新書、読もうぜ! ―モノカキしたい人のためのインプットガイド― 第三回
『毒 青酸カリからギンナンまで』
船山信次 著
PHPワールド・サイエンス新書
最近、『薬屋のひとりごと』の漫画版を読みました。
さすがにアニメ化まで行ったヒット作だけあって、面白いですね。
というわけで今回は、毒に関する本のご紹介です。
・どんな本なの?
タイトル通り毒全般について、幅広い知識を得られる一冊です。
本書の章立ては以下のとおりです。
第一章 毒についての基本知識
第二章 毒とは何か
第三章 歴史のひとこまを飾る毒
第四章 食べ物と毒
第五章 毒による事故
第六章 毒にまつわる犯罪
第七章 麻薬と関連物質
第一章では毒全般に関する基礎知識を解説しています。毒の強さを表す指標であるLD50という用語がここで解説されています。
第二章では起源や作用、法律や科学的性質など、様々な観点からの毒の分類について解説しています。
第三章では、歴史にまつわる様々な毒について解説しています。クレオパトラやソクラテスを死に至らしめた毒は何か?正倉院に保管されている謎の毒物、冶葛(やかつ)の正体とは?中世に恐れられた病気「聖アンソニーの火」の原因となった毒とは?などなど、歴史好きな方にとっては興味深い内容となっています。
ちなみに魔法植物としてファンタジー系の創作物で有名なマンドラゴラも取り上げて解説しています。
第四章では食べ物と毒について解説されています。
一読すれば、我々の身近なところにあるものでも、こんなに毒物があったのかと驚かれるかとおもいます。
第五章では様々な毒による事故の事例が紹介されています。
紹介されている様々な事例はヘビや蜂といった毒を持った生物、毒のある植物の誤食、そして我々が普段普通に呼吸している二酸化炭素など多岐に及び、いずれも興味深いものとなっています。
第六章では毒にまつわる様々な犯罪の事例について解説しています。
歴史的な事例については第三章で主に取り上げる手いるので、こちらの章で取り上げられているのは現代の事例になります。
現実において、スパイ映画さながらの、傘に仕込んだガス銃から発射される毒弾が使われていた事例などは、創作にも強いインスピレーションを与えてくれるのではないでしょうか。
第七章では様々な麻薬物質について解説しています。
一口に麻薬といっても、主要なものだけでもヘロイン、コカイン、ヒロポンなどがあり、それらの違いは我々一般人には分かりづらいかと思いますが、そのあたりもこの章を読めば良く分かると思います。
・どこが面白いの?
章立てを一読しただけでも想像いただけるかと思いますが、とにかく毒に関する知識が幅広く豊富に掲載されています。
英語では、毒を意味する言葉としてポイズン(poison)、トキシン(toxin)、ベノム(venom)などが有りますが、その違いはご存知でしょうか?
本書はそれらの用語の違いについても、分かりやすく解説してくれます。
また、毒の強さを表す一つの指標として、LD50(読みは「えるでいーごじゅう」、あるいは「えるでいーふぃふてぃ」)という用語があります。
LD50の「50」の部分は実際には、小書きされることが多いです。
LD50とは、半数致死量(Lethal Dose 50%)の略で、この量を投与された生物が50%の割合で死に至る、というものです。
例えばLD50が20mg/kg、すなわち体重1kgあたり20mgの毒物があったとして、体重80kgの成人ならば、これを20×80で1600mg、つまり1.6g接種すると2人に1人は死に至る、ということになります。
現代劇などで、医学や薬学関連のプロを登場させた時、その人物に、
「アカチバラチンのLD50はわずか0.01μg(マイクログラム)だ、くそっ、盗まれた量だけで都民全員が殺せるぞ!」
……みたいな台詞を言わせると、ぐっとプロフェッショナル感が増すんじゃないかと思いますんで、今日はこれだけでも覚えて帰ってくださいね。
一般的なイメージとしては、自然界に存在する毒物よりも人類が人工的化学的に合成した毒物の方が強いようなイメージがあるのではないかと思いますが、例えば化学合成された最強クラスの毒ガス、VXガスのLD50が15.4μg(マイクログラム)なのに対し、自然界に存在するボツリヌス菌(しばしば食中毒の原因になるアレです)が作り出すボツリヌストキシンは0.0003μg(マイクログラム)と5万倍ほどの強さがあったりします。
・どんな人におすすめ?
毒全般について幅広く知識を身に着けたい方。
現代を舞台にしたお話で、毒物をネタにする際にリアリティを出したいという方などにおすすめです。
また、中世や近世的なファンタジー世界を書く場合でも、その時代に有った(知られていた)毒物ってどんなものがあるのか?といった知識を得たい人にも。
毒物にまつわる様々な事件や事故の事例も豊富に取り上げられていますので、そこから短編などの着想も得られるのではないでしょうか。
最後に、本書に掲載されている知識の中には、身近な所から取れる毒物など、悪用されるとかなり危険な知識も含まれていますので、創作物で描写される場合でも、それなりに配慮した描写を心がけていただければ幸いです。