『マンガ家再入門』 3, 4巻 中川いさみ
デビューから30年、描いたことがない新ジャンルの作品を自分が描いたマンガを読者に公開し、それを大友克洋さんや松本大洋さんという巨匠に見てもらうなんて…想像するだけで怖い。中川いさみさん、すごい。
1985年のマンガ家デビューから不条理マンガを描き続けている中川いさみさん。『くまのプー太郎』はアニメにもゲームにもなっている。そんな彼が新しくストーリーマンガを描くために、ストーリーマンガや各分野の巨匠たちにインタビューするマンガ。インタビューされる人がすごい。1、2巻に登場する人たちも大御所だが、3、4巻も圧巻。そしてついに中川さんが描いたストーリー漫画が公開される。
3巻の皮切りはマンガも手掛けた糸井重里さん。彼が思う面白いことと、その表現の仕方とは。そして児童文学の斉藤洋さん、『ケイゾク』などを手掛ける映画監督・堤幸彦さんといった他業界の巨人や、マンガ界『コウノドリ』の鈴ノ木ユウさんや、しりあがり寿さんが登場。彼らが作品を作り続ける中で編み出した方法や哲学が話される。こういった話は、同じく長きにわたって人気作を描き続け、彼らと信頼関係を築ける中川さんだから聞きだせる内容だと思う。終盤には中川さんが描いたストーリーマンガを前述の大友克洋さんや松本大洋さんに見てもらう回があるが、ここでのフィードバックはとても具体的。描き始める前にもこの2人へのインタビューがあるのだが、その時より話がグッと深くなっている。
これも1、2巻の感想で書いたことだが、中川さんの「人の話をマンガにして説明する」能力がすごい。抽象的な話を具体的な例にして、読者がイメージしやすいようにシンプルなイラストとお話にする。「ストーリーマンガは中に入る(主観的)、ギャグマンガは俯瞰(客観的)」という話を説明するときに、私だったらどうやってマンガにしたらいいかわからない。
一線で活躍し続ける人たちが経験から紡ぎ出す珠玉の情報が、みっちり詰まっている。マンガというジャンルにとどまらず、ビジネス、表現者としても大切な思考やエッセンスを伺い知れる貴重なマンガ。
279-280 マンガ家再入門 3, 4