見出し画像

【今日の短歌】躁鬱の森を抜け出し父は今 桃源郷の詩を口ずさむ

躁鬱の森を抜け出し父は今
桃源郷の詩を口ずさむ

「お父さんのこと
人に言ったらあかんよ」
母から釘を刺されていた

心の病が
今ほどオープンでなかった時代
就職や結婚にひびくと母は言った
今だって偏見を持つ人は多い

いつも眉間にシワを寄せていて
機嫌が悪い
幼い頃はあまり話した記憶がなく
父は無口な人なのだと
ずっと思っていた

だからわたしは
父性を知らない

良くなったり(正常)
悪くなったり(鬱)
良くなりすぎたり(躁)
そのたびに家族は振り回される

家の中の空気が重く
心に影を落とす

小学生から思春期にかけてわたしは
そんな父を毛嫌いし反発した

苦痛の種だった会社を早期退職し
病は回復していく
いくつかの嘱託を経て

父は今
地域活動や
漢詩の世界に生きている

軽い認知症だけど
いつもニコニコ笑っている
そして実はおしゃべりな人だった

わたしも年を重ねるにつれ
父のことがわかっていく
あの頃に父が見ていた風景
そして今の父が綴る詩

漢詩はちんぷんかんぷんだけど
父の詩に
桃源郷という言葉を見つけた
今が幸せであってほしいと願う


#短歌 #今日の短歌

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集