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「私が書いた理由」共同通信・47リポーターズ

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共同通信が配信している深掘り記事「47リポーターズ」について、執筆記者が取材の経緯や記事に込めた思いを語ります。
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#取材

ウクライナから避難した3歳のマキシム君との思い出(一期一会も記者の醍醐味)

こんにちは。徳島支局の別宮裕智です。 入社して8年、島根、福岡、東京と赴任し、徳島は4カ所目になります。共同通信社のインターネット向け記事「47リポーターズ」は、徳島に赴任してから初めて書きました。普段、字数の限られた新聞紙面向けに記事を書く際は書き切れなかった内容を、こんなにも生かせるのかと驚きました。今年3月から8月にかけて5本書きましたが、中でも初めての47リポーターズとなったウクライナから避難したサーカス団員の記事について、思い出深いエピソードを紹介したいと思います

「風化」と「継承」-2つの惨事がたどった30年の軌跡

こんにちは。共同通信の森脇江介です。今年3月に特派員としてアフリカ・サハラ砂漠以南の約50カ国を担当するケニア・ナイロビ支局に赴任しました。赴任直後に取り組んだのが、発生から30年となったルワンダ大虐殺の取材でした。 以前神戸支局にいたときに取材した阪神大震災は、来年で発生30年を迎えます。ルワンダ大虐殺はほぼ同じ時期に起き、約80万人が亡くなった大惨事です。自然災害とジェノサイド(民族大量虐殺)という違いはありますが、悲劇的な事案がどう継承されているのか、気になっていまし

悪路の先にあったのは「奇跡」のような自主避難所だった。葛藤を抱えながらも伝えたいと思ったこと

こんにちは。名古屋編集部の平等正裕です。 2月下旬から1週間、能登半島地震の被災地に入りました。断水が続いていた石川県珠洲市で、住民やボランティアが協力して水を確保した自主避難所を取材し、以下の記事にまとめました。 地震発生から間もない1月中旬には、金沢支局の西岡克典記者もこの避難所を訪れていました。記事にはその際の様子を十分に盛り込めず、心残りがありました。被災地を拠点に活動する西岡記者と、応援で現地入りした私(平等)。今回のnoteでは、立場が違う2人の目線を通じて、

「虐待」と書いてよかったのか。奈良のシカ保護団体を取材して

こんにちは。奈良支局の佐藤高立です。 私は現在、行政担当として、神さまの使いとして古来大切にされてきた奈良市の天然記念物「奈良のシカ」を継続的に取材しています。 昨年夏以降、ふだんはほのぼのとした話題ものが多いシカ取材に異変が起きました。きっかけは、獣医師による1本の通報です。 疑惑の現場は鹿苑のうち「特別柵」と呼ばれるエリア。農作物を荒らしたシカが200頭以上収容されています。 メディア各社は一斉に疑惑を報道し、奈良県や奈良市もそれぞれ調査に乗り出しました。調査の結果

いいことずくめのうまい話なんて…あった!漁師の新たな選択肢「完全受注漁」とは

こんにちは。大阪経済部の我妻美侑です。 私は岡山支局員だった昨年の夏、新たな漁業の形を生み出したご夫婦を紹介する新聞用の記事を書きました。そこでは書き切れなかった話を盛り込んだ「47リポーターズ」が、今年1月に公開されました。 記事はこちらです。 皆さんは普段、魚を食べていますか?私はお寿司や海鮮丼が大好きですし、定食屋さんの焼き魚、煮魚も大好きです。一方、さばいたり調理したりを面倒に思う気持ちから、自宅で食べることはほとんどありません。周りでもそういう人は増えている感

福島原発事故を伝え続ける

はじめまして。大阪社会部の西村曜といいます。 普段、大阪市役所の担当をしているのですが、継続的に東京電力福島第1原発事故で生活が大きく変わってしまった福島の人々についても原稿を書いています。 日々の担当業務とは別に、自分の追いかけたい分野の取材を続ける記者というのはままおりまして、わたしもそんな一人です。 先日、冒頭のようなことを先輩に言われて、今回のnoteを書くことになりました。日本中に原発事故を取材する、もっともっと優秀な先輩記者たちがいるので偉そうなことは言えな

戦争を経験した101歳が記者に教えてくれた言葉。そして、偶然の連続が導いた奇跡とは…

「人生は宝物を作る過程です」 これは、戦争を生き抜き、地域の歴史を本に記し続ける101歳の男性からいただいた言葉です。 私の胸に深く残り、思い出すたびにやさしい気持ちになれます。 今回のnoteでは、記者が偶然の連続で101歳の小野寺宏さんと出会い、さらなる奇跡のような偶然で、約900年の時を経て、平安武士の兄弟の末裔が巡り合うことになった物語をご紹介します。 ■ 陸軍士官学校56期生との出会いこんにちは。大阪社会部の中川玲奈です。 私は大学時代、日本史を専攻してい

ふとしたきっかけで踊り子に…県外出身の私たちが心奪われるまで

■「にわか連」に心奪われはじめまして。「踊る阿呆」の伊藤美優です。昨年4月から共同通信社徳島支局で記者をしています。皆には「デイジー」と呼ばれますが、なぜかは分かりません。 私が初めて阿波おどりを見たのは、昨年の春でした。入社式で初任地が徳島と伝えられ「阿波おどりと渦潮…?ワカメ?」くらいの知識しか持ち合わせていなかった私は、ひとまず引っ越してから1週間後にあった「春の阿波おどり」というイベントに行ってみました。 「わ~これが阿波おどりか~楽しいな~♪ヤットサー♪」 「

羽田航空機衝突事故の「その後」を追って

年明けから衝撃的なニュースが相次いだ2024年。 今回は、1月2日に起きた羽田空港滑走路で起きた日本航空(JAL)と海保機の衝突事故に遭遇した、乗客の「その後」を追った記事の裏側をお伝えします。 ■ 「まずは現場に」こんにちは。社会部の助川尭史です。私は昨年5月に大阪社会部から東京本社の社会部の配属になり、普段は国税庁の担当記者として、主に経済事件や税に関するトピックスを扱っています。 ただ、ひとたび大きな事件や災害が起これば担当に限らず、多くの記者で取材に当たるのが東西

「普通の年になりますように」豪雨被害を受けた秋田の農家の願い、原点とつながり続ける記者の活動

こんにちは、青森支局の赤羽柚美です。私は昨年7月の秋田県での豪雨被害で知り合いの農家を取材し、以下の記事を書きました。 ただ、この記事では、私が農家の佐々木義実さんを豪雨被害の前から知っていたことには触れず、佐々木さんが米作りにかける情熱を伝えきることができなかったのではないかという思いが残りました。 なぜ佐々木さんが山あいの田んぼを続けてきたのか。 どうして青森の記者である私が佐々木さんを取り上げたのか。 今回は、記事を書いた理由をストレートに伝える大阪支社noteと

国を動かしたのは「報道の影響力」? 受刑者のマイナンバーカード、法務省が取得支援に転じるまで

こんにちは。高松支局の広川隆秀です。 2023年10月末、法務省が受刑者のマイナンバーカード申請・取得に関し、「便宜を図る必要はない」としていた方針を改め、必要な支援を認める通知を全国の刑務所に出しました。 受刑者とマイナンバーカード。 このテーマ、僕の個人的な興味から長らく取材してきたものでした。 そのため、今回の方針転換は受刑者が社会復帰する際の一助につながるのではないかと期待しています。   「なぜ法務省は方針を一転させたのか?」 「どうしてこの時期だったのか?」  

「教育理念は残したい」来春廃止の少年院で教官に聞きました-松山学園座談会【後編】

非行少年の中には、過去の経験から大人に対する不信感を強く持つ人も多くいます。一番身近な存在であるはずの親や家族から虐待を受けた人、学校でのイジメを経験した人、信頼していた大人から裏切られた人。 非行の背景をつぶさにみていくと、一人一人に汲むべき事情があるのも事実です。 そのような少年らにとって、少年院の教官が初めて自分を受け入れてくれた大人だったというケースも少なくありません。 法務教官はどのような思いで施設に入ってきた少年と接しているのでしょうか。教官になった経緯から、

「暗くて怖い?」密着して見えてきた少年院の温かさ-松山学園座談会(前編)

少年の更生を目的として全国に設置されている少年院は、近年廃止が相次いでいます。法務省によると、2017年末時点で52あった施設は毎年減り、2023年度は44。主な背景に人口に占める少年の比率が下がり、少年事件も減少している状況があります。 共同通信が47リポーターズで取り上げた松山学園も廃止が決まった少年院の1つ。11月9日には閉庁式も開かれました。普段なかなか入ることのできない少年院を取材し、記者は何を思ったのでしょうか。 また、松山学園は設置から今年で70年。多くの少

差別に向き合う―記者とデスクのやりとりから

今回は、記事が出るまでに記者とデスクとの間でどんなやりとりがあるのか、1本の記事を巡ってのやりとりを紹介したいと思います。  こんにちは。大阪社会部デスクの角南圭祐です。今年9月1日は、「防災の日」の起源ともなった、関東大震災から100年の日でした。関東大震災では、震災直後の混乱の中、「朝鮮人が暴動を起こした」などのデマが広まり、軍隊や警察、民間人の自警団などによって、多くの朝鮮人や中国人、社会主義者らが虐殺されました。共同通信も、虐殺の事実を見つめ、現在も続く差別の実態を