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HOKUSAI PROJECT Vol.6 【シンプルさ】
きっとこの絵を描きながら、この人は、鼻歌を歌っていたに違いない。
私が欲しかったのは、“Sure! (もちろんだよ!)”って言葉。
うまいとか、下手とか、そんなことは、どうでもいい。
それよりも、私のお願いに、手放しで、YES!と応えてくれること。
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「ね、少しだけ止めて!」
「急いでるから駄目。」
「ほんの少しだけ!」
「急いでるんだよ。後にしてくれ。」
真っ暗な夜の道に、蛍が舞ったのが、見えた気がしたのだ。
それに、真っ暗闇の中に、ほんの少しだけ佇んで、星を眺めていたかった。
たくさんの贈り物を貰ったけれど、いつも忙しく働いていて、ついぞ、彼自身の時間を貰うことはできなかった。
やがて二人は、違う方向に別れていった。
本当は、そんなこと、望んでいたはずじゃなかったけれど。
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幸せになるためには、お金が必要だ。
でも、お金を稼ぐことに没頭しすぎると、周りが見えなくなる。
周りが見えなくなると、側にいたはずの人が遠くなる。
バランスって、本当に大切なのだと思う。
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とても魚釣りが好きな漁師がいました。
漁師は好きな時間に起きて、釣りをして、子供や友達と遊んで、楽しく過ごしていました。
ある日、金持ちの男が、その漁師のそばにやってきて言いました。
男:「やあ、すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの?」
漁師:「そんなに長い時間じゃないよ。」
男:「へぇ、君は魚釣りが得意なようだね。せっかくなら、もっと働いてみたらどうだい?」
漁師:「自分と自分の家族が食べるには、これで十分だよ。」
男:「それじゃあ、余った時間で、一体何をするの?」
漁師:「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。
戻ってきたら、子どもと遊んで、女房とシエスタして。
夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう、一日終わりだね。」
男:「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、きみにアドバイスしよう。
いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。
部下を雇って、もっと売り上げがでたら、ボートも買おう。
そうしたら、仲介人に魚を売るのはやめて、自前の水産品加工工場を建てて、ビジネスを大きくする。
その頃には村を出て、ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。
きみはマンハッタンのオフィスビルから、企業の指揮をとるんだ。そうすれば老後もお金ができるよ。」
漁師:「なるほど、そうなるまでにどれくらいかかるのかね?」
男:「20年、いやおそらく25年でそこまでいくね。」
漁師:「へぇ、それからどうなるの?」
男:「そしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、 日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんとシエスタして過ごして、夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。
どうだい?すばらしいだろう。」
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今回絵を描いてくれたのは、私のお友達の、そのお友達のおじいさん。
私が、彼女にヘンテコリンなお願いをするのを側で聞いていて、自分も、と率先して描いてくれたらしい。
文字の背景にあるのは、北斎の絵の一部。(どこでしょう?笑)
メッセージに、こう書かれている。
“Thank you for getting the Art in us.”
(僕たちの暮らしの中に、アートを取り入れてくれて、ありがとう)
こういうウィットに富んだ感性が、私はとても好き。
どこの国の、どんな人にも、それぞれきらりと光る、何かがある。