが準備をして、お客さんを和室の布団に寝かせた。
「これでゆっくり寝られますね」
お母さんはそう話しかけると、横になったお客さんに掛け布団を掛けた。
そして次の瞬間、
お客さんが乱暴に布団を剥がすと凄い勢いで暴れ出した。
僕は呆気に取られ、お母さんとお父さんは必死にお客さんを抑える。
でもお客さんはそれを跳ねのけて、部屋のものを壊し始めた。
掛け軸を破り、壺を投げて割る、
手当たり次第に物を投げたり、障子を破り暴れ回るお客さん。
そして、それに怯える僕。
この夢は本当に怖かった。
幼少期、熱が出ると、熱が下がるまでの間ずっと、
何回も何回も繰り返しこの夢を見てうなされていた。
それはまるで終わる事のない
悪夢のメリーゴーランドに乗っているようだった。
※この内容はインタビューを元に、加筆修正を加えて作成しています。