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ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

注意! ネタバレ有り。

映画館で「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」を観ました。
監督:トッド・フィリップス

公開初日の金曜日、昼間の回、IMAX じゃない普通のスクリーンで字幕版を観ました。
観客は20人くらい。
パッと見た感じ、20代~30代の男性ばかりでした。
バーチャル美少年の僕以外に10代の学生さんが居なかったのは、まあ当然でしょう。
お年寄りが居なかったのは少し意外でした。
女性客も居なかったです。

映画が終わって客席が明るくなった時の雰囲気は、皆さん気持ちが消沈しているようでした。いわゆる「お通夜ムード」
僕自身の偏見・先入観で、そう見えただけかも知れませんが。

客席の横にある階段を降りて出口に向かう時、近くにいたお客さんが、
「おぅえあっ……ふうっ」
っていう意味不明な声を小さく発していて、怖かったです。

では、ネタバレ感想に入ります。

(少し、間を空ける)

この映画は、本国アメリカで非常に低い評価を受けています。
正直に申しまして、僕がこの映画を観ようと思い立ったのは、アメリカでひどい低評価を受けているというニュースを目にしたからです。
あんまりめられた事じゃないですけど、一種の「怖いもの見たさ」で行きました。
そんなに酷いなら、ひとつ試しに見てみよう、っていう感覚です。

で、公開初日に観て来たんですが、案外、悪くなかったですね。
ミュージカル仕立ての妄想シーンは如何いかがなものかと思いましたが、それを除けば、けっこう面白かったです。

アメコミ映画全盛期、2000年代後半から2010年代前半あたりにかけて、「正義のヒーローの相対化」っていうテーマの映画が何本か作られましたけど、この映画はその逆バージョンでした。
「悪のカリスマの相対化」とでも申しましょうか。

正義のヒーロー相対化映画のテーマは、
「ヒーローのやってる事って、本当に正義なの?」です。

対して、悪のカリスマ相対化映画である「フォリ・ア・ドゥ」は、
「悪のカリスマって、実はカッコ悪いよね」がテーマです。

正義のヒーロー相対化映画では、なぜかバットマンが1番の槍玉やりだまに上がっていたように思います。
大金持ちのイケメンっていうキャラ設定が、叩きやすかったのでしょうか?
その中でも一番評価が高いのが「ダークナイト」でしょう。
批評家だけでなく多くの観客にも喜ばれ、興行的にも大成功を収めたと記憶しています。

その結果、何が起きたかというと、皮肉なことに主人公バットマンじゃなくて敵役のジョーカーが悪のカリスマとして熱烈に支持された。

「フォリ・ア・ドゥ」の前作「ジョーカー」はバットマンの本筋に組み込まれない単発の作品でしたが、「ダークナイト」のヒース・レジャー版ジョーカーに続いて、ホアキン版ジョーカーも怒れる民衆の代表として人気が出てしまった。

で、その次の作品、つまりこの「フォリ・ア・ドゥ」で製作者たちが何をしたかというと、かつてバットマンの正義が相対化されたように、今度は「悪のカリスマのカッコ良さ」を相対化したんだと思います。
「悪のカリスマなんて、そんなカッコ良いものじゃねぇんだぞ」と。

そして……これは製作者が意図したことなのか、結果としてそうなっただけなのかは分かりませんが……「正義のヒーローの相対化」と「悪のカリスマの相対化」の合わせ技で誰が一番相対化されたかっていうと、僕ら観客ですよね。

「正義が悪をなぐってる所を見て喜び、悪が正義を殴ってる所を見て喜ぶ……お前ら結局、誰かが誰かを殴っているのを見て、スカッとしたいだけじゃねぇか」っていう。

ま、その通りなんですけどね。こちとらフィクションを観に来てる訳ですから。
現実は現実、フィクションはフィクション、両者は別物……なんて事は、義務教育で履修済みです。

ミュージカル仕立て

全体としては割と面白い映画でしたが、やっぱりミュージカル仕立ては失敗だったと言って置きたいです。

本筋のストーリーとミュージカル仕立ての妄想の切り替わりが、あまりにも無造作でブツ切れだし、そもそもミュージカル・パートのクオリティが低すぎる。
レディ・ガガはともかく、主演のホアキン・フェニックスはお世辞にも歌が上手いとは言えないし、背景のセットも「やっつけ仕事」だし。

「ホアキンの歌が下手なのも、背景のデザインが低クオリティなのも、すべて計算の上です。これは表現主義です。アーサーの妄想が低クォリティであることを表現しているんです」
こんな言い訳が可能だったとしても、その妄想シーンの分量が多すぎるんですよ。

ミュージカル・シーンと呼ぼうが、妄想シーンと呼ぼうが、どちらでも良いですけど、それに頼り過ぎていますよね。

聞くところによると、ある晩ホアキン・フェニックスの夢枕に歌って踊るジョーカーが現れて、それでパート2の製作が決まったそうです……ほんまかいな。

ラスト

ミュージカル妄想に頼り過ぎた構成がこの映画最大の欠点である、という僕の意見には皆さんも同意して頂けると思いますが……じゃあ、どうするのが正解だったのか? と自問しちゃいますよね。

先日、第1作の「ジョーカー」を Netflix で再視聴しました。
その感想記事のリンクを貼っておきます。

この記事で僕は、

おそらく、本来のバットマンの世界観に則るなら、このあと主人公は悪のカリスマとしてジョーカー団を率いてゴッサム市の暗黒街で悪の限りをつくし、バットマンと丁々発止の頭脳戦を繰り広げる事になるのでしょう。

しかし、このジョーカーに関しては、ちょっと、そういう未来は描きづらいと感じました。
悪のカリスマすなわち「高い知能を持ったサイコパス」とは、真逆の性格付けだからです。

京モウソヲ潟郎

と書きました。

単発の映画なら、「脳に障害を負った心やさしき男が、世間から見放され、馬鹿にされ、ついに溜め込んだ怒りを爆発させる」という変化球も許されるでしょう。

しかし、パート2、パート3とシリーズ化されれば、いずれ本来のバットマンの物語に収斂しゅうれんせざるを得ない。
そのためには、

・ホアキン版ジョーカーのキャラ設定
 「脳に障害を負った心やさしき男」

と、

・バットマン・シリーズ本来のジョーカーのキャラ設定
 「高い知能を持ったサイコパス」

の間の大きなギャップを埋める必要があります。

「この部分をどう処理したのだろう?」という興味が、「フォリ・ア・ドゥ」を観に行った理由の1つです。

実際に観に行った結果、
「若い男がアーサーを殺し、次のジョーカーになると匂わせて終わる」
という幕引きに、なるほどなぁ、よく考えたなぁと感心しました。

この若い男こそが我々の良く知る「本物の」ジョーカーであり、アーサーは出来そこないのジョーカーとして廃棄処分されました、と。

ラストには感心したんですが、そこへ至る道筋みちすじには感心できませんでした。

「アーサーが殺され、殺した男が『本物の』ジョーカーになる」という最後のドンデン返しから逆算して、ハーレイ・クイン(らしき人物)を登場させ、アーサーとの恋愛模様を描く。
僕らは、ジョーカーとハーレイが恋人であるという「公式設定」を知っていますから、
「紆余曲折あっても、最後にはアーサーが本物のジョーカーになるのだろう」
とミス・リードされる。

いっけん良策のように思えますが、僕は、このハーレイ・クインがらみのストーリー・テリングは悪手だと感じました。
アーカム病院に閉じ込められたままのアーサーと病院の外にいるハーレイの恋愛ドラマをラストの少し手前まで描き続け、観客をミス・リードし続ける必要があるからです。
このコストは馬鹿にならない。

裁判を通して、
「アーサー → ジョーカー → 再びアーサー」
というキャラクター曲線を描き切ることが映画の目標である以上、 ボニー&クライド的なヤケっぱちの恋を燃え上がらせる展開は難しい。

さりとて純愛として描くと、ハーレイがアーサーを捨てるというラストの展開に無理が出る。

この無理筋むりすじ誤魔化ごまかすために、何度もミュージカル妄想シーンが挿入されているように、僕は感じました。
妄想の中ならどんな描写も可能だし、その中でラブラブなアーサーとハーレイを何度も描写することで、本当はアーサーに酷薄な現実のハーレイを隠し通せますから。

しかし肝心のミュージカル妄想シーンの出来が悪いのは、前述した通りです。

やっぱり、ハーレイ・クインもミュージカル妄想も無しで物語を成立させるべきだったと、僕は思います。

ホアキン・フェニックス

5年前のパート1の時とは、明らかに芸風が変わっていますね。
それが意図的された演出なのか、5年という歳月がホアキン・フェニックス自身に変化をもたらした結果なのかは分かりませんが。
それと、歌が下手でした。

レディ・ガガ

歌唱力はともかく、女優としての演技が物凄ものすごく良いという印象は受けませんでした。
だからといって、悪い演技でもないです。まあ普通でしょうか。

アーカム病院

パート1のアーカム病院と、このパート2のアーカム病院の建物が違っています。
建物の内部も、パート1の時は白一色の如何いかにも病院らしい内装でしたが、今回は古くて薄汚い刑務所のような内装です。
一貫性が無いように感じました。

ところで他のバットマンでは「アーカム収容所アサイラム」っていう名前だったと思うのですが、このシリーズでの呼称が「アーカム病院ホスピタル」なのは、何か理由があるのでしょうか?

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