見出し画像

エンジニアリングマネージャーのしごと

良いマネージャーとしてチームに良い成果を出してもらうために、日々、毎週、毎月、自分は何をすべきなのかをガイドする本

オリエンテーション

スナップショットを作成する

チームが目指すべき方向について、自分の見解・上司の見解・自分のチームの見解を明らかにする。
それぞれを比較することで着手すべきことがわかる。

自己紹介をする
情報収集ができるように1on1の環境を整える。
チームが取り組んでいる課題や、それぞれが感じていること、プロジェクトの熱意や障害について聞く

全員と週次1on1をセットする
繰り返しで1時間。相手に都合の良い時間にしてあげるとよい。

上司と顔合わせMTGをする
基本的にはチームの1on1と同じ流れ。チームやチームのパフォーマンスに対する意見、それぞれの人となり、どう役割を果たせばいいかについても追加で聞いてみる

スナップショット


アクションリストを作成する

チームと話すべきこと: 下に対するコミュニケーション不足により起こる問題なら何でも話題に向いている。
上司と話すべきこと:  上に対するコミュニケーション不足により起こる問題については話すべき。誤った思い込みについても議論する。

まずは自分を管理しよう

整理整頓をしよう

メール、DM、対面での会話、ミーティングなどの情報に圧倒されないよう、頭のなかにとどめる情報を、なるべく小さくするシステムを築く。

カレンダー: 予定のブロックとリマインダーのセットをする。フローに到達する機会を得られるように、ミーティングをひとまとめに移し換える。
ToDoリスト: 自分のタスクがある唯一の場所であるようにする (二重管理せず、優先順位付けがここだけでできるようにする)
メール: メッセージを受け取る主要ソースにする (代わりに、メールをすべてSlackに転送してもいいかもしれない) 1日中メールを開いておくのではなく、1 日に何度かまとめてメールを見る時間を作る
情報を記録する場所: なにか思いついたときにすぐにスマホで記録できるようにしておく。(NotionやiOSのメモなど)

活動を分類して、自分のアウトプットを測る

  • 情報収集

  • 意思決定

  • ナッジング

  • ロールモデル

に分類することで、より良い時間の過ごし方ができる。
これらの活動を通して自分のチームと、自分が影響を与えた他のチームのアウトプットの合計が自分のアウトプットになる。

個人と働く

上手なコミュニケーションをするには

コミュニケーションの3つの媒体
- 会話によるコミュニケーション
- テキストによるコミュニケーション
- 非言語によるコミュニケーション … ジェスチャ、表情、姿勢、声のトーン
それぞれの媒体には特性があり、向いているコミュニケーションもあれば、向かないコミュニケーションもある。使っている媒体を意識し、伝えたいメッセージをいちばん適切に伝えられるものを選ぶ必要がある。
コミュニケーションの方法は相手に合わせる。

自分のエネルギーをマネジメントする
1日のなかで、定期的に今どんな気分になっているか確認する。フラストレーションを言葉で表さなくても、相手は、表情、腕組み、姿勢などから感情を読み取る。

悪いエネルギーを残さないようにする方法が2つある。
- 次に直接会う人に、現在の感情と可能ならばその理由についても伝える。相手は自分が原因でないとすぐに理解できるし、サポートしてくれることもある。
- 落ち着くまで次の活動を延期する。ミーティングであれば、まずは正直に言う。

「2 回測って1 回切る」という大工のことわざがある。木材は切ったらやり直せないので、切る前に正しいことを確認したいと考える。失敗したら、目的を果たせないので、最初からやり直しになってしまう。
コミュニケーションも同じで、マネージャーの言葉には重みがある。

一貫性を持とう
どのようなペルソナを身に付け、どの程度の調子で参加するかを決めなければいけない。基本的には、自分と自分のチーム、そして組織の文化によって、それぞれの会話での雰囲気は決まってくる。ただし、マネージャーはクラスのお調子者の役目を期待されているわけではない。

フィードバックをするには
徹底的な本音を伝える。
話す相手を個人として気遣い、考えていることを率直に伝える。

委譲

自分でやりすぎたり、丸投げをしない。
説明責任(=タスクを求められる品質で完了させる責任を持つこと)は委譲できない。渡したタスクを取り返すことはしない。

上司との連携

上司からの指示を待つのではなく、自分から動き出すことが最も重要。ミーティングを設定し、会話し、助けを求める。

パフォーマンスについて話す
- 上司から見て自分のパフォーマンスは?スタッフが満足していて定着し ていること? 納期どおりに完成している仕事の量? それとも、SLA などの厳密な数字?
- それらのパフォーマンスは何に依存しているか? チームがリリースするものすべてに説明責任を負っているのか?それとも、もっと抽象的なビジネスメトリクス?
曖昧な答えしか得られないかもしれない。もしそうなら、決めてしまう良い機会である。

ヒント:
成功しているマネージャーはマネジメントの仕事の合間に何をしているでしょうか? コーディングに没頭していますか? 他のマネージャーと一緒に部門を良くしようとしていますか? 後者の場合、どんな活動をしていますか?
組織内のマネージャーは、どうつながっているべきでしょうか? 自分のチームだけを気にしていればよいですか? 定期的に、デザイナー、プロダクトマネージャー、セールス、カスタマーサクセスのスタッフとも話すべきでしょうか?

これらの質問に対する自分の答えと上司の答えを組み合わせることで、どのようにパフォーマンスを考えているのかをお互いにとらえ直すことができる。また、最初からパフォーマンスについて話すことは、徹底的な本音の関係にとっても重要である。

マネージャーの世界の蓋を開ける
上司と1on1で下記のような質問をすることで、学習と成長の機会を増やせる
- 今週、気になっていたのはどんなことですか?
- 現時点でいちばんの心配事は何でしょうか?
- 他のスタッフはどうでしたか?
- 同僚は、どんなことをやっているんですか?

サマリーの力
毎週30 分とって、自分と自分のチームが関わっていた活動をメモに残し、どのように感じたか、どのような判断が必要で、 どのような判断を下したかを記録しておく。紙の上で扱うことで、問題もそれほど重大でないとか、難しくないことがわかる。
うまく書けないなら、4 つのP というアプローチを試す。
● 進捗(Progress):前回の記録から何が起こったか?
● 問題(Problems):どんな問題が起こったか、対処が必要なものは何か?
● 計画(Plans):問題に対してどのように取り組む予定か?
● 人(People):チームの人はどうか。 全員良い状態か? 辛い状態の人はいないか? 何を改善できるか?

上司にサマリーを送ることを知らせておく。返信が必要というわけではないが、チームで何が起こっているかを知らせたいと思っていることを伝える。もちろん、書いてあることに対するコメント、議論、批判は大歓迎であると添える

1on1

準備
アジェンダを記録するための共有ドキュメントを作る。
アクションを太字にする。

コントラクティング
最初の1on1を標準化する。
質問一覧を作って先に送っておき、両者が答える
①一番サポートが必要な分野はどこか?
②どんな形でフィードバックやサポートを受けたいか?
③一緒に働くうえでの問題はなにか?
④私のサポートがうまくいっていないことはどうすればわかるか?
⑤ミーティングの内容の機密性はどれくらいか?

(⑥よく人に誤解されることはなにか? とかもいいかも)

あなたではなく、相手のためのミーティング
できる限り「相手の頭の上に思考のフキダシを浮かべておく」必要がある。
思考を引き出すような質問をしたり、会話の方向性を示唆したり、適度に沈黙を使うなどをする。何よりも、話を聞く。
全体の70 % の時間は部下に話してもらうようにする。相手の代わりに問題を解決したいと思っても、それはしない。

会話のアイデア

  • アーキテクチャーの深掘り

  • プロセスの深掘り

  • 自分が読んだ関係しそうな記事

  • ティーチング

  • 部門や会社の方向性

  • フィードバックの収集

  • 自分が取り組んでいるタスクの共有


何が人を動かすのか

我々は仕事を通して、マズローのモデルのほぼすべてのレベルにおける欲求を満たす機会を得ている。それらに対し、マネージャーが貢献できる方法は、さまざまにある。

  • 所属の欲求

    • スタッフと強い関係を築くこと

    • 信頼を築き、成長を助けるために徹底的に率直なフィードバックを促し、実際にやってみせること

    • チームにいる人たちが尊敬するようなロールモデルになること

    • 自分自身とチームを組織の他の部分とうまくつなぎ、チームがずっと大きな何かの一部であると感じられるようにすること

  • 承認の欲求

    • 適切な賞賛と批判を通して、スタッフがしたことを確実に評価すること

    • キャリアアップに関する議論を円滑に進め、スタッフのレベルに合わせて、的確な職位と責任を持たせること

    • スタッフが自分の価値を高め、自信を深め能力を向上できるように指導と誘導をすること

  • 自己実現の欲求

    • 適切な仕事を適切なスタッフに委譲し、スタッフが学び、貢献し、成長する継続的な機会を 持てるようにすること

    • スタッフが仕事と、トレーニングやカンファレンスへの参加の両方を通して、新しいスキル を学ぶための環境を提供すること

    • アウトカムが的確である限りは、スタッフが選ぶ方法で問題を解決する自由を与えること

重要なのは、その仕事に合った人を探すのではありません。その人に合った仕事を探すという心構えと活動である。

キャリアレベルで発達の最近接領域を適用する
最近接領域(=独力では解決できないが、指導や協力を受けることで達成できる課題やスキルの範囲)
目指すキャリアのゴールからブレイクダウンし、その人にあったタスクをアサインできるようにする

大聖堂を建設する人か、バザールをぶらつく人か

大聖堂を建設する人は集中、安定性、純粋主義、クラフトマンシップを強く求めている。マネージャーとして、以下のような機会を提供する必要がある。
- 対象分野のエキスパートになる。
- チームの礎になる
- 広くではなく、深く進む
- 自分たちの道を他の人に見せる
- 詳細を楽しむ

バザールをぶらつく人はたくさんの喧騒を体験したいと思っている。興奮、多様さ、カオス、 変化を求めている。このような人たちには以下のような機会を与える必要がある。
- なるべく多く新しいことを持ってくる
- 構築し、捨てる
- 停滞を避ける
- チーム間を動き回る

評価面談

面談は欠点を粗探しするするためのものではない。褒めたり、批評したり、キャリアの目標を設定したり、将来を夢見たりするためのもので、あなたの優秀な部下たちは、誰よりもあなたの時間とエネルギーを必要としている。
ピアフィードバックを集め、面談に臨む双方がドキュメント化された資料に関わることで、あなたは自分の考えを慎重かつ簡潔に記し、前もって意見を交換するための十分な時間ができる。ミーティングのときには、すでに適切な情報は開示され、咀嚼され、理解されていて、サプライズにしてはいけない。

悪い知らせを受け取った人のリアクション

  1. 無視する

  2. 否定する

  3. 他人のせいにする

  4. 責任を引き受ける

  5. 解決策を見つける

前もって書いて共有しておくことで、ミーティングの前に資料を読んだスタッフは、頭のなかで1.~4. を進めることができる。そうすれば、ミーティングでは、5. に集中できるようになる。

面談フォーム

双方が合意した次の半年の目標、あなたの見解、部下自身の見解を含める。

あなたの見解
- この人物がこの半年でやったことのなかで、あなたを感心させたことは? あなたから見て、最大の実績は?
- この人物が集中して伸ばすべき部分はどこか? どんな特徴やスキルなら取り組めそうか? またはそこに到達するために、あなたが手伝えることは?

部下自身の見解
- この半年の自分の実績について考えてください。大きくても小さくても構いません。自分が成し遂げたことで満足しているものは? またそれはなぜですか?
- 現在の自分の役割についてどう思いますか? 前回の面談から、良くも悪くも変化しまし たか?
- この期間中で、もっとうまくできたと思うことはありますか? 自分の成長のために、どん なスキルを身に付ける必要があると思いますか?
- 会社での自分の将来について考えてください。どこに向かいたいですか? 成し遂げたい ことや取り組みたいことは何ですか? もしくは、自分自身の現状に満足していますか?
- 将来自分の望む場所に到達するために、どんな支援を必要としていますか?

当日やること

フォームとピアフィードバックにもう一度目を通して、絶対に議論すべきと思うものについて考えておく。
面談用ドキュメントに挙げたことを、そのまますべてミーティングのなかで触れようとするのは 大きな間違いで、時間の無駄である。ミーティングを、おおよそ3 等分するようにする。
- ここまでに過ぎた期間についてふりかえる議論
- 将来について話す前向きな議論
- 達成可能な目標を描く協調的な時間

この段階では、あなたがあれこれ言うより、相手の内省を促すほうが重要である。面談用ドキュメントで、すでに伝えているためである。その意味を理解し、どうしたいかをスタッフ自身が考え始める段階になっているのだ。

お金の話をするには

昇給について知らせるのは他の機会にして、相手にもそう伝える。お金に気を取られて、 パフォーマンスに関連する会話の邪魔をされないようにする。

スタッフの給与についての懸念にがある場合、その年はもうあなたがしてあげられることはないかもしれないので、将来どのくらい稼ぎたいかを話し合うきっかけの場として活用する。

採用

採用する人を選ぶ

  • いつもの1 週間のなかで、チームが遅くなったり止まったりするのはどこか?

  • QA がボトルネックになってタスクが止まっていないか?

  • チーム内でシニアなメンバーがいない分野はどこか?

  • チーム外に依存している特定の 種類の仕事があるか?

  • チームが新メンバーを選べるとしたら、どんな人にするか?

これがあれば合いそうだという特徴を探しておき、自分と似た人を探そうとしてはいけない。

職務記述書
どの会社説明も、技術用語を使わず、誰にでもわかりやすく、候補者の興味を引き、すぐに受け入れてもらえるような形で会社のビジョンを示している。他の例が知りたくなったら、よく知っているテック企業の職務記述書を見る。
候補者にやってほしい一般的なことを箇条書きにしたりはしない。
エンジニアの仕事は、抽象化すれば、ほとんどの会社で同じになる。
なぜ全社にとってこの役割が重要なのか、この会社で働くとはどんな感じか、どのような業務が含まれるのか? 可能であれば例を示す。
候補者が入社したらできるかもしれないポテンシャルに注目し、より応募し やすいようにする。
候補者に提示可能な給与レンジを常に明示する。
要求スキルの長いリストを使わないこと。ヒューレットパッカードでの、2014 年の研究[San13]によれば、役割で想定されるスキルリストを示された場合、男性はリストの60 % を満たせば応募したのに対し、女性ではすべて満たしていないと応募しないという行動が報告されている。

面接プロセス
守らなければいけない重要なルールが1 つある。どのレベルの面接でも、全員が良い経験をすべきだ。
ポジションが得られなかった場合でも、候補者は理由を知らされるべきです。将来、もっと合う求人が出た場合は、また応募することを勧められるべきである。

面接の前に応募書類を読んで、興味のあるところをハイライトし、聞きたい質問のメモを作る。

面接では無意識な偏見を意識し、ベテランの面接官を見つけてアドバイスを求める。

技術課題
候補者と一緒に問題解決を行う。
解決方法が複数ある問題を選ぶ。
候補者は緊張していて、慣れた環境でやっているわけではないことに配慮する。

チームを超える

マネージャーのアウトプットとして、あなたが影響を与えた他のチームのアウトプットを計測するとする。他のチームに影響を与える機会を増やせば、自分自身のアウトプットを向上する機会も増えることになる。それゆえ、広い人脈を持つことは重要である。
競合に立ち向かうセールスの人たち、クライアントと直接仕事をするカスタマーサクセスの人たちなど、ビジネスの最前線にいるスタッフが、マーケッ トにおけるプロダクトの現況をいち早く把握する。あなたは単に、現場から遠く離れている。
最前線にいる人たちと良 いコミュニケーションのラインを持つと、マーケットの状態にあわせてすばやくビジネスを調整できる。

定期的な接点を増やすとよい相手
● 部門内で良い印象がある人、または尊敬している人
● 社内でいちばん目立つ人、またはいちばん成功しているセールスの人
● あなたのソフトウェアのマーケティングに関与している人
● 社内におけるあなたのソフトウェアのパワーユーザー


昇進

キャリアラダーは主観的なものである。
生産性や影響力を実証的に計測することはほぼ不可能である。
昇進というものはすでにそのポジションに到達したことを認めるものであるはずです。昇進はサプライズであるべきではない。

出典

James Stanier; 吉羽 龍太郎: 永瀬 美穂: 原田 騎郎:竹葉 美沙. エンジニアリングマネージャーのしごと. オライリー社. 9章まで