『うたかたの日々』岡崎京子/ボリス・ヴィアン/ミシェル・ゴンドリー
働かないでも生きていけるちょっとした財産持ちのコラン。ある日美しいクロエという娘と恋に落ちて、幸せに結婚するが、彼女は胸に睡蓮が寄生する病気にかかり、どんどん没落していって…というのがあらすじ。鰻が水道管に住んでいたり、音楽に合わせたカクテルができるマシンが出てきたり、体温で武器を育てたり、心臓抜きが出てきたり、話に不思議なことが混じっている。1947年にフランスの作家によって書かれた小説で、最近の日本では直訳タイトルの『日々の泡』として出版されているらしい。
先日読んだ『注文の多い注文書(本99)』の中に『うたかたの日々』の胸に睡蓮が寄生する話が出てきた。1980年生まれの私は中学生の頃、美少女の吉川ひなのちゃんが活躍していた雑誌『CUTiE』で、岡崎京子の連載を読んでいた。心臓抜きなど不思議なものが漫画に描かれていたが、全然意味がわからなかった。何がしたいのかもわからなかった。あれから20年、外国文学は基本的に消化できない私が図書館で本を借り読んでみた。アマゾンで漫画も買った。調べたら映画も何本かあって、うち1つは常軌を逸したミュージックビデオをとるミシェル・ゴンドリーによるものだったので、原作・漫画・映画と違うジャンルのものを見比べて見た。
原作小説は、特に私はグッとこなかった。お、フランスっぽい軽妙なオシャレさとみょうちくりんなテイストの恋人たちの本だな、みたいな。解説が荒俣宏さんだったのでときめいたくらい。でもこれで漫画が何を拾っていたのか理解できた。
この頃の岡崎京子は絵が上手になっていて、とてつもなくオシャレ。取り上げたいことはたくさんあるけれど、一つだけ。写真にコランとクロエが出会うシーンを載せてみましたが、コランの汚れなき坊ちゃんっぷりとクロエの圧倒的な美しさ、そして時が止まった感が見事に現れていると思うんですよ!(そんな綺麗なクロエが表紙のようにボロッボロになる…)今見ても全てがオシャレなんだ、センスが素晴らしいけど、それはただ見た目がすごいというだけでなくて、深くすごいんだよ!語彙が乏しいから表現できないけど。
映画は原作の耽美さというより、みょうちくりんなところをいかに映像で表現するか、ということにフォーカスが当たっているように思う。クロエは『アメリ』のオドレイ・トトゥが演じているのだが、彼女は胸に蓮とか寄生されそうな病弱枠ではなく、不思議ちゃん枠ではなかろうか。出会った頃の有頂天な感じから没落して色がなくなっていく変化は映像ならではの表現。作中に、踊っている人たちの間に不思議な磁力?を発生させる特別なダンスが出てくるのだが、ミシェル・ゴンドリーならではじゃないのかなあ、とてもユニークなダンスだった。
多感な時期に読んだこともあって、私はやっぱり漫画の『うたかたの日々』が圧倒的にすごいと思うし、好き。原作あっての派生作品ではあるけれど、漫画を20年前に読んでいなかったら原作を読むことはなかっただろう。かつて、いろんな漫画や音楽、文化に触れておいて本当によかったと最近つくづく思う。今後の宝物を増やすために、また日々好きなものを追い、味わい続けるのだ。
漫画254 うたかたの日々 岡崎京子(1994-1995)
本102 うたかたの日々 ボリス・ヴィアン(1947)
映画15 うたかたの日々 ムード・インディゴ~うたかたの日々~ ミシェル・ゴンドリー(2005)
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