【著作者人格権】作った人のもの?クライアントのもの?
デザインやイラスト、ソフトウェア開発など、様々な創作物を外注先に創作してもらうケースはよくあると思いますが、その場合の業務委託契約書に、下記のような文言がよく使われます。
乙は、甲に対して、著作者人格権を行使しない
甲が(クライアント)で発注者です。
乙が(ベンダー)で著作物を創作した側、著作者です。
この"著作者人格権"とは、どういうものでしょうか?
契約書の専門家がわかりやすく解説します。
1.著作権とは
似ていますが、著作者人格権と著作権とは異なります。
では先ず、比較的よく耳にする著作権とは、どういう権利なのか確認しましょう。
「著作権」という言葉は、2とおり意味があります。
①広い意味での、「著作権」
「著作権」は、著作権(財産権である著作権のこと。←狭い意味での、「著作権」)と、著作者人格権からなる権利です。
広い意味での「著作権」=狭い意味での著作権(財産権)+著作者人格権
②狭い意味での、「著作権」
上の①で述べた、著作権(財産権)です。
著作者が、自ら創作した著作物について有する権利のことです。(著作権法17条)
わかりやすく言うと、デザインやイラストなどの創作物を作った人が、その創作物の利用について独占できる権利です。そして、その創作物の利用について、他の人に許諾できる(利用させてあげる)権利と言うこともできます。
2.著作者人格権とは
それでは本題です。
上の①広い意味での、「著作権」を構成するのが、著作者人格権です。
著作者が有する「著作権」には、著作権(財産権)の他に、著作者人格権というものがある、というわけです。
著作者人格権とは、著作者が自ら創作した著作物について有する人格的利益の保護を目的とした権利をいいます。
逆に著作権の方は、財産権であり、著作者の経済的利益の保護を目的としたものです。いわゆるライセンスビジネスなどで、著作権を売ったり買ったりしてお金儲けするためのものです。
この違いが、著作権と著作者人格権との大きな違いになります。
3.一身専属権
そして、著作者人格権の最も大きな特徴が、著作者の一身に専属する権利であるという点です。
著作権法第59条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。.
ということで、著作者人格権は譲渡や相続の対象とはなりません。
したがって、
著作者が自ら創作したイラストやデザインなどの著作物に関する著作権(財産権)をクライアントに譲渡するように、著作者人格権も譲渡するということができませんので、
自ら有する著作者人格権という権利をクライアントに対して行使しません
と、契約書上で約束しているわけです。
4.どういう権利か
著作者人格権は、具体的には、以下の3つのような内容になります。
(1)氏名表示権(著作権法第19条)
自分の著作物に対して、自分の名前を表示するかどうか、そして表示する場合はどんな感じに名前を表示するかを決定することができる権利です。
(2)公表権(著作権法第18条)
まだ公表されていない自分の著作物を、公表するかどうか、そして公表する場合はどんな感じで公表するか(公表する時期や方法など)を決定することができる権利です。
(3)同一性保持権(著作権法第20条)
自分の著作物を、他の人に勝手に改変されない権利です。
発注したクライアントからすると、上記3つの権利とも、著作者に行使されてしまっては面倒なことはもちろん、発注目的を達成できない場合もあるかもしれません。
そこで、著作者に対して「これらの権利を行使しないこと」を求めるわけです。
5.まとめ
デザインやイラスト、ソフトウェア開発など、クリエイターと呼ばれる著作者側の権利が阻害され過ぎている契約書をよく見ることがあります。
著作者側としては、クライアントからお仕事をもらう以上、交渉のうえ、ある程度譲歩することはあっても、間違っても大して確認もしないで署名捺印することだけは避けなければいけません。
また、クライアント側としても、近年、企業におけるコンプライアンス保持が叫ばれ沢山のコンプライアンス違反事例が報道されています。特に下請法には注意し、まちがっても法令違反で事業継続が困難となってしまうなどといったことのないよう、著作者の著作権について考慮した、しっかりした契約書で取引をしなければなりません。
【ご相談は無料です。お気軽にご相談ください。】
当事務所は事業者の取引に必要な契約書の作成、リーガルチェックを多く取り扱っています。お気軽にご相談ください。
ご相談はLINE@でも可能です。LINE@
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?