迷い犬
曇天の山から
犬の鳴き声が
聞こえてくる
野犬は今じゃ
絶滅種だから
おそらく迷子の
飼い犬だろう
木々の隙間を
鳴き声だけが
走り回っている
ゆるやかな
坂の下から
散歩の男が
歩いて来る
ペースを乱さず
山のすぐ脇を
通り過ぎるが
まったく犬の声には
興味を示さない
まるで聞こえていない
そんな風体だ
いぶかしながら
声を掛けると
こちらを向いた
やはり聞こえている
ところが犬の鳴き声は
まるで聞こえていない
おかしなものだ
そう思って
山を見やると
曇天の重苦しさに
犬の鳴き声は
すっかり消えていた
私の耳にだけ
その存在を残して
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やりたいことなんて何もなかった放課後
ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆
帰る所があるから座り込んだ深夜の路上
変えたい何者かを捕まえられなかった声
振り向くばかりの今から届けたいエール