「牧歌主義的―弁証法的共同論」とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』
「牧歌主義的―弁証法的共同論」 【ぼっかしゅぎてきべんしょうほうてききょうどうろん】
人間存在の〈共同〉をめぐって、20世紀の日本の人文科学において強い影響を及ぼしてきた枠組みで、かつて存在した「共同体=むら」を個性の埋没に象徴される前近代性の温床として批判しつつも、近代社会の諸問題(資本主義がもたらす人間疎外、物象化、個人の私人化、孤立化、モラルの解体など)を超克するためには、「共同体=むら」に存在した素朴な人間の共同性を、近代によってもたらされた「自由な個性」を失うことなく、「自由な個性と共同性の止揚」に象徴される新しい形態として再構築すべきだと考えるもの。
着想自体はマルクスが『経済学批判要綱』において描いた歴史観に由来し、分節化すると「自然主義の共同論」、「共同体批判の共同論」、「自由連帯の共同論」からなる。一連の思想は、史的唯物論の失墜後、人間論としてのマルクスの再解釈に挑んだ「第二次マルクス主義」の中核的な理論のひとつとなり、〈自立した個人〉の成立を理論的に説明するものとしても重要な位置を占めつつ、90年代から2000年代にかけてNGO、NPOの隆盛を受けて、公共性(公共圏)論、「アソシエーション論」という形で再び脚光を浴びることになった。
本書の〈共同〉をめぐる分析は、ここでの枠組みで想定されてきた、予定調和を前提とした魔術的なレトリックと「現実を否定する理想」の諸側面を脱構築し、人間的生の現実に即した〈共同〉の理論を再構築することを目的としている。
このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。
(現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。