『蚊がいる』 穂村弘
MAY 27, 2018 Instagram掲載
いつものように、ほむほむのエッセイは面白い。この本も。
私は本の感想を「自分はこの本の何に反応したのか?」というテーマで書いているのだが、今回一番反応したのは「蚊は何匹か?」である。
表紙は蚊取り線香のパッケージを模したデザイン。『蚊がいる』というタイトルを英訳した『MOSCUITOES AROUND』と描いてある。「『いる』はthere isとかexistではなくてaroundなんだな、あぁその方が飛び回ってる感が出ていいな、なるほどなるほど。………蚊って一匹じゃね?夜中にプーンと音がして目が覚めるシチュエーションは一匹がふさわしい。二匹だったら諦めがつく。戦っても無駄だ。二匹も殺れる気がしない。一匹、その方が緊張感があるし、あの嫌な感じを想起する人もたくさんいるだろう。だって、まあまあ頻繁に、誰にでも起こることだもの。『A MOSQUITO AROUND』がいい、絶対に。
じゃあ、なぜ?3語じゃデザイン的に収まりが悪いんだろうか。
イラストに描かれている蚊も一匹。短歌って助詞の一つにこだわったりとかするんじゃないのか、いいのか、ここは。
エッセイの中にでてくる「蚊」は、混乱と不安と苦痛の象徴で、それに対して「ただ頑張る」ことでしか対応できないものなのか、そして雑誌やテレビにはそんな空気は感じられないけど、それは嘘なのか、と疑問を投げかける、という状況で登場する。
巻末の対談で、ピースの又吉さんが「『蚊がいる』みたいなことを気にする感じって好きなんです。」と言っている。
そうかこの「mosquitoS」は「いる」はずのものが「いない」ことにされている蚊的なものが、世の中には「たくさん」あるよね、という意味なのか。
でも、でもさ。「A mosquito」のほうが、そのシチュエーションはすぐそこに(頻繁に)、という身近な恐怖を呼び起こし、ヒヤヒヤすると思うんだけど。
答えはわからない。そんなカバーデザインは横尾忠則氏。
14. 蚊がいる