探究のお作法 「整理・分析」編
今回は、探究サイクルの第三段階「整理・分析」についてお話をしていきます。
疑問を持ったことから「課題の設定」をし、そのことに関する「情報の収集」をしたら、それらの情報を「整理・分析」する段階に進みます。
情報を「整理・分析」するのは中高生にとってはとても難しい作業です。課題解決に必要な情報かどうかを見極めたり、論理的・批判的に考えを進めたりすることは社会人になっても難しい仕事の一つです。
情報の整理・分析は、まず既に分かっている「事実の確認」から始まり、自ら得た情報による「事実の発見」、そしてそれらの事実に「意味の付与」を行い、最後に自分の主張や意見を入れて「判断を形成」していくという段階を経ます。
整理・分析のお作法その1は、「視覚化・構造化」です。集めた情報が多ければ多いほど、自分で混乱してしまい、どこから手を付けてよいかわからなくなってしまいます。そのようなときは、まず一つ一つの情報を単純化(キーワード一言で表す)します。そして、そのキーワードを図表として視覚的にわかりやすい構造として表すのです。
このときに役に立つのが「思考ツール」です。思考ツールとは、事柄の関係性等を図のかたちに整理することによって視覚化・構造化するためのフォーマットです。ロジックツリー図、マトリクス図(二次元マップ)、ベン図、フィッシュボーン図などの種類があります。
思考ツールの詳細の説明は省略しますが、小学館「みんなの教育技術」というウェブサイトに詳しく載っていますので、参照してみてください。
このように思考ツールを使うと、比較的簡単に視覚化・構造化し、調べた情報の関係性等を確認することができます。そして、整理している中で、不足する情報を追加で調べたりしながら、新たな事実を発見することができます。思考ツールは整理するガイドになっているので、その整理の意味を理解しておけば、必ずしもツールに頼らなくても自分の頭で考えて整理していけるようになるでしょう。
数値の情報(データ)については、分析することで新たな情報を得ることができます。もちろん、中高生の探究で難しい統計分析を行う必要はありません。簡単ないくつかの「表やグラフを作る方法を身につける」ことができれば十分です。これがお作法その2です。
分析の一番簡単なものは、属性で分けてみるということで、これを「クロス集計」といいます。たくさんあるデータを回答者の属性(性別・年齢・住居地域など)で分けてみて、属性による違いがあるかどうか比較してみましょう。クロス集計表に割合を計算して表記してみると、より分かりやすくなります。
※クロス集計表については、GMO Researchのウェブサイトをご参考に。
グラフ作りについては、小学校の算数で習う棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、帯グラフについて、その用途に合わせて正しく使うということで十分です。大小の比較であれば棒グラフ、数量の変化であれば折れ線グラフ、割合であれば円グラフ、割合の比較であれば帯グラフといった用途をきちんと踏まえてグラフ化すれば、ここからも分析の視点を得ることになります。
また、整理・分析の過程では、対話がとても重要です。お作法その3は「質問・対話による深化」です。一人で考えていると思考が混迷してしまうことがありますが、他の生徒や教員に質問をしてもらうと考えが整理されることがあります。その際、質問する側のスキルが重要となります。良い質問は「データの真偽」「方法の妥当性や意義」「論理の矛盾」「言葉の定義」「主張や意見の妥当性」等について突っ込みを入れるものです。生徒同士でお互いの探究の質を向上させるような場面では、同時に生徒の「質問力」を向上させることにも取り組むことが必要です。
最後に、整理・分析のお作法その4として「論理的に考える」ということを挙げておきましょう。論理的思考力は探究の全過程を通じて大切な力ですが、特にこの整理・分析の過程では中心的に身につけるべき力です。論理的思考力は、物事を体系的に整理して筋道を立て、矛盾なく考える力のことです。
先述したような整理・分析の方法を使えば自然と論理的に考えるようになりますが、情報がある程度整理・分析できた時点で改めて論理構成をチェックしてみましょう。「わかりやすく根拠が示されているか」「ストーリー展開に矛盾がないか」「論理展開に飛躍がないか」。論理に飛躍や矛盾があるとすべてが台無しになってしまいます。ここは重要なポイントですので忘れずに行うようにしましょう。
以上、整理・分析のお作法についてみてきましたが、この段階でもっとも大切なのは、「自分の考えや主張を入れる」ことです。そうでないと単なる調べ学習に終わってしまいます。探究として大切なことは自分の疑問から始まり、自分の主張・意見で終わることです。そのためにも、しっかりとここで自分の考えを踏まえて情報を整理・分析してストーリーを構成しておきましょう。
次回は、いよいよ探究の最終段階「まとめ・表現」です。