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『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』 小島秀夫

彼が書いていなかったら、この本を途中で読むのを止めている。彼はネタバレを書いてしまうのだ。でも私は彼が好きなのと、紹介された本や映画がそれはそれは魅力的に書かれているので最後まで読んだ。そして図書館の予約を入れた。

独創的なゲーム作りで、世界中にファンがいるゲームデザイナーの小島秀夫さん。私はゲーム音痴でゲームができないが、前職のゲーム会社時代に彼のインタビューを見つけては社内に展開していた。豊富な読書と映画、音楽の知識。そしてそこから生まれる哲学。アイデアが尽きることがないという彼は、本書によるとほぼ毎日書店に通っているという。私の場合、毎週は通っているけれど、毎日行くことは考えなかった。さすが。

幼少期から本と洋画劇場に囲まれて育った小島監督が、『ダ・ヴィンチ』などに寄せたオススメ本や映画などのエッセイ。本だけでもSF『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)や『砂の女』(安部公房)『阪急電車』(有川浩)といった東西の小説からマンガ『海街diary』(吉田秋生)、息子と読んだ 大人気さがしっこ絵本 『ミッケ!』までジャンルは様々。これに映画『タクシードライバー』『クレヨンしんちゃん』まで紹介されていて、小島監督の幅広さに驚く。

全編から感じられるのが、小島監督の「好き」という気持ちと興奮。「僥倖」という言葉が何度も出てくる。あるタイミングである作品に出会えた喜び。それを受け取れるのは、センサーを高めて気づく者だけ。10分の1の「当たり」に出会うための訓練の一つが、毎日の書店通いだという。中島敦の『山月記』について。

己の毛皮の濡れたのは、夜露のためばかりではない。

この見事なまでの婉曲話法に、それまでの人生を否定されるくらいの衝撃を受けた。

私も教科書で読んで、この冒頭を知っているけれど、そのあと虎がどうなったのかも覚えていないし、記憶から呼び起こすこともなかった。なんて感性が豊かなんだろう。

そして彼の文章がうまい、にくい。

小さい頃、檸檬は唯一手に入る爆弾だった。

と始まる村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』についての文章。痺れる。嫌いな場所には必ずカリフォルニア産の檸檬を忍ばせて出かけたという小島少年が梶井基次郎の『檸檬』に代わる「爆弾小説」とて知った猛毒植物ダチュラをめぐる物語。『そして誰もいなくなった』のエッセイも心憎いのでぜひ。

ちなみに星野源さんとの対談も掲載されている。え、私のための対談なの?僥倖。ちなみに予約したのは男女ともに心を奪われてしまう雌猫についての話で、彼の『メタルギア』シリーズに影響を与えた『ジェニィ』(ポール・ギャリコ)。

152.『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』 小島秀夫

小島監督と3万字対談 〜今だから語り尽くす、ボクと本

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