『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』 花田菜々子
来日した外国人が、日本では当たり前だと思われていることに驚くことがある。その話を聞いて日本人は新しい視点にはっとしたりすることがある。そういう本なんじゃないか、この本は。私はさしずめ、日本には興味があるけれど、まだ行ったことはない外国人で、先輩の旅行記を読んでいる感じ。
この本は、12年間ヴィレッジバンガードで働き、その後パン屋さん併設の小さな本屋を経て、現在HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEで店長を務める花田菜々子さんの、ほぼ実話である。あらすじはタイトルを読めばわかる。『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』。この本の前に発売された最初の本は『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』。この本もあらすじはタイトルでわかる。私はこの本にとても影響を受けたのだけれど、それはまた後で。「発売前にゲラが読める」キャンペーンに当選して発売日前にゲラを入手することができた。
花田さんと私は1つ違いの同年代である。前作で触れられたように花田さんは結婚経験があり、本作ではシングルファーザーの彼氏がいる。かたや私は40歳目前にして未婚、家庭を作る機会はこれまでになかった。い〜な〜、と身勝手なことを思いながら読み始める。
花田さんが小さな本屋で働いていた頃、Tと付き合うことになった。Tは8歳と11歳の子を持つシングルファーザーで、花田さんは彼の子どもたちとも付き合うようになる。そもそも子どもとどう接していいか距離感がわからない。そして母でない、家族ではない自分と子どもたちの距離感がわからない。花田さんは試行錯誤をしながら、一家に近づいていく。私も、身の回りに子どもがいないので、子どもとどう接していいかわからない。タメ口なのか、丁寧語なのか、口を開く前につまづく。好意はあるけれど、どうしたらいいかわからない。花田さんが書いているように、“こういうときにオバチャン、もしくは幼稚園の先生感丸出しで「ん〜?なあに?どうしたのかな〜?」とか言うと距離が開いてしまう気”がする。
子供と自然に接することができる人、慣れた人、適当に流してしまう人もいるけれど、花田さんはそういうタイプではない。友達が親のお金を盗んでいる話を聞いたらどう対応すればいいのか。知らない人に中指を立てたら何と言えばいいのか。やたら「ちんこ」を連呼したり見せてきたりする時にどう対応するのか。異性の子供なので、自分が決して性的加害者にならないようにする、そして彼らが性についてフラットな意識を持って育つには、どう伝えればいいのか。
赤ちゃんの時から子どもをみていることをスーパーマリオの1面からプレイするのだとすれば、6面から始めるような感じ、というようなことが本文に書いてあったと思う。想像だけでも大変そう。私自身がこれから結婚するのであれば、相手に子どもがいることもあるだろうし、自分の子どもが妊娠できなければ里子を迎えるという状況もあるので、全くひとごとではない。
両親と、血がつながっている子供から構成される家族からすれば当たり前で気付きもしないようなことを、花田さんは一つ一つ捉え、自分の頭で考えて、Tや子どもたち本人と話しながら関係を築いていく。この本の指定ハッシュタグは「#シン家族」なのだが、シングルファーザー/新/真…色々なものを含みながら、彼女たち4人はそれぞれ動きながら「シン家族」を作っていく。
新しい家族を作ることは、自分の行動に制限が出るし、めんどくさくて、ままならないことがたくさんあるのだろう。これまでそんなことはできやしないと思ってきたけれど、でも、最近、そしてこの本を読んで、そのめんどくさくて、豊かな経験をこの人生で味わってみたいな、と思う。メンバーが必要だから、私だけでできるものではないけれど。
結婚している人も、していない人も、子供がいる人もいない人も、大概の人には家族がいる。天涯孤独な人も対極の概念として「家族」があるだろう。多様にも関わらず、自分が知るものだけを当たり前だと思ってしまう不思議なもの、「家族」。初めて日本に訪れた外国人のように新鮮に家族を捉える花田さんの体験は、きっと自分にも響いてくる。
161.『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』 花田菜々子
<花田さんへのラブレター>
私は花田さんの『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』を読んだ時あまりに面白くて感想をInstagramに投稿しました。その後、「であすす」に書いてあった穂村弘さんにどハマりし、感想文専用のInstagramアカウントを作成しました。本の感想を読んでくれた友人や元同僚から「あれ私も好き」「気になって読んじゃった」と言われたりして、お互いに意外な一面を発見できたことが何度もありました。そして本の感想を書く際に自分を振り返ることで、自分自身と前よりも仲良くなれました。
そうこうしているうちに、マンガサイト「アル」でライターをするようになりました。(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEでのイベントレポートを書かせていただいたこともあります)書くことへのきっかけを頂いて本当にありがとうございました。引き続きHIBITA COTTAGEに寄らせていただいたり、文章やインタビューを楽しませていただきます。
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