「自由な個性と共同性の止揚」とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』
「自由な個性と共同性の止揚」 【じゆうなこせいときょうどうせいのしよう】
「牧歌主義的―弁証法的共同論」の核心部分に位置づけられる理念で、求められるべきは単なる「共同体=むら」の復活ではなく、あくまで「自由な個性」と統合された新たな形態として共同性を再構築すること(止揚)であるとするもの。
〈自立した個人〉に具体的なイメージを与えるものとしても重要な位置を占めてきた。90年代から2000年代にかけてNGO、NPO、ボランティア団体などが隆盛すると、まさしくそうした組織こそが一連の理念を体現しているとして評価されたが(「アソシエーション論」)、そこでの期待は現実との乖離を含み、今日から見れば過剰なものであった(とはいえ、「緩やかなつながり」や「開かれたコミュニティ」といった形で、この理念の派生物が同時代に希望を与えた側面は確かにあった)。
この理念の致命的な弱点は、弁証法、あるいは止揚(一見相互に矛盾して見えるものでも、互いに優れた側面を出し合うことによって相互補完し、より高い次元においては統合される)という「魔術的なレトリック」そのものにあり、図式としては巧みで美しく見えるものの、そもそも矛盾し合うもの同士がなぜ統合可能だと言えるのかについては、往々にして説明が欠落してきたと言える。
このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。
(現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。